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第四章:黒い花
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「先輩、タブレットあたしが持ちますか?」
「すまないね、京さん。さて、野町さんスピードを少し遅くしてくださいますか」
「なんだ? ゴミ屋、どうなってる!?」
真木は窓の外をしばらく無言で眺めていた。
「そこかしこに緑色に光る、何かを引きずったような跡が見えます……あ、やっぱり動くのがいる。……あそこ!」
「え?」
「なにっ!?」
あたしと野町さんがフロントガラス越しに真木の指差した方向を見る。
最初は何もわからなかった。
ただただ、真っ黒な屋根のシルエットが遠くの町の光に浮かび上がっているだけだった。だが、車が移動するにつれ何か不自然な塊が屋根の上にあるのがわかってくる。
それは立ち上がった。
幽体離脱で接触した時は、ヘドロの土石流というイメージだった。だが、今全身を遠くからつぶさに見るにつけ、心底背筋が凍った。
「……おい、なんだありゃ」
野町さんがごくりと唾を飲む。
足は細い。人間のそれに見える。
だが、上半身は巨大で歪んで膨らんでいた。腕らしき物が肩というより、もはや瘤というべき膨らんだ場所から垂れているのだが、それは人間の物よりも細く、何本もあった。だが、その先には此処から見ても判るぐらいに大きな人間の手が付いているのだ。
「京さん、君が見たのはあれかね?」
真木の冷静な声に、あたしはいや違う、と答えた。驚きが頂点に達すると、あたしは気の抜けたような声が出るらしい。
「あたしが見た時は、もっと泥の塊みたいで、顔は人間――」
突如、連続音が響いて、あたしは飛び上がった。
「い、一体――」
あたしが言葉を発しきらないうちに更なる連続音。バスバスバスっという重低音が窓越しに聞こえてくる。
う、撃ってるよ住宅街で……。
着信音。続けてスピーカーからも銃撃音。
『こちらキクイタダキ。対象と接触中。酷い臭いだ』
冷静な声の裏に銃撃音と何かが壊れる音が入り混じり、女の笑い声が響く。
『ミソサザイ。同じく接触。悪臭注意』
こちらからはスピーカ越しにバスンバスンと一際大きな単発の音が聞こえてくる。やはり女の笑い声。
野町さんは車を停めた。フロントガラス越しに屋根を見上げたまま固まっている。真木の冷静な声が車内に響いた。
「京さん、あれは『全部』御霊桃子だと思うかね?」
あたしも固まった。
屋根の上に次々と影が立ち上がったのだ。
そいつら体を揺らしながら次々と動きだし、視界から消える。
「ううむ、黒い連中のように何かの影響で分裂したのか? いや、それにしては待ち伏せなんて統制のとれた行動ができているな。……ということはあれらは彼女が自由に動かせる、偵察兼妨害のドローンのような物か、それとも黒の世界経由で繋がった一個体――」
「や、屋根から降りてくるぞ!」
あたしの叫びに野町さんはアクセルを踏み込んだ。のけ反るような反動と共にバンが矢のように走り出す。が、遅い。一瞬遅い。
「来ましたよぉ!」
真木のちょっと嬉しそうな叫びと共に、左の塀の上にわらわらと真っ黒い塊が顔を出すや、次々と車めがけて飛びかかってきた。
どすっという鈍い音が立て続けに起き、バンが大きく沈む。あたしはよろけ、シートに掴まったまま呻いた。窓かドアの透間かは判らないが、あの強烈な臭いが車内に入って来たのだ。真木がオウと呟き、野町さんがえずく。
女の笑い声が降ってきた。
何人も何人も笑っている。
どすっどすっ。
どすっどすっどすっどすっ。
まだ乗ってくる!
どんだけいやがるんだ!?
笑い声がどんどん大きくなる!
