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空を満たす何か

ここで見つけたやりたいこと

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そうして一人でやってきたドラゴンの里。

正直、思い付くままに飛び出してきたことを激しく後悔した。身一つで飛んできたのが一つ目の間違い。空を飛べばすぐに着くだろうと甘く見たことが二つ目の間違いだ。

飛び続けて三日。遭難したかと思って途中から決死の覚悟で飛んだよね。着いたときには安心で思わず泣いてしまった。

私にチートな能力やらスキルがあれば楽勝で辿り着けたはずなのに。人生ままならないものだ。

突然来た私を、皆びっくりしながらも暖かく迎えてくれた。翼はもう筋肉痛でぴくりとも動かせない。生きて辿り着けて本当に良かった…。

そして。

私が里に来た目的はというと。

「里の奥で保護されている人達がいますよね?私に協力させてもらえませんか。」

「なぜそれを…。」
私が来たとの報せを聞いて、サファテサフィスフィアさんが駆けつけてきてくれた。舌を噛みそうな名前の彼女は、あの悲劇の中唯一生き残った卵で、アノーリオンの孫だ。アノーリオンの不在時は、族長代理を務めている。

「とにかく、それは許可出来ないわ。貴方には危険すぎる。彼女達は理性を失っているの。言葉が通じる相手じゃない。頑丈な私達だって油断したら大怪我をすることがあるのよ。貴方なら死んでしまうわ!」

「そうよ。適材適所!私達は私達が出来る事をすればいいのよ。命を危険に晒すことなんてないわ!」

サフィーさんの言葉に加えて、ケット・シー族のカリナさんが考え直すよう説得してきた。

ここだけの話、カリナさんは長毛種の猫さんなのだ。ふっかふかの猫さんが二足歩行して『行かないで!』とばかりに腰にしがみついてくる。可愛いしかない。これで子供が6人いるとか断じて信じない。

「彼女達の力になりたいんです。それに私なら飛べるし小回りが利くから、そう簡単には吹き飛ばされませんよ。」

「それでも万が一があるわ。貴方の体は弱く脆い。何かの拍子にミンチになるかもしれない事が分かってて、送り出せるわけないじゃない!」

「…彼女達の思いは私が一番理解しているよ。彼女達は未だ悲しみに囚われたままもがき続けてる。彼女達だって早く悲しみから解放されたいと思っている、と思う。

皆が私に優しくしてくれたように、私も少しでも皆の役に立ちたいの。…だめ?」

結果。

サフィーさんを泣き落としで陥落させ、私は今、里の奥の森の入り口に立っている。

森の奥からは、ずしーん!と何かがなぎ倒される音と地響きがいろんな方向から鳴り響いている。

森の中へと入っていく。森は鬱蒼としていると思いきや適度に日が差している。

(あれか…。ここにいる皆さんが今現在も土地開発をしてくださっているからか…。)

取り敢えず頂上目指してひたすら真っ直ぐ突き進んでみた。これなら帰りも回れ右して真っ直ぐ進めば帰れる計画だ。

数時間ひたすら森の中を歩いて、太陽が真上に昇った頃。

少し開けた所に出た。川も近くにある!汗だくだから嬉しい。川に手を浸すと思ったより冷たさはなかった。残念。

顔を洗ってさっぱりしたところでまた歩きだす。だが収穫はなかった。素人にはいきなり居場所を把握するなんて芸当が出来るはずもなかった。うん、何か異世界マジックにかけられてたのか、出来る気がしたんだ。この異世界がそこまで優しい仕様なはずないもんね。

家と森を往復して五日経ったある日。いつもの開けた所で休憩していると、突然鳴き声がしたかと思うと、木がなぎ倒された。

そこから現れたのは傷だらけの青い竜だった。美しかったであろう鱗は所々剥げてピンクの地肌が覗いていて、血も出ている。そして翼はあるものの皮膜は破れ、痛々しい姿だった。

その竜は私に気付くこともなく、その尾や頭で木々をなぎ倒していった。それでも腹の虫は収まらないのか地団駄のように足を踏み鳴らし、また木々をなぎ倒していく。地面が激しく揺れ、四つん這いになって揺れに耐えることしか出来ない。

開けた場所の端にあった巨大な岩に頭を打ち付け、フー、フー、と苦しそうな息遣いがここまで聞こえてくる。

「何が貴方をそんなに苦しめているんですか。」

危険を承知で話し掛けた。敵だと認識されれば里まで飛んで助けを呼ぼうにも相手も飛べるので、助かるかは運次第。計画性も何もない賭けだった。

だが返事はなく、私がその竜の視界に入ることも存在を認識されることもなかった。

『……ガ……………ワイソウナ…………アァ………』

何か呟くように放たれた言葉は、何と言っているのか分からなかった。私が話し掛けた事にも気付いてないんだろう。サフィーさんが言っていたのはこのことか、と思った。

更に地団駄を踏もうと足を振り上げた所で何かに躓きでもしたのか、竜は川に飛び込むようにして倒れた。

顔から川にダイブし、鼻先は川の中にある。すぐに動く気配が感じられず、慌てて駆け寄る。いくら竜と言えど水中で呼吸はできない。

青い竜の顔を抱き込むようにして何とか水面から鼻先を出させた。鼻先に手を当てると、呼吸はしているようで安心した。川は私の腰までの深さで、流れもかなり穏やかだったのが救いだった。

だが、倒れこんだ竜は気絶しているのかその瞳は閉じられたままだった。

「おーい!起きて!おーい!聞こえるかーい!?」
頬を軽く叩いてみるも反応なし。

取り敢えず竜の頭を抱えたまま岸に寄る。竜は右下にして倒れていたので、腹側に頭を持ってきて丸まるような姿勢を取らせようと移動を試みた。が、頭が重すぎてうまく行かない。それでも奮闘して、何とか川から離れた時はとっくに日は落ちていた。

「み、水が、温くて良かった……。」

傷だらけの竜の傍でへたりこんで見上げた空は、一抹の寂しさを感じさせる満天の星空だった。









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