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空を満たす何か

立ち直るにも体力がいる

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ここにいる竜達が傷だらけの理由は分かった。

だがガリガリなのは駄目だ。未だ豊満とは決して言えない体型の私が言うのもあれだけど、これは経験してきた私だから分かる。

食事を取らないと身体はエネルギーを節約するため活動は鈍くなるし、思考はマイナスに向かう。しっかりと寝て、食べる。これが生きる基本だ。

彼女達は、食事をどうしているんだろうか?

この様子だとあまり眠れてもいないだろうことは推測できる。

というか、竜の胸の下から出る為にはどうしたらいいんだろうか。膀胱が……危機を迎えてきた。

「あのぅ~、トイレ行ってきてもいいですか?」

伝わって欲しいな~。このままだと乙女の危機な訳よ。

「漏れる!!」

結論から言うと、ちゃんと胸の下から出れました。私の体面も無事だった。よかった…。

取り敢えず急いでサフィーさんの所に知らせに向かう。背中と翼の付け根が死ぬ程痛いけど今はそれどころじゃない。

彼女達を救えるのは私だけなんて傲慢は言わない。彼女達が救われたいのかも分からないし、私が救えるとも限らない。でも彼女達の心が少しでも安らかであるようにと手を貸したっていいだろう。正気を失うまで悲しんでもなお、傷だらけの身体で私を守ろうとする彼女達に、救われて欲しいと思ったっていいだろう。

痛いのも苦しいのも、他人のそれを見るのももうたくさんだ。


「サーーーフィーーーさーーーん!!」

声の限り叫んだ。ら、遠くから弾丸のように何かが飛んできた。

ぶつかるぅぅ!!

目を閉じ、全身を固くして衝撃に備えると、

「何かあったの!?」

数センチ残して急停止した弾丸はサフィーさんだった。あぶなっ。ぶつかったらどーすんの!?きっと私はミンチ確定だ。

取り敢えずサフィーさんの背に乗せてもらった方が早いので、落ち着いて話せるところまで向かってもらった。

そうしてサフィーさんの家に着いた。

青い竜に会ったことや彼女達の様子を出来るだけ詳細に伝えた。

「……そう。ありがとう、カエデ。」
そう言ったサフィーさんは悲痛な面持ちだった。


「彼女達の食事は、三日に一度、里にいる戦士達が数人がかりで持っていくのよ。出会い頭にいきなり吹き飛ばされる事もあるの。お祖父ちゃんがいたら彼女達も少し落ち着けるんだけど、今はね…。」

「ありったけの傷薬を下さい。それから子供用の果物をすりつぶしたおやつも。」

「勿論よ。おやつも確かまだ残りがあったはずよ。それを食べてもらうのね?待ってて!!他の人の家からも集めてくるわ!!何で今まで気が付かなかったのかしら。肉をしっかり食べてもらうことしか考えてなかったなんて!!」

食べ物を消化するにも体力がいるのだ。高カロリーで消化しやすく、なおかつ彼女達の口に放り込めるもの。それは育児部屋で見た離乳食だった。

幼い子供達は、果物を一度磨り潰して練り固めたもので食事の練習を行っていた。

それを大きくして、バスケットボール位大きくしたものを食べてもらったらどうかと思ったのだ。ただ作るには手間がかかる上、今は時間がないので子供用で我慢だ。

暫くしたらサフィーさんがケット・シーの猫さん達を引き連れて来た。皆、両手で抱えるほどの荷物を持っていた。バケツを両手に持って重そうにしている方は何を入れてきたの…?

「お待たせ!!傷薬とおやつ。あとお肉も磨り潰して来たの。もう少ししたら固まってくるはずよ。」

バケツの形に?バケツプリンならぬバケツ肉。うーん、あんまり美味しそうには見えないけど、大丈夫かな…?

「傷薬もバケツ…?」

「そうなの!本当は軟膏なんだけど、きっとたくさんいるでしょうし、じっくり塗るのは難しいでしょう?だから、濃度を濃くして、バケツごと傷にかけちゃえばいいと思って!」

私、頭いいー!って思っていらっしゃると思うのだけど。ちょっと雑すぎない?いきなり傷にバケツで何かかけられたら、誰でもものすごい驚くと思うの。むしろかけてきた方の正気を疑うよ。

本当にそれで大丈夫なの?それやるのサフィーさんじゃなくて私なんだけど。

ケット・シーの皆もうんうん、て頷いてるし。

「サフィーさん…。その、そんなに沢山のバケツは持てないです。」

「あら?大丈夫よ。何往復かすればいいんだもの!」

だから私が、ね?私、そんなに何往復も出来ないよ?さっき全速力で飛んできただけでもうガス欠起こしてるから。

空を飛ぶとか人類の夢じゃん?チート!!って思うじゃん?飛ぶには自分の肉体を使うからさ、背中から翼の付け根、翼の先の方まで既に動かせない。懸垂とか腕立て伏せしすぎて腕がだるくて上がらない時に似てる。

なのに更に往復して飛べ?ごめんなさい、もう許して…。

結局、リュックのような布製のかなり大きな鞄を身体の前に背負い、バケツを両手に二個ずつ持って出発することになった。

彼女達が反応しないギリギリの距離までサフィーさんが乗せてくれました。

下ろされた後は自分で抱えて行くしかなかった。

しかも下ろされたのは地面に着陸してからじゃなくて、空中で置いてかれました。

「重っっ!!落ちちゃうぅぅ~!!」
必死に自分の翼をはためかせるも落下の速度は変わらない。荷物を捨てればあるいは、と思うものの傷が痛々しい彼女達の為を思えばそれも出来ない。

「うううぅぅっ!!」
地面すれすれで何とか顔から着地して止まった。取り敢えず荷物は無事だった。

「サフィーさんの人でなし…。重い…。後で文句言ってやるぅ…。ひどい…。」

恨みを吐き出しながら翼を引きずってのろのろ歩く。

何とか満身創痍で青い竜達がいた苔に覆われた湖の近くに辿り着いた。

「痛い、重い、酷い……。」








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