悪役令嬢の復讐事件簿

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ケース1-6

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 影――もはや彼をそう呼ぶべきかどうかもわからない――は、まっすぐに歩みを進めていた。追跡者たちは一瞬のためらいを見せる。彼の眼差しには、かつての冷たさも恐怖もなく、ただ決意が宿っていることに気づいたのだ。

「何を考えている……?」先頭の男が眉をひそめて言ったが、その声にはどこか動揺が含まれていた。

影は一瞬立ち止まり、彼らを見つめ返す。雨が再び激しくなり、その音が周囲を支配している。彼は息を整え、静かな声で話し始めた。

「俺は…何かを取り戻しに来た。ずっと、失われたままだったものを。」

追跡者たちは混乱し、少しずつ包囲を狭めていく。だが、影の声には何かがあった。まるで、自分たちの中の何かを揺さぶられるような感覚があったのだ。

「取り戻す?お前が失ったものなんて……」

「そうだ。俺が失ったものは、罪の意識だ。心の平穏も、信頼も……何もかもだ。でも、だからこそ今ここにいるんだ。」

影はまっすぐに彼らを見据えた。もう、過去に逃げることはない。これまでの自分が選んだ道の結果を受け入れる準備ができていた。彼はその場で足を踏み出し、もう一歩前へと進む。

追跡者たちは動かない。彼らの視線は、まるで影に対する新たな何かを見つけ出そうとしているかのように鋭い。しかし、その鋭さには疑念の影も混ざっていた。

「お前が本当に何かを取り戻したいなら、まずは罪を償え。それができるのか?」一人が問いかける。

影は一瞬ため息をつき、ゆっくりと頷いた。「そうだ。俺は、償いをする。だが、そのためにはまず、俺が自由でなければならない。」

その言葉に、追跡者たちはまたもや動揺する。彼らの中には、影の言葉に触発されている者もいたのかもしれない。しかし、彼らの任務は変わらない。命令は明確だった――影を捕らえ、もしくは消すこと。

「自由…ね。お前の自由がどんなものか、俺たちに見せてみろ。」リーダーらしき男が冷たく笑いながら言った。

影は微笑んだ。それは、かつての冷酷な笑みではなく、初めて見せる穏やかな表情だった。「いいだろう。見せてやる。」

突然、影は地面を蹴り、一瞬で彼らの間を駆け抜ける。彼の動きはまるで風のように軽やかで速い。追跡者たちは驚き、武器を構えようとするが、彼の速度に反応が遅れる。

影は彼らの間をすり抜け、真っ直ぐに出口の方へと向かっていく。その先には、雨に濡れた街の光がかすかに見える。彼はその光に向かって、全力で走り続けた。彼の背後から、怒声と追いかける足音が響くが、それすらももう聞こえない。

彼の胸の中で何かが燃え上がる。自由――それは単なる逃亡ではなく、自分の過去を清算し、未来を見つけるための力強い一歩だ。彼の足音は次第に軽くなり、雨が激しく打ち付ける中で、その姿はどんどん小さくなっていく。

「もう…俺は、逃げない。」

彼は心の中で呟きながら、暗闇の中へと消えていった。

その後、雨はさらに激しさを増し、街全体を包み込むように降り注いでいた。追跡者たちはしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて一人、また一人と動き出した。

「奴を追え!どこへ逃げようとも、必ず見つけ出す!」

彼らは再び走り出した。しかし、その中には何かが変わった者たちもいた。影の言葉が、彼らの中の何かを揺り動かしていたのだ。

そして、コンクリートジャングルの奥深く、雨音に紛れて、一つの影が新たな旅を始める音が響き続けていた。
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