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空を満たす何か

必殺のバケツ

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私は地面にばったり倒れた。

持たされたバケツは重いし、手も背中も痛い。バケツ四つよ?傷薬二つ、肉バケツ二つ。抱えたリュックに丸めたおやつが破けそうなくらい入ってるし。まだ往復が残ってるって?もう今日は勘弁してほしい。

全員まとめてとかじゃなくても良いよね?状態が酷い人から順番にしよう。

ばったり倒れた私に、皆、『何だ?どうした?』とばかりに近寄ってきてくれる。ありがとう、これで少し楽が出来るよ。

まずは、肉バケツからに決めた。傷薬は…、もう少し後にしよう…。私も命は大切にしたい。

竜用の匙は無いので、ゼラチンのように固まった肉ゼリーに両手を突っ込んで適当な大きさを掬い上げた。

取り敢えず一番近くにいた黒褐色の竜の口元に掲げてみた。食べてくれるかな…?黒褐色の竜はすんすんと鼻をならして匂いを嗅いた後、一口舐めた。食べ物だと認識してくれたようで、あーん、とばかりに口を大きく開けてくれる。おぉ、お利口だ!

口の中にどさっとゼリーを入れる。食べやすかったようで、すぐに飲み込み二口目を催促してくる。やったね!

「君たち、意外と頑張れるじゃん!偉い!」

二口目を口に投入したところで、他の竜達にもせっせと配る。いきなり食べ過ぎるのは良くないってどこかで聞いたことあるし。

少しずつ食べて胃を慣らして、私のことを攻撃対象から外してくれると嬉しい。味方認定されなくても敵認定は避けたい。

肉バケツは空になった。取り敢えずここにいる七匹の竜達全員に食べてもらえて良かった。お次は丸めたおやつだ。

食べてくれるかな?子供用といってもソフトボール大はあるし、色も色彩豊かだ。うーん、茶色のって見た目アウトだよね…?だってアレみたいじゃん。下品だからここでは言わないけど!

ここにいる竜達は子育てに参加した事があるのか、丸めたおやつは肉ゼリーのように警戒さて匂いを嗅ぐことなく口を開けてくれた。

私はここで気付いた。
「あれ、青い竜がいない…?」
私がここに来ることになったきっかけを作った竜がいないのだ。リアルなジュラ◯ックパークは本当に恐怖だった。

青い竜の為に、おやつは五個残しておいた。

問題は傷薬のバケツだ。バケツは二つ。皆、傷は同じくらいで素人のパッと見では誰が一番怪我が酷いか判断出来なかった。

皆、少し食べ物を口にしたからか、ご機嫌な竜は多い。だけど、いきなりバケツで液体かけられたら敵認定確定だよね?

どうしたもんかと思っていたら、青い竜がどこかから戻ってきた。一暴れした後なのか、傷はどれも真新しい。足跡には結構な量の血が付着している。

「よし、君にもおやつをあげよう!そして、傷薬は貴方からにしよう!」

残しておいたおやつを差し出すと、やはり馴染みがあるのか他の竜達と同じように警戒することなく食べてくれた。

青い竜はもごもごと何事かを話したように聞こえたが、聞き取ることは出来なかった。

「じゃあ、かけますねー?」
取り敢えず、足先の傷に向かってバケツを傾けて少しずつかけてみた。染みるかな?

恐れていた反応は特になかった。むしろ、『何遊んでるの?』みたいな反応だった。

背中も尻尾も生々しい傷だらけで、ここにいるどの竜よりも身体に残る鱗が少なかった。尻尾、脇腹、と届く範囲で傷の深いところから薬をかけていき、バケツ一つを使いきった。

残りは、他の皆さんに少しずつかけて使いきった。皆さん、ご機嫌にハミングしていて良かった。感覚的には小動物が足元でちょこちちょこと何かして遊んでるわ~、みたいな感じなのかな。

すべてのバケツが空になった頃には全身汗だくだった。緊張による冷や汗やら何やらで、無性に温泉に入りたい。日本人の性よね。

「アマゾン族のところの温泉気持ち良かったなぁ~。あ、今更だけど、また誰にも何も言わずに飛び出してきちゃった。」
常識も倫理観もいつの間にか吹き飛んだなぁ。

と思っていると、近くにいたベージュ色の竜が私の首根っこを持った。どこに連れていかれるのかと身構えると、突然放された。

ばちゃーーーん!!

落とされた所から空気を求めて水面に上がる。あちこちに水が入って苦しい。

「げほっ、がはぁっ!!…ん?あったかい?温泉だったの、これ。」

苔に覆われたこの辺り一帯で、湖だと思っていたものは温泉だった。

「あ!ここに温泉あるから、この森の川の温度も冷たくなかったとか?」
異世界の川は謎だ、とか思ってたけど異世界関係なかった。

「というか、いきなり落とさなくても良くない…?そんなに汗臭い……?」

私を落とした張本人はすぐ側で見守っていらっしゃる…。

「まぁいっか。気持ちいい~!!」
温度は熱すぎず、素晴らしい湯加減だ。鼻歌を歌いながら、ふと考えた。

「番と子供を失った竜達のほとんどは後を追って自殺したって聞いたけど…。ここにいる皆を生かしたのは何だったのかな。」
この話題で竜達を刺激しないよう呟いた。

「死ねない理由があった?それともただ物理的に死ねなかっただけ?

きっと、貴方達が生きようと闘ってくれていることを失った家族が知ったら、何て言ってくれるんだろうね?

それにしても、ラヴァルさん。……貴方の犯した罪は本当に罪深いよ。」

彼女達の傷を目の当たりにする度、その罪の重さに憤る。

(王になりたいとかほざく癖に、やってる事は人殺し。悪巧みには頭が回る割にその手段が力ずくのみって何。不良まとめるんじゃないんだから、女子供をここまで追い詰めてどうすんの。王は、助けを必要としている人に手をさしのべてなんぼでしょうよ。)

温泉の淵に寄って、ここに突き落としてくれた竜の鼻筋を撫で、声をかける。

彼女達にはもう頑張れの言葉はいらないから。


「もう少し、私と一緒に休もうね。」





















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