突然、体がフワッと浮くような感覚に襲われた。まるで泥の中を進んでいるように車の速度が落ちていく。それと共に座席に置かれていた地図やポットが浮き上がる。
「京さん、掴まれ! 転がるぞ!」
真木はそう叫ぶとスマホを取り出し、通話ボタンを押した。
「レディ! 回収頼む!! 場所は――」
破壊音が響く。浮き上がった諸々の品、それに割れたガラスと一緒にあたしは前に投げ出された。
衝撃。
視界がぐるっと一回転し暗黒――がすぐに頭の上から来る軽い連続衝撃に吹き飛ばされる。
「起きろ、京さん!」
体中に走る鈍痛の中、目を開く。
あたしは運転席のシートの後ろに頭をつけ、肩で全身を支えるヨガの割と難しいポーズをとっていた。問題は肩をつけている場所がバンの天井であることで、上にさっきまで座っていたシートがあることだ。
逆さまになったまま腕を組んでいる真木が片眉を下げ、いや、上げた。
「生きてるかね?」
「なんとか」
野町さんがシートの間から顔を出す。
「大丈夫か! 動けるか!?」
「なんとか、かんとか」
真木はにやりと笑うとシートベルトに手をかけた。
「それは重畳。
いいかね、君は今から少々逃げ回らねばならない。
御霊桃子は霊的接触を通じ、我々がここに来ることを予想していた。勿論、自分の爆発を抑える、その杭の存在も知っていると考えるべきだ」
ベルトを外すと、狭い空間でやけにスムーズにゆったりと回転しながら着地する真木。
ごめん、ぶっちゃけ気持ち悪い。
「そして杭の効果を一番有効に使えるのは君だ。で、あるからして――」
「御霊桃子の『本体』を見つけるまでは、あたしは逃げ回れって? いや、あいつらをこの杭で一体一体――」
「それが御霊桃子の狙いだろう。そりゃ十体くらいなら君ならなんとかするかもしれんが、そう、あいつらが一斉に君に組体操のピラミッドが崩れるように雪崩うってきたら、君どうするんだ?」
「そりゃ、無理ゲーだ……」
「うむ。で、しばらく逃げ回れば、迎えの僕の車がくるから――」
「へ? ……あの車ってコンビニに置いてきたよね? あ、警察の誰かが――」
「まあ、そこらは置いておきたまえ。昼にも少し言ったがあれは少々特殊な車だ。連中は多分中に入って来れない。上からの圧も多分耐えれる。だから僕の車へ逃げ込むのだ。
で、君が籠城している間に、我々は本体を見つけて君の前に引きずり出す。野町さん、そういうことでいいですかな?」
真木への返事がわりに唸り声が聞こえ、同時に運転席のドアが開閉された。そしてすぐさま耳がキンキンする単発の轟音が外から響き始める。
うわマジもんの銃声! これ、至近距離だと空気が震えて怖いんですけど! なんか動物の本能が怖いって叫んでるんですけど!
