異世界勇者のトリセツ~勇者の扱いに困る王女と転生者(モブ)な俺~

すー

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19話:賢者をスカウトせよ

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 休み明けの教室、どこに行っただのイメチェンしただの平和な会話がそこかしこから聞こえてくる。

(平和だ)

 勇者の取り巻きは解散したため、勇者は子犬と楽しそうに戯れている。 王女は相変わらず授業の準備を終え、ひな人形のようにじっとして――

「フランツくん、お話があります。 放課後付き合ってください」
「…………はい」

 王女の有無をいわせぬ言葉により、仮初の平和は終わった。





「どこに向かってるんです……?」

 馬車に揺られながら、向かいに座る王女に恐る恐る問うと彼女は静かにほほ笑んだ。

「クルーガ伯爵家です。 クルーガ家は魔法使いの名門として知られていますが、その中でも飛びぬけた才能を持つと次女ペレネールを勇者パーティーに加えるためお誘いしていまして」

 話が見えてこず思わず「はあ」と気のない返事をしてしまう。 勇者のパーティーに誰を加えようが俺には関係ない話だ。

「しかし本人以前に、当主からお断りされてしまいました」
「それは残念でしたね」
「ええ、ですがどうしてもと交渉したところ条件付きで承諾していただいたのです」
「それはそれはおめでとうごいます」

 なんだか嫌な予感をひしひしと感じつつも、俺は気づかないふりを続けた。

「娘さんを部屋から出す、ことがその条件だそうです」
「それは所謂、引きこもりを更正させろと」
「はい」
「そっか」
「はい」
「うん」

 笑みを浮かべた王女と見つめあう。

 俺は絶対に自分から聞いたりしないし、頼まれても断固拒否するつもりだ。 アドバイザーの役割は勇者を理解するための助言をすることであり、

「そういえば先日の事件ですが」

「私の方でもう犯人は探さなくて良い、と通達しておきました」

「話は以上になります」王女はそう言って黙った。 俺は顔を反らして立ち上がる。 そして馬車に付いている小窓を少し開いた。
 涼しい風が淀んだ空気を溶かす。

「協力するよ」

 王女はわざとらしく驚いたような反応をした。

「いえいえ、フランツくんにそこまでしてもらっては申し訳ないです。 お忙しいでしょうし」
「いやいやいや気にしなくて平気だから! それに俺も勇者様に関わる人間として、彼の仲間になる人間がどんな人か見ておきたいしさ」

「そんなに勇者様のことを……」そう呟く王女を前に、俺は多大な精神力を消費して握りしめた拳をほどいた。

「それでは詳しく話しましょう。 彼女が部屋にこもるようになったことにはキッカケがあるそうです」

 きっと王女は俺が本気で嫌がれば強制はしなかっただろう。 彼女は俺が頷くための理由として、脅迫めいたことをした。 ジョークみたいなものだ。
 ただ王族という立場だから笑えないけれど。

 少しの付き合いだが多少は信頼している。
 だから今後、この手法でこき使われることはない。

「どうしましたか? 何か顔に付いてますか?」

 きっとない。





 ペレネール・クルーガという少女は幼い頃より天才魔法師としての片鱗を見せていた。 魔力値が高いのはもちろん彼女の魔法はオリジン――技術を学ばなくても感覚で自由に魔法を発現できること――だった。

 しかしある事件を切っ掛けに、ペレネールは魔法を使えなくなってしまった。

「練習中に誤って魔法を長女に当ててしまい、怪我を負わせてしまったことがトラウマになっちゃったのか」
「はい、しかしお姉様としては気にしていないとのことです」
「うん、難易度高くない?!」

 俺が優れているのは日本での知識部分だけだ。 それがあるから勇者の気持ちが理解できたし、助言もできた。 しかし今回は心の病だ。 医療の発達した現代日本ですら根本的な治療が難しい病。

 俺には荷物が重すぎる、しかしそんな不安もお構い無しに馬車は止まってくれない。

 伯爵家のドでかい屋敷に着き、すぐに当主にご挨拶。 クルーガ伯爵は少し影のある優しそうな雰囲気だったので、少し安心した。
 そして別れ際に、

「念を押すようですがペレを無理やり連れ出すようなことはしないでください。 あくまであの子が部屋を出ることが条件です。 努々お忘れなきようお願いいたします」

 と言われてしまった。

(ハードル上げないで……)





「こちらでございます」

 案内されたのは三階の一室。
 屋敷は三階建てになっていて、使用されているのはほとんど二階まで。 三階はペレネールの部屋と専属の使用人が控える部屋だけだ。

「静かですね」
「寝てるんでしょうか?」

 痛いほどの静寂。 まるでここだけ時間が切り取られているような空間だ。

 王女がノックしようとしたその時。

「もう来るなって言ったでしょ! 私は絶対に勇者ごっこには付き合わないから!」

 まるでこちらが見えているかのような叫びが、扉の向こうから響いた。

 さて王女はどんな知略を用いてここから盤面をひっくり返すのだろうか。 お手並み拝見、と横を見れば彼女は満面の笑みを浮かべて言った。

「ではフランツくんよろしくお願いいたします」

 こんな酷い丸投げがあるだろうか。
 もはやアドバイザーでもなんでもない。
 俺は今一時、ネゴシエーターに転職させられたらしい。


 

 
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