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空を満たす何か

ファンタジーな光景はファンタジーだから憧れるんです。実際にされるとちょっと…

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家に帰らないとサフィーさん達を心配させることは分かっていたが、疲労困憊で一歩も動けそうにない。

少し前まで奴隷だったので、硬い石の上でもどこでも寝れるのが特技になった。

安全面を考慮して、横たわる竜の背中側に移動した。

(このドラゴン、よく見ると肋が出てガリガリ…。雄か雌か分かんないけど。)

傷だらけの竜の背中を見ながら、無意識に歌を口ずさんでいた。

それはこの世界に来る前に流行った切ない恋愛の歌だった。ドラマと歌詞がマッチして、家族三人で号泣した家族との思い出の歌だった。

寂しく見える竜の背に、己の母の姿を重ね合わせていたのだった。

その歌は小さく小さく誰にも聞かれることなく、少女が眠るまで続いた。


そして翌朝。

石の上で寝たから身体が痛いかと思いきや痛くない。いつの間に草の上に移動でもしたかと思って目を開けると。

傷だらけで意識を失っていた筈の青い竜の両前足の間にいた。

(やばい!殺される……!)

と思ったが、一向に襲われる気配はない。

ドラゴンの胸の下から這い出ようとするが、ドラゴンに鼻先で再び胸の下に戻される。

(ファンタジーだと分かっていたら憧れるシチュエーションだけど…。本当にやられるとまじで怖い…!何、私はおやつなの!?いつ食べられるの!?言葉が通じないのまじ恐怖!!)

静かにパニックを起こしていると、ブーン、という音が聞こえてきた。機械の駆動音にも似た音が聞こえる。

(この音……聞いたことある…。子育て中のサフィーさんもたまにこの音出してた。)

それは猫が喉を鳴らす時のように幸福感や安心感を感じた時、親子間で、つがい間で、ハミングのようにこの音を出すらしい。

(まさか…幼竜だと思われてる!?)

すると、頭上から女性のような高い声がした。

「……タシノ……カアイ……コ……。イイコ、ネ。」

続けて、ブーン、ブーンという音が聞こえてくる。

あぁ、この竜は子供を失くしたのか、と気付いてしまった。

片言だったが『私の可愛い子。良い子ね。』と言ったのだろうということがすぐに分かる。

そして、私は貴方の子供ではない、という現実をこの傷付いた竜に突き付けることも出来なかった。

ただ静かに傷付いた母を抱き締める事しかしてあげられなかった。

暫く抱きついていると、身動きする気配があり、私の身体も緊張に強張る。いつぷちっと潰されるか分からないから、油断は出来ない。

だが私の予想に反して、竜は優しく私を咥えると、どこかに運んでいくようだった。

宝物のように、壊れ物のように、そっと私を咥えてどこかに運んだ。

咥えられたまま景色を見ていると、森のかなり奥まで進んでいた。

樹海のような薄暗い所を更に突き進むと、日差しが射している割と広めの開けた場所があった。小さな湖があり、辺りは苔で覆い尽くされていた。風景だけ見るとファンタジーの世界だと思うほど美しかった。

(!?待て待て待て!ドラゴン何頭いるの!? 8頭はいるぅ!!今度こそ殺される…!)

日差しが射す場所の中央に一際苔が厚く積まれた箇所があった。不思議に思っていると、どうやらそこが目的地だったようで、苔が一番厚い所に腰を下ろした。

(おぉ……。ふかふか。日差しが当たる所だからほんのりあったかいし気持ち良い。)

そこで再び胸の下に押し込まれ、満足したのか、私を運び込んだ竜はブーン、ブーン、とご機嫌にハミングし始めた。

周りの皆さんは新参者の気配に気付いて、続々と集まってきてしきりに匂いを嗅がれた。

一頻り匂いを嗅ぐと敵ではないと判断されたのか、皆先程いた場所よりも私に近い場所に寝そべった。青い竜につられたのか、皆ブーン、ブーン、とハミングしている。

「……ふふっ。」
(犬の遠吠えにちょっと似てる…。つられて皆しちゃうってなんか可愛い。)
不謹慎にも笑いが漏れた。

今私が抱える問題は一つだけ。

サフィーさん達に自分の居場所を伝える術がないことだ。

集団ハミングが収まり、青い竜がすくっと立ったかと思うと、一番近くにいた薄いベージュ色の竜が素早く立ち上がり、さっきまで青い竜がいた場所に腰を下ろした。青い竜は森のさらに奥へと姿を消した。

(あれ……?あぁ、ドラゴンって交代で子育てするんだっけか)

このベージュの竜も、鱗は所々剥げて地肌が覗き、身体中傷だらけだった。おまけに足先からは血が滲んでいる。

(何で皆してこんなに傷だらけ…??竜の鱗って恐ろしく硬いんじゃなかったっけ?)

その理由はすぐに判明した。端の方にいた黄緑色の竜が突然、唸り声を上げながら自身の肌を掻きむしり、血が出ようと構わず己の四肢を噛み、近くの木を薙ぎ払い始めたのだ。

「えっ!なに、どうしたの!?」

驚いて私を抱え込む竜の下から這い出ようとするが、押し戻される。

守るように、けれど、逃がさないように。その竜は私を抱えて丸くなる。

暴れ始める竜とは対称的に私を抱えるベージュ色の竜はブーン、とハミングする光景がやけに印象的だった。

驚いた事に誰も暴れる黄緑色の竜に反応を示さない。

脳裏にある言葉が浮かぶ。

(自傷行為………。)

ここにいる竜達の傷はほとんどが自分で傷をつけたものなのだろうか。

彼ら(彼女達?)は未だ自分達を責め続けていた。










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