上 下
26 / 29
第2章~怠惰な召喚術師と夢見る少女~

第26話:スライムの美化活動/サキュバスのコンプレックス

しおりを挟む




「……行ってきます」

 早朝、運動がてら日課の散歩に行く。

 最近学校に登校し始めるまで、一日中家に引きこもってシェイプスターに出席を代行させていた。 何か目的があるわけではないが、しいて言うなら健康のためである。

 一日中、家に居るのは楽だがなんだか気が滅入るのだ。

「召喚《サモン》」

 そして散歩の時、ただ一人で歩くのもつまらないのでいつもスライムを連れ歩くことにしている。

「今日も頼むな」

 スライムは任せろとでも言いたげに体を震わせた。

 歩き出すと道端にポイ捨てされたゴミがわりと落ちている。 それを拾うほど僕はきれい好きではないけれど、ほんの僅か気になるのだ。

「それはゴミだよ」

――ぷるぷる

 ゴミを前に固まるスライムに教えてやると、スライムは嬉しそうに震えて落ちていた酒の空き缶を取り込んだ。

 そして最近、ゴミを取り込むスライムの様子を動画にして投稿することにより、小遣い稼ぎができないかと密かに目論んでいる。

『モンスターを連れ回すな』

『逃げて人を傷つけたら犯罪だろ』

『殺して素材剥ごうぜwwww』

 しかしダンジョンが現れ十数年経ち、冒険者が認知され、ダンジョン内やモンスターを動画や写真で誰もが見慣れていても、モンスターを過剰に拒絶するコメントが多かった。

 昔、ダンジョンが出来初めの頃は、氾濫調査などで死傷者が出る事故もあったらしいので当事者は仕方ない。

 しかし当時を経験していない若者ですら、一部はモンスターを怖がる。 それは知らないモノ、分からないモノを遠ざけたいという、人間の単純な心理だ。

 召喚術師としては、外でモンスターを召喚できれば便利なのでいつか召喚モンスターを気軽に連れ歩くことが出来る世の中を望んでいる。

「それにバズったら小遣いにもなるしな」

 今は獅々田さんに金銭的な援助を全面的に受けている状態だ。 小遣いももらっているが、さすがにそれは心苦しい。

「バイトしたいけどな……」

 魔力を魔石に込めるというバイトなら、僕は相当稼げるだろう。

 しかしそこで異常な魔力量であることがバレると、実家に居た時と同じ末路を繰り返すハメになることは明らかだ。

「こんにちは、いつもありがとうね」

 通りすがりのおばちゃんがスライムを撫でてほほ笑む。

 この時間いつもランニングしているらしく、この美化活動をするスライムを怖がらず、感謝してくれる唯一の人だ。

『スライム震えてて可愛い』

『私もスライム欲しい』

『うちの町にも来て欲しい』

 動画でも少しずつ好意的なコメントも増えてきてありがたい限りだ。 バズってお小遣いという目標にはまだまだ程遠いけれど。

「そろそろ帰るか」

――ぷるぷる

 まだまだスライムは食べたりないみたいだが、人が増えてくる前に帰るべく僕はスライムの召喚を解除して家へと帰るのであった。






 サキュバスとはイメージと言えば性的ものが多い。

 露出の多い姿をしているとか、人間離れした容姿にスタイルをしているだとか。 淫夢を見せるとか、勢力を奪うとか。

 しかし我が家のサキュバスに関しては人間離れした美しい容姿とスタイルの部分しか当てはまらない。

 彼女はそのことをコンプレックスに感じているらしく、改善しようと努力はしている。

「な、なんとハレンチな」

 ある日、部屋でサキュバスを呼び出すと、彼女はシェイプスターの読み終えた漫画のグラビアを見て慄《おのの》いた。

 そこには布の薄い水着を着て、谷間を、臀部を爽やかな笑顔で見せつける美女たちがいた。

「私は人間にも負けているのですか……」

 彼女は決意に満ちた目で僕を見て、言った。

「私サキュバスとして頑張ってみるので、アドバイスもらえますか?」
「いいよ」

 僕は軽い気持ちで了承した。

 そして彼女は嬉しそうに着ていた制服を脱ぐとそこには――――





「おーい、起きろ」

 僕はシェイプスターの声で目を覚ました。

「ん……寝ちゃってたのか」
「ああ、お前には刺激が強かったみたいだな」

 そう言われ、違和感を感じ鼻に手を当てると穴にティッシュが詰め込まれていた。

 一体何が起きたのか記憶が定かじゃない。 ただ意識が飛ぶ前にものすごい光景を視たような気がするんだけど、どうしても思い出せないのだ。

「申し訳ありませんでした……」
「まあ、お前は空亡の前ではそのままが一番ってことだな!」
「はい……」

 サキュバスはなぜか落ち込んでいるようだ。

「そんな落ち込まないでいいよ。 そんな思いつめないで少しずつ頑張ろう、僕男付き合うからさ」
「ならさっさと大人にならなきゃな。 はは、何年かかることやら」
「ありがとうございます……ぐす」

 よく分からないままサキュバスを慰めて、なんとか丸く収まったようで僕は安心した。

 そして彼女を見るとどうしてか胸が高鳴ってしまうことに、僕は首を傾げるのであった。




しおりを挟む

処理中です...