上 下
94 / 116
空を満たす何か

そして3日後

しおりを挟む

「じゃあ、行こうか。」

ツニートの頭上に乗せられて里を出た。何で乗せられたって?足の長さが違いすぎたからです…。一歩が数十メートル先だったなんて思わなかった。

「そういえば、待ち合わせ場所って里を出たどこだっけ?」

ツニートに尋ねるも、
『歩いてたら、きっと、分かる。』

「???」

歩いてたら?分かるの?ツニート、すごいね。

里が豆粒の大きさに見えるほど歩いた先に、目的の人物がいた。

「お久しぶりです。」

慇懃無礼にも聞こえる挨拶をしてきた御仁は、モノクルが似合う黒ずくめの格好をしたラヴァルさんだった。そしてその傍らにはカーミラさんとギルミアさんがいた。

ツニートの顔を覗くと、戦闘モードではないにしろ、警戒心と不快感がもろに顔に出ていたので、挨拶は頷くだけにしておいた。

辺りには漂うのは和やかで友好的な雰囲気なんかとは程遠いものだった。

「あまり人には聞かれたくないかと思いまして。場所はここでも良いですか?」

ラヴァルさんが尋ねてきた。

ツニートの顔を窺うと、むっつりと黙り込んだままうんともすんとも言わないので、代わりに私が頷いておいた。

そのまま道に腰を下ろす。相変わらず私はツニートの頭上の上だ。石が飛び出る固い地面に座りたくないんだ。ありがとう、ツニートさんや。

「それで話とは?」
私はさっさと切り出した。

「突然行方を眩ましたのですから、心配したんですよ。」
ラヴァルさんが答える。

「そうよぉ、誰かに拐われでもしたか、って大騒ぎで大変だったのよぉ?」
そしてカーミラさんが続けた。

「僕だってあちこち探し回ったんだからね!」
ギルミアさんが、どこぞの美少女ツンデレキャラのように告げてくる。一見絆されそうになるが、これまでの数々の所業を見ているので、少しも心を動かされない。

「その節はすんません。無事だと連絡するようアノーリオンに伝えていたのですが、忘れていたみたいですね。」
白々しいけど、忘れたと言い張る。本当は死んだって報告してないから生きてるでしょ、っていう謎理論に巻き込まれたからなんだけど。

「それはまぁ良いでしょう。無事だったなら良かったです。なぜ一言もなく飛び出したんですか?」
ラヴァルさんが聞いてきた。

「やりたいことを見つけたら、居ても立ってもいられなくなったので衝動的に飛び出しました。」
救世主とかヒーローを気取った訳ではなく、突然飛び出した馬鹿者だっただけです…。

呆れた皆の視線を感じるが、これに関しては何も言えないので、甘んじて受けとめる。

「僕達、魔族領地を回っていたんだ。」
ギルミアさんが言った。

「力ずくで支配していた人達を解放して、再度助力を願う為に色々行動してたんです。勿論、これまでの償いも。…覚悟はしていましたが、想像を絶するものでした。」
ラヴァルさんが静かに言った。

それは当たり前だ。自分よりも力ある種族がなぜ格下に屈したと思っているのか。

どんなに力があろうと、人質を守りながら数の暴力を相手にするのは無理がある。太古の人間だってマンモスを狩ってたくらいなんだから、人質を守りながら単騎で数の暴力に立ち向かうなんて、どれ程の無謀かは考えなくても分かるだろう。

「そうですか。」
私は一言そう告げた。

「え、それだけ!?もっと他に言うことあるでしょ!?」
ギルミアさんが突っ掛かってくる。この人は本当に私をイライラさせる天才だ。

私はお詫び行脚をやれとも言っていないし、これで分かったでしょ、みたいなどこから目線だそれは、みたいな傲慢な台詞を吐くつもりもない。

『だから、お前、牙、無いのか。』
牙?血吸うときに使う犬歯みたいなやつのこと?歯が2本無いだけじゃないの?

「えぇ、それだけの事をしたので当然です。」

『牙を折る。人間で言うと……、歯全部抜かれた、と同じ?食事、尊厳、奪う。辱しめ?見せしめの意味ある。』

器用に歯だけ折るなんて、殺すことも出来たけどそうしなかった、という向こうの意思がはっきり伝わるよね。怨念に近い何かを感じる。

「夫の目の前で、妊娠中の妻の腹からナニを引きずり出したり、他にも色々考えつく限りの非道なことをしてきましたから。まだ五体満足で命があっただけ幸いです。」

「牙だけじゃないわよぉ。翼だってもう無いんだからぁ!」
カーミラさんの言葉にぞっとした。カーミラさんが何でもない事のように告げてくることも、話す内容にも。

「最初は力ずくでも、そのうち私の目的を理解して、自ら協力してくれるはずだと思っていましたから。」
いや、どう考えても無理でしょ。初めから最後までおかしいよ。


何で最初が力ずくから始まるの?

最初は説得からでしょ?協力が得られないなら、別の協力してくれる人を探すか、説得の方法変えるか、だよね?

もしや私の常識が間違ってるのか?

『力ずくに、選んだ種族、古代種族だった。一番影響力あるから。でも、古代種族、強い。余計卑劣、なる。』

手っ取り早く古代種族を選んだはいいものの、能力差がありすぎて力ずくにするには卑劣な策が必要だった、と。

「いや、説得しろよ。頭は何のためにあんだよ。むしろ頭要らないのか?それで頭脳派気取るとは烏滸がましいわ。脳みそに謝れ。」
つい本音が出た。

それでも、自分は悪くない!と喚くよりはずっと良いけど。それにしてもよくその謎理論武装して、私の話で改心出来たな。

「暴力には暴力で返さなければ、って意地になってたんだよねぇ。」

ギルミアさんの、仕方ないよね?と言外に言っているような調子がどうも鼻について気に入らない。










しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

傾国の聖女

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:260

召喚された聖女の苦難

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:14

異世界で宮廷魔導師やってます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:274

異世界聖女ですが即日クビになりまして(2/18編集)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

転生幼女の愛され公爵令嬢

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,370pt お気に入り:2,408

トリップ少女は諦めないっ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

処理中です...