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1話:転生者(モブ)の日常
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窓から暖かい風が吹き付け、黒板を叩く渇いた音が響く。
教師の声、外から聞こえる生徒たちの声。 俺は浅い夢を見ながらノスタルジーに浸る。 そして二度目の人生を生きている幸せを感じた。
「おーい、フランツ。 起きろー」
軽い衝撃にのそりと体を起こすと、周囲から面白そうな忍び笑いが聞えた。
「お前~そんなに俺の授業がつまらないか~?」
「いいえ! 先生の歴史の授業はとても勉強にはなるのですが、まるで詩人のように心地よい語りなので……」
「そんなおべっかはいい。 次のページを朗読しろ」
先生に言われて俺は机の上で枕代わりとなっていた開かれてもいない教科書を手に取った。
「26ページですよ」
隣の席の女子がこっそり教えてくれる。
「え~これは王国が国となる前の話。 世界が邪悪な神によって滅ぼされかけていた頃、一人の王が異世界召喚を行い勇者と共に世界を救った。 そして築かれたのが○○王国である……」
授業が終わると俺は隣の女子に勇気を出して声を掛ける。
「さっきはありがとうございます。 アリストテレス様」
彼女は困ったように笑んで首を振った。
「大したことじゃありませんよ。 それより敬語も、敬称も不要です。 私たちはクラスメイトなのですから」
「う、うん。 分かってるんだけど、つい」
俺たちと同じ制服に身を包んでいても、隠しきれない圧倒的なオーラ。 見た目から、些細な所作から彼女が高貴な人であることは誰が見ても分かるだろう。
彼女、アリストテレスはこの国の第三王女なのだ。
「そういうアリストテレスも敬語じゃないか」
「私は誰に対してもそうですから」
俺の名前はラブル・フランツ、低級貴族の四男で、勉学並、運動並、戦闘力並。 転生者であるが平穏な生活を望むモブキャラだ。
ちなみに王女殿下と席が隣になったのは単なる名前順である。
〇
「おい、お前。 さっき殿下と何を話していたんだ」
昼、食堂にて目を血走らせた少年カリストロが言った。
「いや、ただ授業中に助けてもらった感謝を伝えただけだよ。 だからその振り上げたフォークを下ろしてくれ」
「く~ぅ、普通にクラスメイトみたいに接しやがって! 羨ましいいいいい」
彼は俺の友人であり、王女ファンクラブの会員でもある。
「そんなことより今日の放課後だけど」
「そんな!こと!?」
俺たちが騒いでいると、少女がやってきて会話に入った。
「お疲れ~。 ごめんだけど、私今日パス」
「ええ?! なんでだよリコ!」
パールライト・リコリス、彼女も友人であり、頼れる常識人である。
「なんでって疲れてる。 フランの趣味に付き合う気分じゃないから、以上」
俺は前世の記憶から着想を得て、ものつくりをする事が趣味だ。 この二人は無償で手伝ってくれる気のいい奴らだ。 ただ乗り気というわけではないけれど。
「まじか~、ゴーレムコンテストが迫ってるってのに」
「何それ? 興味ないわ~」
「フランよ、一日でいいから俺と席を替えてくれ」
異世界に転生して十五年、俺の人生にはドラマはないが、それなりに楽しく過ごしている。
教師の声、外から聞こえる生徒たちの声。 俺は浅い夢を見ながらノスタルジーに浸る。 そして二度目の人生を生きている幸せを感じた。
「おーい、フランツ。 起きろー」
軽い衝撃にのそりと体を起こすと、周囲から面白そうな忍び笑いが聞えた。
「お前~そんなに俺の授業がつまらないか~?」
「いいえ! 先生の歴史の授業はとても勉強にはなるのですが、まるで詩人のように心地よい語りなので……」
「そんなおべっかはいい。 次のページを朗読しろ」
先生に言われて俺は机の上で枕代わりとなっていた開かれてもいない教科書を手に取った。
「26ページですよ」
隣の席の女子がこっそり教えてくれる。
「え~これは王国が国となる前の話。 世界が邪悪な神によって滅ぼされかけていた頃、一人の王が異世界召喚を行い勇者と共に世界を救った。 そして築かれたのが○○王国である……」
授業が終わると俺は隣の女子に勇気を出して声を掛ける。
「さっきはありがとうございます。 アリストテレス様」
彼女は困ったように笑んで首を振った。
「大したことじゃありませんよ。 それより敬語も、敬称も不要です。 私たちはクラスメイトなのですから」
「う、うん。 分かってるんだけど、つい」
俺たちと同じ制服に身を包んでいても、隠しきれない圧倒的なオーラ。 見た目から、些細な所作から彼女が高貴な人であることは誰が見ても分かるだろう。
彼女、アリストテレスはこの国の第三王女なのだ。
「そういうアリストテレスも敬語じゃないか」
「私は誰に対してもそうですから」
俺の名前はラブル・フランツ、低級貴族の四男で、勉学並、運動並、戦闘力並。 転生者であるが平穏な生活を望むモブキャラだ。
ちなみに王女殿下と席が隣になったのは単なる名前順である。
〇
「おい、お前。 さっき殿下と何を話していたんだ」
昼、食堂にて目を血走らせた少年カリストロが言った。
「いや、ただ授業中に助けてもらった感謝を伝えただけだよ。 だからその振り上げたフォークを下ろしてくれ」
「く~ぅ、普通にクラスメイトみたいに接しやがって! 羨ましいいいいい」
彼は俺の友人であり、王女ファンクラブの会員でもある。
「そんなことより今日の放課後だけど」
「そんな!こと!?」
俺たちが騒いでいると、少女がやってきて会話に入った。
「お疲れ~。 ごめんだけど、私今日パス」
「ええ?! なんでだよリコ!」
パールライト・リコリス、彼女も友人であり、頼れる常識人である。
「なんでって疲れてる。 フランの趣味に付き合う気分じゃないから、以上」
俺は前世の記憶から着想を得て、ものつくりをする事が趣味だ。 この二人は無償で手伝ってくれる気のいい奴らだ。 ただ乗り気というわけではないけれど。
「まじか~、ゴーレムコンテストが迫ってるってのに」
「何それ? 興味ないわ~」
「フランよ、一日でいいから俺と席を替えてくれ」
異世界に転生して十五年、俺の人生にはドラマはないが、それなりに楽しく過ごしている。
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