あたしはシートベルトに絡まっている杭の容器に飛びつく。手が無茶苦茶に震えるが、さあ深呼吸をして腕を前から上に、大きく背伸びの運動などをかます余裕もなく、アワアワ言いながら容器をあきらめ、蓋を開け、それを無意味に下に叩きつけると、滑り出してきた杭を引っ掴んだ。
「ドアから離れていたまえ」
真木はそう言いながら後部座席に這い込んでくると、今や床になった天井に散らばっている物をがさがさと検めている。あたしは後ろに下がろうとして、何かに足を引っ掛け尻餅をついてしまった。バンが激しく揺れ、またも銃声。女の笑い声がそこかしこで聞こえ、ぺたぺたという音が聞こえ始める。
「なななな、なんだこれぇ?」
我ながら情けない声である。
「さて、なんでしょうねえ。お、あったあった!」
のんびりした真木の声に呼応するかのように音は大きく激しくなった。
ばんばんばんっ。
ばんっと一際大きな音が響き、あたしはそちらを見た。
ひび割れたスモークガラスの窓越しにべったりと酷く大きな手が外に張り付いているのが見えた。それがすっと消え、また現れる。ばんっ。
叩いてるのか。
バンを、手で。
おい、先輩、なんでそんな顔を――
「バンをバンバン叩いてるんですねぇ!」
真木がとても嬉しそうに大きく叫んだ。一瞬、車体を叩く音が途絶え、野町さんの毒づく声が聞こえた。
あたし達はその機を逃さず前部座席に体をねじ込んだ。真木はさっき拾った物――脱出用のハンマーを助手席の窓に叩きつけた。ガラスが吹き飛ぶや、窓枠に四方から真っ黒い手がずるずると現れた。
「おう! これは臭いですなあ! 御霊さん、手洗ってます?」
真木は屈むと懐から金属製のオイルライターを取り出し、蓋をはじいて窓に向け、もう片方の手を顔の前に掲げた。
「京さん離れていたまえ」
ざりるっ、かちん、という点火音と共に、辺りが一瞬明るくなるくらいの火がライターから噴き出した。熱風が剥き出しのあたしの顔にぶつかってきた。
「ばっ、あっちぃ!!」
「あちっちちっ! 眉毛が焦げたぁっ」
悶えるあたしと真木。またも車の外から毒づく野町さん。そして女の悲鳴の輪唱。酷い臭いに瞑っていた目を開けると、割れた窓の辺りは真っ黒に焦げていた。
あの酷いどぶ臭さに、肉の焦げるやつが加わって、正直リバース半歩手前だ。
「さあ、行きたまえ京さん。こいつは僕の車のキーだ。ちなみにライターオイルはもう空だから二度はできないので、そこんとこよろしく!」
真木が投げたキーをキャッチすると、あたしはなるべく金属部分に触れないように窓を潜った。焦げたアスファルトの熱さに歯を食いしばり、外に転がり出ると、そのまま走り出す。
ばたばたべちゃべちゃと濡れた雑巾を叩くような音が、無数にあたしの後ろについてき始めた。
「すまないね、京さん。さて、野町さんスピードを少し遅くしてくださいますか」
「なんだ? ゴミ屋、どうなってる!?」
真木は窓の外をしばらく無言で眺めていた。
「そこかしこに緑色に光る、何かを引きずったような跡が見えます……あ、やっぱり動くのがいる。……あそこ!」
「え?」
「なにっ!?」
あたしと野町さんがフロントガラス越しに真木の指差した方向を見る。
最初は何もわからなかった。
ただただ、真っ黒な屋根のシルエットが遠くの町の光に浮かび上がっているだけだった。だが、車が移動するにつれ何か不自然な塊が屋根の上にあるのがわかってくる。
それは立ち上がった。
幽体離脱で接触した時は、ヘドロの土石流というイメージだった。だが、今全身を遠くからつぶさに見るにつけ、心底背筋が凍った。
「……おい、なんだありゃ」
野町さんがごくりと唾を飲む。
足は細い。人間のそれに見える。
だが、上半身は巨大で歪んで膨らんでいた。腕らしき物が肩というより、もはや瘤というべき膨らんだ場所から垂れているのだが、それは人間の物よりも細く、何本もあった。だが、その先には此処から見ても判るぐらいに大きな人間の手が付いているのだ。
「京さん、君が見たのはあれかね?」
真木の冷静な声に、あたしはいや違う、と答えた。驚きが頂点に達すると、あたしは気の抜けたような声が出るらしい。
「あたしが見た時は、もっと泥の塊みたいで、顔は人間――」
突如、連続音が響いて、あたしは飛び上がった。
「い、一体――」
あたしが言葉を発しきらないうちに更なる連続音。バスバスバスっという重低音が窓越しに聞こえてくる。
う、撃ってるよ住宅街で……。
