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空を満たす何か

言いたい事は我慢しない。それが一番難しい。

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2時間睡眠でも意外と人間は頑丈なんだなと思う4週間でした……。
―――――――――――――――――――――――


金髪を振り乱して、怒声をあげながらこちらに走ってくる人がいた。

「あ、あわわわわわ‼」
アノーリオンが慌てた声をあげた。ツニートは体を小さくすることも忘れて、そのままアノーリオンに跨ろうとした。

「ぐぎゅうぅぅぅぅ…。」
ツニートが巨大すぎて、ツニートの片足に踏んづけられ、アノーリオンは動けなくなっている。

『い、いいいいいいそぐ!早く!!早く、ととととんで!!』
ツニートもパニックになり、アノーリオンに飛んで、と口では言いながらも、アノーリオンを小脇に抱えて走り出した。

「ちょ、ちょっと!置いていかないで!!」
慌てて付いていこうとしたら、ツニートは私を鷲掴みにして走り出した。

「「おわぁぁぁーーーーーー!!」」

まさしく阿鼻叫喚。

パニックになって逃げる時ほど、何故か逃げ場がない場所に辿り着くのはセオリー。
庭園を走り抜け、辿り着いたのは館の裏。追い掛けられてるのに敷地内、しかも背後は湖。逃げ道はどこ…?

「「……お………おえぇぇぇぇぇっ…。」」
私とアノーリオンは現在、取込み中だ。
一方は荷物のように小脇に抱えられ、もう一方はリレーのバトンのように握られて走っていたのだ。もう胃は全て裏返っている。そして犯人は後ろで可愛くおろおろしている。

『ご、ごめんごめん……。つい、焦っちゃった……。』
「「………………………。つ、つに………。おうぇぇぇーーーっ。」」
私達がツニートに返事を返してあげられなかったのは、乙女の事情でお取り込み中だったのと、ツニートのその後ろに見たくないものギルミアを見たからだった。

ツニート、でっかいからどこ行ったかなんてすぐ分かるよね。上見れば良いんだから。

「……はっ、はっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ!」

お互いを見つめ合うこと数秒。

「いや、追い付いたのに話せないんかい!」
つい、突っ込んでしまった。

「……はぁ、はぁ、君、達は、なん、て、ことを………してくれたんだ…!」
ギルミアさんが声を絞り出した。
ギルミアさんの息が整うのを待っていると、吐き気も落ち着いてきた。

「余計な事をするなと前に伝えたはずだ!!それに守を弔うなんて何を考えているんだ!!何が起きるか分かっているのか‼これからどれだけの魔族が死ぬと思う!?それも君のせいで!」
「生きた時代は違えど、故郷を同じくする弔われていない同胞がいるのを知って、見知らぬふりをすれと?心なき者の振る舞いには胸が痛いのぉ…?」
「何度言えば分かる!!!守を弔えば、魔族だって淀みの影響は免れない!!古代種族や上級魔族は頑丈だから関係ないと思っているんだろう!!それに、守がどんな思いでこの湖に身を投げたと思っている!!守の犠牲を無かったことにするつもりか!!これからどれだけの死人がでるか!!あぁ、もうどうしたら……!!」
そう言ったギルミアさんは、狂気を孕んだ血走った目でこちらを睨んだ。

「淀みが、犠牲が何だってのよ。こちとら魔法が存在しない世界で、汚染された空気吸って生きてきてんのよ。犠牲生み出す前に、頭使って技術生み出してみろってんのよ。
見送る事が悪いんじゃなくて、何百年と時間はあったはずなのに、何も変えようとしなかった自分達が悪いんでしょ?安易な方法に皆して飛びついてさ。自分は死ぬって分かってるんだから、備え一つ努力一つしないで、誰かが何とかしてくれるとでも?同じ毎日がいつまで続くと思ってたの?」
大気汚染やら何やらの環境問題は世界で問題になっていた。『いつまでもあると思うな、親と金』って言うじゃん。何事にも備えは必要だ。

