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空を満たす何か

バケツがうなるよ!

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体感でいうと片道一時間以上?バケツを抱えて歩きましたとも。

時計がないから正確には分からないけれど、めっちゃ歩いた。これでまだ一往復だってできてないのだから…。泣きたい。

運べたバケツは傷薬一つ、肉ゼリー二つ、丸めたおやつ一つの合計四つ。以上。

飛んで運べば?って思う?飛ぶにも自分の体力と筋力が必要なの。今の疲れきった私にはそのどちらもないんだから飛べる訳ないじゃん。

翼だって重く感じて引きずるようにして歩いてるんだから……。

何とか辿り着いた場所にうつぶせにばったりと倒れた。巨大なおぼんがまだあの場所に置き去りだが気にしてる場合じゃなかった…。まぁ、一緒に傷薬があるから、薬の匂いで虫が寄ってこないことを祈る。

「……こんにちは。皆さん。」
皆、近寄ってきてくれるので、順番に挨拶がてら鼻先を撫でていく。今日は八頭(人?)全員いるみたいだ。

バケツに手を突っ込んで、肉ゼリーを両手ですくい、順番に集まった竜の口の中に入れていく。うっかり噛まれそうで怖い。カバの口の中に餌を入れる時にそっくりだ。いつばくっと口を閉じるかドキドキする。

結局、噛まれることはなく、バスケットボール大のおやつも全て無くなった。

傷薬は、全員に少しずつ使った。青い竜には少し多めにかけた。この中の誰がガードさんの奥さんなんだろう?さっぱり分からんな。

皆のいつもより気分が良さそうな様子を見て、もう一往復しよう、と決死の思いを固め、空バケツを持って立ち上がり、来た道を戻った。



◇◇◇◇◇



「ララの行方を知っている方は?」
ラヴァルが足を組みながら、慇懃に質問した。

「知らないわよぅ。またあなたが何か余計な事を言ったんじゃないかしらぁ?」
そう言って睨むのはカーミラだ。

「アノーリオンやツニートは行方を知っているんじゃないの?」
ギルミアが疑わしいと探る目を露骨に向けてくる。

「知らんな。」
あっさりとアノーリオンは告げた。ツニートもその横で大きく頷いている。

「心当たりがないはずがないだろう?誰にも何も言わずに突然いなくなるはずがない。」
ギルミアがなおも詰め寄る。

「知らんものは知らんと言う他ないであろうが。」
アノーリオンが突き放す。

「あぁ、きっと魔族の王だか何とかになりたいとほざく輩はきっと知っておるに違いない。何せ魔族の頂点に立とうというのだから知らないはずはあるまいて。なぁ?」
痛烈にラヴァルを批判した。

反論しようとした矢先、カーミラが口が牽制した。
「今は!ララちゃんのことでしょう!?心当たりがあるならさっさと言いなさいよぉ!!」

不貞腐れた ようにそっぽを向く両者をよそに、ツニートが告げた。

『多分、アノーリオンの、里、いると思う。』

「では、早速迎えに行かなければ…「お前が里に足を踏み入れる事はこの儂が許さん。」

ラヴァルさんの言葉を遮ってアノーリオンが言った。余りの剣呑さに、ギルミアやラヴァル、カーミラはぞっとした寒気を感じた。

「迎えに、などとどの口が言う。どの面下げて里の皆に顔を向けるつもりじゃ!ララと話して自分は変わった、だと!?これまで数百年と変わらなかったのだ、今更変わるものか!!お前のどこを信じろと言うのだ!!一歩でも里に足を踏み入れてみよ。儂の全力を以てお前の首を掻っ切ってやるわ!!」
アノーリオンが吼えるように怒鳴った。

「落ち着けよ。アノーリオン。今はララちゃんがどこにいるか、なぜ何も言わずに居なくなったか、が先だろう?」
ギルミアが宥めた。

「…私が迂闊でした。私の浅慮で不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。」
ラヴァルが殊勝にも頭を下げた。

『信用、出来ない。今まで、そうやって、何人陥れてきた?何人、殺した?』
ツニートが疑いの目を向ける。

「二人の言うとおりです。私が逆の立場でもそう思ったことでしょう。ですが、私は心の底から変わらなければと思いました。それは決して嘘なんかではない。今まで踏みつけにしてきた人達への贖罪は必ず果たしてみせます。ですから、今はどうか。ララの安否を教えて欲しい。」
ラヴァルは頭を深く下げ続ける。少し前には誰であっても、頭を下げるなんてことは考えられない事だった。行動の一つ一つに誠実さが窺えた。

「安否の確認はしよう。だが、お前の里への立ち入りは何があっても許さん!里の者が人質にさえ取られてなければ、八つ裂きにしてやったものを。未だ立ち直れず、狂気の淵にあるものもいる。到底お前なんぞを許せるはずもない。王になる?なりたいなら勝手にやっておれ。儂らを巻き込むな。」

そう吐き捨てて、ツニートと共に赤い竜は去っていった。里にいると思われる彼女の安否を自ら確認しに行くのだろう。

二人が去ってからようやく残された三人は安堵の溜め息をつく事が出来た。

「あれが竜族史上最強と謳われた戦士の本気の殺気…。全盛期から衰えてないなんて信じられないよ。」
ギルミアが溢す。

「ほんとぉよぉ…。巻き込まれるこっちの身にもなってよねぇ。争い事はごめんだと言ったはずよぉ!」
カーミラが冷や汗をぬぐいながら言った。

「過去に戻れるなら、あの時の自分を殺したいほどですよ…。なぜあれほど力で証明することにこだわっていたのか……。」

ラヴァルは口の中で呟いた。













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