偽物の僕は本物にはなれない。

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落ち着いたマスターのいらっしゃいませという声が店内に響く。
こじんまりとしたこのカフェは一人になるには最適で、いつも座っている窓際の席が空いていたのでそこに腰を落ち着けた。

頼んだカフェオレを飲みながら僕はこれからちゃんと彼方と向き合えるのかななんて考えては、違う。向き合わないといけないんだと頭を振った。

「あれ?この時間にいるの、珍しいね」
「あ…こんばんは」
「こんばんは。…折角だし、相席してもいいかな?」
「あ、はい。どうぞ」

泣きたいぐらい落ち込んでいた僕に話しかけてきたのは、彼方に伝えたウソの想い人であるサラリーマンだった。
いつもピシッとかっこよく着こなしているスーツは、美丈夫のこの人に本当に似合っていると思う。
…僕がスーツ着てもこんなに似合わないだろうなぁ…というか、七五三…?
己の身長と見た目に思わず溜息を吐けば「…今日は凄く落ち込んでいるね」と僕を労るような声が届く。

「あ…すみません…」
「いや、いいんだよ。俺で良ければ話を聞くけど……って、名前も知らないこんな冴えない男に話すのも微妙か」
「そ、そんな事ないです!…というか、冴えない男って本気で言ってます?」

じとっとした目でそう返すとカラカラと軽快に笑われた。

「あー面白い。ああ、そうだね…名前だ。俺は服部 奏多。なんて呼んでも構わないよ」

ーー奏多。
…その名前を聞いて僕は固まってしまい不思議に思ったのか服部さんにおーい?と目の前で手を振られた。

「っ…す、すみません…!僕の友達の名前と同じだったからびっくりしちゃって…えと、僕は原中 大和っていいます。宜しくお願いしますーー…服部さん」

と、僕が言うと服部さんは苦虫を噛んだような顔をして「名字は距離感じちゃうな」と言った。

「でも…」
「俺も大和くんって呼ぶからさ、奏多って呼んで欲しい」
「……」
「だめ?」
「…ダメ、じゃないです……じゃあ、奏多さん、で」

僕が呼びたくない理由なんて目の前のこの人には関係ないし、仕方ないよね…。
俯きながら告げれば「よし、じゃあ連絡先を交換しよう」とスマホを差し出され、僕もスマホを取り出してお互いの連絡先を交換し、少しだけ話して帰路に着いた。

家に着く頃には、カフェに行く前に感じていたもやもやはなくなっていた。
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