「それがどうした。異世界人一人の命で、何百、何千という力の弱い魔族が助かるんだ。どちらを取るべきかなんて分かりきったことだろう。たった一人を救うより大多数を取ったことがそんなに悪いことか?」
「守さんに頼らない方法を研究しようって思わなかったの?数百年って私の世界じゃ時代変わるくらいの途方もない時間なんだけど。
ちょんまげして刀持って歩いてる人がいた時代から、機械に溢れた世界になるんだよ?鉄で空だって飛べるし、深海だって宇宙だって行ける。魔法がない世界の私達はこんなに進化したのに、魔法が使える貴方達はその間、たった一人の異世界人に頼りきって何をしてたの?」
日本の1500年くらいの時代からしたら、500年後の今の時代って色んな物が物凄く進化したよね。100年足らずで死ぬ人間と違って、何百年と生きるくせに文化レベルは停滞してんの?
「賢者っていうなら、色々素晴らしい発明とかしないの?自動淀み浄化装置とか、他にもあったら便利なグッズっていっぱいあるじゃん。」
異国の魔法少年が魔法学校に通う話とか大好きなんだけど。いたずらグッズ発明する双子も登場して最高に面白かった。

「うるさい!!お前に何が分かる!!!!関係のないお前が出しゃばるな!!この人殺しめ!!」
「出しゃばってるのは、分かってる!!!!
じゃあ教えてよ!!私が言わなかったら、誰が言うの?誰がこの世界を変えてくれるの?いつこの野蛮な世界は変わるの‼私はいつまでミンチにされる恐怖を抱えていればいいの!!
人殺したからなんだってのよ!魔族は皆人殺しだろ!!殺らなきゃ私が殺されてたんだから!それこそあんたには関係ないんだから黙ってな!!!!」
私はギルミアさんを睨みつけた。被害者からの罵倒なら甘んじて受けるけど、無関係の人から言われたって警察いないし憲法ないし法律ないし。
私だって何もしなくていいなら何もしないで生きていきたい。こんな面倒なことしたくない。でもそれじゃあ、いつまで経っても異世界人私たちは消耗品のまま。今、変わらないときっともう変化の機会なんてない。

いつまでも被害者でなんていられない。
だから私が今、足掻かないといけない。

「知ったことか!!!!利用できる道具があったから使った。それまでのことさ!!死んでも役に立つんだから、かえって良かっただろうさ‼これ以上部外者が引っ掻き回すな!!」
「だから、さっさとその優秀な頭使ってなんとかしろって言ってんのよ。
恥ずかしくないの?賢者でわたし頭良いんですぅ~、でも一人の異世界人の死体がないと生きていけないんですぅ~、なんて。今どきぶりっ子改め あざとい系女子でも言わないわそんな台詞。あざとい男は論外だから。」
「……なんだと?今、なんて言った?」
「もう一度言おうか?死体がないと生きていけない甘ちゃん坊や。数百年も文化が停滞してる未開の野蛮人の方が良い?あぁ、それとも停滞を望む視野が狭い愚か者?」
一触即発の雰囲気だった。ギルミアさんにいつ魔法で殺されるかと冷やりとした。

その時だった。
「んん~~~!正義がぶつかりあっているわぁ。」
「えぇ、堪らないわぁ♡」
「でも暴力はいけないね」

全員金髪で、ギリシャ神話に出てきそうな白い袖なしワンピースを来て、黄金の装飾品を身に着けた男女5人の乱入者がいた。

「ちっ、面倒な奴らが来たのぅ。こいつらの相手は骨が折れるぞ。」

アノーリオンの言葉に戦慄した。


ついに、正義の精霊とエンカウントしたようだ。




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みんなの感想(3件)

白雷
2022.10.21 白雷

些細なことですが3話
屋久杉は鹿児島です。

yyyNo.1
2022.10.21 yyyNo.1

女子高校生設定なので、ちょいお馬鹿な感じを出したかったんですが無理ですね!!すみません訂正しました!!ご指摘ありがとうございます!!
読んで頂けて嬉しいです!

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スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

yyyNo.1
2021.09.17 yyyNo.1

ありがとうございます!!とっても励みになります!!ぜひ完結までお付き合い頂ければと思っております(*´∇`*)

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花雨
2021.08.14 花雨

作品お気に入り登録しときますね(^^)ゆっくり読ませてもらいます(^^)

yyyNo.1
2021.08.14 yyyNo.1

コメントありがとうございます!!そう言って頂けてとても嬉しいです(*´∇`*)
まだまだ至らない所もあるかと思いますが、楽しんで頂けると幸いです(((o(*゚∀゚*)o)))

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