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空を満たす何か

バケツに苦しめられる…

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皆、各々まったりしているが、その表情は心なしか少し強張りが無くなっているように思えなくもない。

空のバケツは回収した。とっくに日も暮れていたので、サフィーさんにささっと報告して、一刻も早くベッドで寝たい。

疲れきった羽を引きずるようにして飛ぶ準備にかかると、青い竜が私の首根っこを持ち上げた。

「んん?どこに行くの?」

何も言わずにのしのしとどこかに運ばれる。命は惜しいので抵抗せずにそのまま大人しくする。その竜の足取りは確かなもので、どこか目的地があるようだった。

私は今日一日の肉体労働で疲れきっていたので、そのまま途中で寝た。

そこ、図太いとか言わないで。生存確率を上げるのはどこでもどんな状況でも寝れる人達なのだよ。

がっつり寝て、気が付くと森の入り口近い所だった。そっと下に下ろされ、蒼い瞳と見つめ合う。何を伝えたいのか読み取ろうにも、その瞳は不思議な色に輝くばかりだった。

「ありがとう。ここまで連れてきてくれて。また明日ね。」

そう言うと竜は引き返していった。

私は空のバケツを持ってサフィーさんの家まで向かう。

「サフィーさーん。こーんばーんはー!」

ばあんっ!とものすごい勢いで扉が空き、あっという間に部屋の中に引きずり込まれた。

「無事だったのね!良かった!!怪我はない!?それでどうだった?皆の反応は!?」

サフィーさん以外にも準備を手伝ってくれたケット・シーの皆さんがひしめき合うようにして部屋の中にいた。

「肉もおやつも食べてくれました。おやつは小さくて食べにくそうでしたけど。傷薬も平気みたいでしたよ!」

おぉ~!!という反応があちこちから上がる。

薄暗い室内で特製の燃え移らない火に照らされて、浮かび上がっていたのは。

天井まである棚に目一杯に置かれたバケツ達だった。上から下までバケツばっかり。しかも竜仕様のこの小屋サイズで。

「こ、これ、まさか……?」

恐ろしくて聞いてみると、

「明日の分よ!!肉と果物は今から冷やし固めておけば、朝には出来ているから。」

これ、全部……?誰か違うと言って欲しい…。

ひとまず報告は終わったので、用意してもらった小屋で休む。目閉じて三秒で寝ました。

翌朝。サフィーさんの家に向かって叫ぶ。

「サーーーフィーーーさーーーん。おはよーございまーーす。」

扉が私の鼻先を掠めないギリギリのところで、ものすごい勢いで開く。

「来たわね!!こっちはもう準備出来ているわよ!!」

サフィーさん、朝から元気ですね。ケット・シーの皆さんも口々に朝の挨拶をしてくれる。

「それにしても、なぜカエデちゃんだけ無事だったのかしらね?私達でさえも近付けなかったのに…。危険を察知したら、すぐに逃げるのよ?約束よ?」
ケット・シーの長毛マダムな見た目のリンジーさんが首をかしげた。かわいい…。

運ぶ予定のバケツ達は棚から床に下ろされ、これでもかと並べてあった。軽く30はある。見なかったふりをしたい…。

「今日は運搬係にあと三人来てくれるのよ。丁度来たわね!!紹介するわ。オーリー、ガード、キックスよ。うちの里で一番の戦士達なの。」

「よろしく。お嬢ちゃん。」
オーリーさんが代表で挨拶をした。

「ちなみに、彼女達に出会い頭に吹っ飛ばされたのはキックスよ!」
サフィーさんが余計な事を付け足した。あぁ、折角格好良く決めてたのに…。

「んなっ!なっ、何で言うんだ!!そそそ、それに、吹っ飛ばされたのは俺だけじゃない!!」

紹介された三人とも黒竜で黙っていたら皆格好良いのに、キックスさんはめっちゃいじられてた。

「ほ、ほら!早く出発しよう!」
キックスさんの一言で準備に取りかかる。

この大量のバケツをどうするのかと思っていると、大きな鉄のおぼんにバケツを乗せていた。サフィーさんも同行するので、おぼんは四つ。数も計算されていたのか、綺麗に余すことなくおぼんにぴったり入っていた。

バケツには傷薬と肉ゼリー、丸めた離乳食用のおやつ(大)が入っている。

私はサフィーさんの背中に乗せてもらい、一行は出発した。

「私達は近くまでしか運べないから、近付けるギリギリの所から運んでもらうことになるわ。」
でしょうね…。それ以外の方法は私も思い付かないよ。運ぶこと重視のおぼんだもん…。

「ここだ。」
オーリーさんの一言で、一行は着陸した。

彼女達がいる苔に覆われたあの場所まではかなり距離があった。
「これ以上は近付けないんだ。カエデちゃんは気が付かないかもだけど、殺気がガンガン飛んでくるんだ。まだ警告段階だから平気だけど。これを無視して更に進むには俺達も相当の覚悟がいるんだ。だから、気を抜くんじゃないぞ?」

殺気?そんなの飛んでんの?全く分かんない。よく無事だったね、私。

「……彼女達は勇猛な戦士だった。彼女達のレベルに追い付けた者は僅かしかいない。」
ここで初めてガードさんが喋った。まだ名前も分からない彼女達は戦士だったのか。それも鬼強いレベルで。よく無事だったね、私。(二回目)

頼む」
ガードさんは地面に頭がつくほど私に頭を垂れた。

「あ、頭を上げて下さい!!私が勝手に首をつっこんでやり始めた事ですから!!」

「俺からも頼むよ。あの中に番がいる者もいるんだ」
オーリーさんはガードさんをちらりと見て言った。なるほど。ガードさんの番があの中にいるのか。

竜族の番は一生に一人だけ。お互いに会うと分かるらしい。たった一人に注がれる愛は深く、番を亡くした竜は相手の後を追う事も珍しくないとアノーリオンから聞いたことがある。

「じゃあ、くれぐれも気を付けるのよ。無理はしないこと!」
そう言って、でっかいおぼんを四枚も残してサフィーさん達は去っていった。

「うぅ~…。やっぱりこうなるんだ。おぼんどーすんの。重い、しんどいよぉ…。」
泣きながらバケツを両手に二個ずつ持って歩く。前回とは違ってリュックはなし、全てバケツに入れられている。

飛ぼうかとも思ったが、大きな翼を動かす筋力と、その運動に耐えられるだけの持久力がなければ使えないのだ。

「リュックに入れて貰えば良かった……。誰か手伝って…。」

当然だが、誰からも返事はなかった。

私だって異世界スキルで余裕とか無双とか楽勝とか言いたかった…。






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