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チョコレート、カカオ抜き
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わたしはポカンとして、支倉くんの机に目を落とした。わたしがあげたチョコのほかに、いくつもの箱が並んでいた。
「チョコレートアレルギーって言っても、俺の場合はニッケルに反応してるんだけど……」
「ニッケル? ニッケルって、あの金属の?」
「そう。ニッケルは、穀類や豆類にも含まれていて、もちろんカカオ豆にも」支倉くんは掌を広げて見せる。「だから、金属に触れないように、ほら……」
「それで普段から、白手袋をしてたんだ!」
そこでわたしは、合点がいった。支倉くんは、ニッケルアレルギーだったんだ。でも、それならどうして……
「どうして、言ってくれなかったの?」
「金属アレルギーだっていうことは、入学してすぐに言ったよ」
えっ、そうだったっけ? わたしは、ない脳みそをフル回転させて、二年も前のことを思い出そうとしたけど、やっぱり覚えてはいなかった。
「知らなかった。自己紹介の時間のあいだ中、かっこいい人がいるなぁと思って、ずっと見惚れてて……」
そこまで言って、本人が目の前にいることに気づき、急に気恥ずかしさが込み上げてきた。
「だ、だから、話している内容は、聞いていなかったというか……」
話の最後は、自分でも聞き取れないほど、声が小さくなった。わたしの言葉を遮って、風月ちゃんが問いかける。
「支倉くんが金属アレルギーで、チョコレートアレルギーだっていうのは、なんとなくわかったよ。でも、だとしたら、どうして言わなかったの?」
「チョコレートなんて、バレンタインデーぐらいでしか口にすることないし、言うタイミングを逃してしまって……もう二年も経ってるし、いまさら……」
物憂げに窓の外を眺める支倉くんに、わたしは不覚にもドキッとした。こういうワンシーンですら、画になってしまうのがイケメンか。
「バレンタインデーの時期になって、チョコレートはいらないって言うと、逆に期待しているみたいで……」支倉くんは照れたように苦笑いをする。「もともとチョコレートは好きだったから、たくさんもらえて嬉しかったよ、ありがとう」
その一言で、わたしはまたドキッとした。弱っている男の子は、それはそれで可愛くて、キュン死してしまいそう。
「もともと好きだったってことは、前は普通に食べてたの?」
風月ちゃんが質問すると、支倉くんは頷いた。人がドキドキしているときに、勝手に話を進めないで。
「チョコレートアレルギーになったのは三年前、中三のときのバレンタインデーだった……」他人事のように、淡々と説明を続ける。「その日の夜に、チョコを食べた俺は、蕁麻疹や嘔吐を引き起こした」
「そのときに、チョコレートアレルギーを発症したと?」
「突然なるケースも珍しくないみたいで、『バレンタインデー症候群』っていうふうにも言われているらしい」
かわいそう。好きだったのなら、なおさら食べられなくなって辛かったはずだ。
三年前だったら、まだ鮮明に覚えていてもおかしくないのに、支倉くんは遥か過去を思い出すように、遠くを見つめていた。
「そ、それで、ぼ、ぼくが代わりに……」
「そう。カズオくんに食べてもらってた」
高橋くんがおどおどした調子で言うと、それを受けて支倉くんがつけ加えた。……あ、高橋くんは「カズオ」っていう名前なんだ。いや、そんなことはどうでもいい。
もちろん、優しさでチョコを受け取ったのはわかっている。それが支倉くんという人だ。それでも……
「やっぱり、言って欲しかった」
わたしは、ぼそりと呟く。その場にいた三人が「え?」というような反応をしたのが見て取れた。
「新垣さんや、ほかの女の子たちも……みんな、言って欲しかったと思います」わたしは自分が作ったチョコの入った箱を、高橋くんの手からひったくるように取る。「もちろん、友達にあげるチョコや、義理であげるチョコもありますけど、特別な想いを込めて男の子に渡す人もいるんです」
わたしのように……。
中のチョコがグシャグシャになるのもお構いなしに、わたしは胸もとに持ってきて強く抱きしめた。
「バレンタインデーって、そういうものじゃないですか?」
それなのに、別の人が食べたとなると、ひどく裏切られた気持ちになる。
「ごめん……」
支倉くんは、もう一度、謝った。わたしだけじゃなくて、全員に謝って欲しい。
「もともと好きだったって言ってたけど、いまでも好きな気持ちは変わってないの?」
「あぁ。チョコレートは、いまでも食べたいとは思ってるよ」
風月ちゃんの言葉に、支倉くんがそう答える。
「わかった。じゃあ……」風月ちゃんは頷くと、わたしの肩を掴んで、自分のもとへ引き寄せた。「明日までに新しいチョコを作って、トモミンが告りにくるから、そのチョコが美味しかったら、というよりも、無事に食べることができたら、トモミンとつきあってくれる?」
「……えっ?」
「ちょ、ちょっと……!」