着信音。続けてスピーカーからも銃撃音。
『こちらキクイタダキ。対象と接触中。酷い臭いだ』
冷静な声の裏に銃撃音と何かが壊れる音が入り混じり、女の笑い声が響く。
『ミソサザイ。同じく接触。悪臭注意』
こちらからはスピーカ越しにバスンバスンと一際大きな単発の音が聞こえてくる。やはり女の笑い声。
野町さんは車を停めた。フロントガラス越しに屋根を見上げたまま固まっている。真木の冷静な声が車内に響いた。
「京さん、あれは『全部』御霊桃子だと思うかね?」
あたしも固まった。
屋根の上に次々と影が立ち上がったのだ。
そいつら体を揺らしながら次々と動きだし、視界から消える。
「ううむ、黒い連中のように何かの影響で分裂したのか? いや、それにしては待ち伏せなんて統制のとれた行動ができているな。……ということはあれらは彼女が自由に動かせる、偵察兼妨害のドローンのような物か、それとも黒の世界経由で繋がった一個体――」
「や、屋根から降りてくるぞ!」
あたしの叫びに野町さんはアクセルを踏み込んだ。のけ反るような反動と共にバンが矢のように走り出す。が、遅い。一瞬遅い。
「来ましたよぉ!」
真木のちょっと嬉しそうな叫びと共に、左の塀の上にわらわらと真っ黒い塊が顔を出すや、次々と車めがけて飛びかかってきた。
どすっという鈍い音が立て続けに起き、バンが大きく沈む。あたしはよろけ、シートに掴まったまま呻いた。窓かドアの透間かは判らないが、あの強烈な臭いが車内に入って来たのだ。真木がオウと呟き、野町さんがえずく。
女の笑い声が降ってきた。
何人も何人も笑っている。
どすっどすっ。
どすっどすっどすっどすっ。
まだ乗ってくる!
どんだけいやがるんだ!?
笑い声がどんどん大きくなる!
突然、体がフワッと浮くような感覚に襲われた。まるで泥の中を進んでいるように車の速度が落ちていく。それと共に座席に置かれていた地図やポットが浮き上がる。
「京さん、掴まれ! 転がるぞ!」
真木はそう叫ぶとスマホを取り出し、通話ボタンを押した。
「レディ! 回収頼む!! 場所は――」
破壊音が響く。浮き上がった諸々の品、それに割れたガラスと一緒にあたしは前に投げ出された。
衝撃。
視界がぐるっと一回転し暗黒――がすぐに頭の上から来る軽い連続衝撃に吹き飛ばされる。
「起きろ、京さん!」
体中に走る鈍痛の中、目を開く。
あたしは運転席のシートの後ろに頭をつけ、肩で全身を支えるヨガの割と難しいポーズをとっていた。問題は肩をつけている場所がバンの天井であることで、上にさっきまで座っていたシートがあることだ。
逆さまになったまま腕を組んでいる真木が片眉を下げ、いや、上げた。
「生きてるかね?」
「なんとか」
野町さんがシートの間から顔を出す。
「大丈夫か! 動けるか!?」
「なんとか、かんとか」
真木はにやりと笑うとシートベルトに手をかけた。
「それは重畳。
いいかね、君は今から少々逃げ回らねばならない。
御霊桃子は霊的接触を通じ、我々がここに来ることを予想していた。勿論、自分の爆発を抑える、その杭の存在も知っていると考えるべきだ」
ベルトを外すと、狭い空間でやけにスムーズにゆったりと回転しながら着地する真木。
ごめん、ぶっちゃけ気持ち悪い。
「そして杭の効果を一番有効に使えるのは君だ。で、あるからして――」
「御霊桃子の『本体』を見つけるまでは、あたしは逃げ回れって? いや、あいつらをこの杭で一体一体――」
「それが御霊桃子の狙いだろう。そりゃ十体くらいなら君ならなんとかするかもしれんが、そう、あいつらが一斉に君に組体操のピラミッドが崩れるように雪崩うってきたら、君どうするんだ?」
「そりゃ、無理ゲーだ……」
「うむ。で、しばらく逃げ回れば、迎えの僕の車がくるから――」
「へ? ……あの車ってコンビニに置いてきたよね? あ、警察の誰かが――」
「まあ、そこらは置いておきたまえ。昼にも少し言ったがあれは少々特殊な車だ。連中は多分中に入って来れない。上からの圧も多分耐えれる。だから僕の車へ逃げ込むのだ。
で、君が籠城している間に、我々は本体を見つけて君の前に引きずり出す。野町さん、そういうことでいいですかな?」
真木への返事がわりに唸り声が聞こえ、同時に運転席のドアが開閉された。そしてすぐさま耳がキンキンする単発の轟音が外から響き始める。
うわマジもんの銃声! これ、至近距離だと空気が震えて怖いんですけど! なんか動物の本能が怖いって叫んでるんですけど!
