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番外編
母として(テオの母視点)
しおりを挟むテオの父、ザックは良く言えばポジティブの塊で細かい事は気にしない人だが、悪く言うと脳筋すぎて他人を思いやることに欠けている。それに思い込みも激しく、こうと決めたらそれに脇目もふらず一直線に突き進んでしまう。こうなると人の話が耳に入らなくなってしまう。それに夢見がちな母のイライザは姉妹しかいない環境で育ってきたため、男の子の接し方はよく分からず息子との距離を測りかねていた。
結婚した時はザックのその性格がとても男らしく感じていたものだが。
ナタリーが一喝した後、テオがいないその家では困惑する家族達の姿があった。
「お前達、テオから金を借りていたのか」
父ザックが尋ねると、次女アメリアが答えた。
「だってお洒落はお金がかかるものよ?化粧品やアクセサリーだって必要だもの。テオなら男だし使い道ないでしょ?それに私より姉さんとソフィアの方がしょっちゅう借りていたもの。」
「それはちゃんと返したんでしょうね?」
母の言葉に三人の娘達は顔を見合わせる。
「いいえ?だってルーカスにやり返せたら返すって約束だったもの」
と長女オリヴィア。
「何だと!?」
「私達だってルーカスに喧嘩吹っ掛けられたけど、別にどうってこと無かったもの。何でやられっぱなしなのか分かんないわ!テオにはっきり貸した金を返せと言われた事もないし。男なのに情けないったら!」
と三女ソフィア。三人はあっけらかんと話した。
「でも父さんだって母さんだってテオが怪我しているのに何も聞かなかったじゃない。『やんちゃ』だって決めつけていたくせに」
とアメリアが指摘する。
母イライザには女の子と男の子はこうあるべきという固定観念がある。やり返せないテオをもどかしく思う姉はいても、テオとじっくり向き合って話をしてくれる家族はいなかった。その結果が、結婚式直前の跡継ぎの婿入りという宣言だった。
イライザは、過去をゆっくりと振り返る。見落としがないように丁寧に。自分には男兄弟はおらず、男の子が産まれた時はどう扱って良いものか分からず戸惑ったものだった。ザックが言うように、男の子はやんちゃだから傷だらけになるほど夢中で遊んでいたのでは無かったのか。何か忘れていた大切な事を思い出せそうで思い出せないモヤモヤとした歯痒さを感じていた。
テオは小さい頃からよく傷だらけになって帰って来た。始めの頃はよく泣いていたようにも思ったが、いつの間にか泣きもしないで服だけぼろぼろで帰って来るようになった。大人になったのだろうとザックと笑って話していたのは間違いだったのかしら…。本当に夫の言うことを鵜呑みにして良かったのだろうか。
テオは自宅で自分から話かけてくる事は滅多にない。首を振るか頷くか、「分かった」と返事をする位だ。上の姉三人がよく話す子達だったから聞き役に徹していたといえば聞こえは良いが、一方的な会話だったともとれる。
テオと二人きりで、テオの話をゆっくり聞いた事が一度もない事実にイライザは気が付いた。テオの好物すらイライザには分からず、愕然とした。
「ねぇ、ザック。テオの好物って何だったかしら…?」
違うと、誰かに否定してほしかった。母として自分は息子に何をしてきたのか。あれだけ信じていた夫にすがろうとしたが。
「テオに好き嫌いはないだろう?」と心底不思議そうな顔をするザックに鳥肌が立った。
夫は息子のことなんてこれっぽっちも知らなかった。いや、きっと知らない事にも気付いていない。自分の世界が崩れたように思った。
「あ、あなた達は知っているわよね?」
娘達に問う。
「?そういえば聞いたことないわね。テオから話しかけられる事って滅多にないもの。結婚したい人が出来たって聞いた時は驚いたわ。しかもあんなに可愛い人を連れてくるなんてね」
とオリヴィア。下の二人の娘達も頷いている。
イライザは目の前が真っ暗になった。ナタリーが言っていたのはこれだったのだ。
『テオは無口なんかじゃない。我慢させられていただけ』今になってナタリーの声が耳にこびりついて離れない。母としてきちんとやってきたつもりだった。だが自分のやっていたことは、母の真似事をしたままごとだった。
これからどうすればいのか…。
恐ろしい事実に足がすくんでしまいそうだった。
家族の無関心は己が招いたことだ。今度こそ鵜呑みになんてせずに、息子のためにきちんと自分で考えないといけない。未だ不自然な事に気が付かない夫と娘達を妻として、母として自分が導かなければいけないと強く思った。気付かせてくれた頼もしい義娘には感謝しかない。
まずは息子と話をしよう。
次は間違えたりなんかしない。
今はまだ本人に言う資格なんて私には無いけれど、いつか勇敢な息子を持って誇りに思っていると息子に伝えたい。そしてすまなかった、とも。
少しずつこの家を変えてみせる。母と名乗れる資格を取り戻せるよう、決意を新たにする。夢見がちだった母はやっと自分の現実を見た。
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