支倉くんは呆気にとられる。わたしの制止も聞かず、風月ちゃんはわたしの腕を引っ張っていった。教室の中に、支倉くんと高橋くんだけを残して……
「チョコレートアレルギーって言っても、俺の場合はニッケルに反応してるんだけど……」
「ニッケル? ニッケルって、あの金属の?」
「そう。ニッケルは、穀類や豆類にも含まれていて、もちろんカカオ豆にも」支倉くんは掌を広げて見せる。「だから、金属に触れないように、ほら……」
「それで普段から、白手袋をしてたんだ!」
そこでわたしは、合点がいった。支倉くんは、ニッケルアレルギーだったんだ。でも、それならどうして……
「どうして、言ってくれなかったの?」
「金属アレルギーだっていうことは、入学してすぐに言ったよ」
えっ、そうだったっけ? わたしは、ない脳みそをフル回転させて、二年も前のことを思い出そうとしたけど、やっぱり覚えてはいなかった。
「知らなかった。自己紹介の時間のあいだ中、かっこいい人がいるなぁと思って、ずっと見惚れてて……」
そこまで言って、本人が目の前にいることに気づき、急に気恥ずかしさが込み上げてきた。
「だ、だから、話している内容は、聞いていなかったというか……」
話の最後は、自分でも聞き取れないほど、声が小さくなった。わたしの言葉を遮って、風月ちゃんが問いかける。
「支倉くんが金属アレルギーで、チョコレートアレルギーだっていうのは、なんとなくわかったよ。でも、だとしたら、どうして言わなかったの?」
「チョコレートなんて、バレンタインデーぐらいでしか口にすることないし、言うタイミングを逃してしまって……もう二年も経ってるし、いまさら……」
物憂げに窓の外を眺める支倉くんに、わたしは不覚にもドキッとした。こういうワンシーンですら、画になってしまうのがイケメンか。
「バレンタインデーの時期になって、チョコレートはいらないって言うと、逆に期待しているみたいで……」支倉くんは照れたように苦笑いをする。「もともとチョコレートは好きだったから、たくさんもらえて嬉しかったよ、ありがとう」
その一言で、わたしはまたドキッとした。弱っている男の子は、それはそれで可愛くて、キュン死してしまいそう。
「もともと好きだったってことは、前は普通に食べてたの?」
風月ちゃんが質問すると、支倉くんは頷いた。人がドキドキしているときに、勝手に話を進めないで。
「チョコレートアレルギーになったのは三年前、中三のときのバレンタインデーだった……」他人事のように、淡々と説明を続ける。「その日の夜に、チョコを食べた俺は、蕁麻疹や嘔吐を引き起こした」
「そのときに、チョコレートアレルギーを発症したと?」
「突然なるケースも珍しくないみたいで、『バレンタインデー症候群』っていうふうにも言われているらしい」
かわいそう。好きだったのなら、なおさら食べられなくなって辛かったはずだ。
三年前だったら、まだ鮮明に覚えていてもおかしくないのに、支倉くんは遥か過去を思い出すように、遠くを見つめていた。
「そ、それで、ぼ、ぼくが代わりに……」
「そう。カズオくんに食べてもらってた」
高橋くんがおどおどした調子で言うと、それを受けて支倉くんがつけ加えた。……あ、高橋くんは「カズオ」っていう名前なんだ。いや、そんなことはどうでもいい。
もちろん、優しさでチョコを受け取ったのはわかっている。それが支倉くんという人だ。それでも……
「やっぱり、言って欲しかった」
わたしは、ぼそりと呟く。その場にいた三人が「え?」というような反応をしたのが見て取れた。
「新垣さんや、ほかの女の子たちも……みんな、言って欲しかったと思います」わたしは自分が作ったチョコの入った箱を、高橋くんの手からひったくるように取る。「もちろん、友達にあげるチョコや、義理であげるチョコもありますけど、特別な想いを込めて男の子に渡す人もいるんです」
わたしのように……。
中のチョコがグシャグシャになるのもお構いなしに、わたしは胸もとに持ってきて強く抱きしめた。
「バレンタインデーって、そういうものじゃないですか?」
それなのに、別の人が食べたとなると、ひどく裏切られた気持ちになる。
「ごめん……」
支倉くんは、もう一度、謝った。わたしだけじゃなくて、全員に謝って欲しい。
「もともと好きだったって言ってたけど、いまでも好きな気持ちは変わってないの?」
「あぁ。チョコレートは、いまでも食べたいとは思ってるよ」
風月ちゃんの言葉に、支倉くんがそう答える。
「わかった。じゃあ……」風月ちゃんは頷くと、わたしの肩を掴んで、自分のもとへ引き寄せた。「明日までに新しいチョコを作って、トモミンが告りにくるから、そのチョコが美味しかったら、というよりも、無事に食べることができたら、トモミンとつきあってくれる?」
「……えっ?」
「ちょ、ちょっと……!」
支倉くんは呆気にとられる。わたしの制止も聞かず、風月ちゃんはわたしの腕を引っ張っていった。教室の中に、支倉くんと高橋くんだけを残して……
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