あたしはシートベルトに絡まっている杭の容器に飛びつく。手が無茶苦茶に震えるが、さあ深呼吸をして腕を前から上に、大きく背伸びの運動などをかます余裕もなく、アワアワ言いながら容器をあきらめ、蓋を開け、それを無意味に下に叩きつけると、滑り出してきた杭を引っ掴んだ。
「ドアから離れていたまえ」
真木はそう言いながら後部座席に這い込んでくると、今や床になった天井に散らばっている物をがさがさと検めている。あたしは後ろに下がろうとして、何かに足を引っ掛け尻餅をついてしまった。バンが激しく揺れ、またも銃声。女の笑い声がそこかしこで聞こえ、ぺたぺたという音が聞こえ始める。
「なななな、なんだこれぇ?」
我ながら情けない声である。
「さて、なんでしょうねえ。お、あったあった!」
のんびりした真木の声に呼応するかのように音は大きく激しくなった。
ばんばんばんっ。
ばんっと一際大きな音が響き、あたしはそちらを見た。
ひび割れたスモークガラスの窓越しにべったりと酷く大きな手が外に張り付いているのが見えた。それがすっと消え、また現れる。ばんっ。
叩いてるのか。
バンを、手で。
おい、先輩、なんでそんな顔を――
「バンをバンバン叩いてるんですねぇ!」
真木がとても嬉しそうに大きく叫んだ。一瞬、車体を叩く音が途絶え、野町さんの毒づく声が聞こえた。
あたし達はその機を逃さず前部座席に体をねじ込んだ。真木はさっき拾った物――脱出用のハンマーを助手席の窓に叩きつけた。ガラスが吹き飛ぶや、窓枠に四方から真っ黒い手がずるずると現れた。
「おう! これは臭いですなあ! 御霊さん、手洗ってます?」
真木は屈むと懐から金属製のオイルライターを取り出し、蓋をはじいて窓に向け、もう片方の手を顔の前に掲げた。
「京さん離れていたまえ」
ざりるっ、かちん、という点火音と共に、辺りが一瞬明るくなるくらいの火がライターから噴き出した。熱風が剥き出しのあたしの顔にぶつかってきた。
「ばっ、あっちぃ!!」
「あちっちちっ! 眉毛が焦げたぁっ」
悶えるあたしと真木。またも車の外から毒づく野町さん。そして女の悲鳴の輪唱。酷い臭いに瞑っていた目を開けると、割れた窓の辺りは真っ黒に焦げていた。
あの酷いどぶ臭さに、肉の焦げるやつが加わって、正直リバース半歩手前だ。
「さあ、行きたまえ京さん。こいつは僕の車のキーだ。ちなみにライターオイルはもう空だから二度はできないので、そこんとこよろしく!」
真木が投げたキーをキャッチすると、あたしはなるべく金属部分に触れないように窓を潜った。焦げたアスファルトの熱さに歯を食いしばり、外に転がり出ると、そのまま走り出す。
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