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チョコレート、カカオ抜き
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その日の夜、わたしは風月ちゃんに呼び出された。昨日はわたしん家でチョコを作ったから、風月ちゃん家のキッチンに来たのは初めてだ。
「チョコレートの語源は、ナワトル語で『苦い水』を意味する『xocolatl』から、と言われているみたい」
スマホで調べながら発した風月ちゃんの言葉に、わたしの頭上はハテナマークでいっぱいになる。
ナワトル語? それ、どこの言葉?
「でも、ナワトル語じゃないっていう説もあって、どっちが真実かわからないけど……」
と、風月ちゃんはつけ加えた。
わたしは何気なく、手に持っていた板チョコをひっくり返して、パッケージに書かれた原材料名を眺める。
砂糖……カカオマス……
テレビで見たことあるけど、確か原材料名って、含有量の多い順で表記されているんじゃなかったっけ?
風月ちゃんは、わたしの手元を覗き込んだ。腕を組んで、なにごとか考える素振をする。
「コーヒーは苦いけど、同じカカオが原料のはずの『ココア』とか『チョコレート』とかは、むしろ甘いイメージがあるよね。カカオよりも砂糖のほうが多く含まれているんじゃあ、当然っちゃ当然だけど……」
それに関しては、わたしも同意する。
「結局、砂糖を入れて甘くするんだったら、別にカカオじゃなくてもいいような……?」
「うんうん、確かに!」風月ちゃんは大きく頷く。「なにかで代用できるかもしれないね!」
代用? なるほど、その手があったわけか。
アレルギーの人でも食べられる、カカオが一切入っていないチョコレートを作ればいいんだ!
ふと、風月ちゃんの手元に置かれたものが気になった。茶色くて丸いお菓子のようなものが入った透明なパッケージ……そこには、「CAROB CHIPS」と印字されている。
「これは……?」
わたしが指差すと、ひとつ取り出してみせる。
「じつは、いまの彼氏もチョコレートアレルギーでさ、これ余ったヤツなんだけど……キャロブっていうのが、チョコレートの代用品として使われてるみたい」
「キャロブ……?」
「日本では『いなご豆』と言って、チョコレートアレルギーを持つ人でも、安心して食べることができるものらしくて」
知らなかった、そんなものがあったなんて。まさか、風月ちゃんは知ってて、支倉くんにあんなことを……?
「ちょ、ちょっと待って。これでチョコレートアレルギーの人でも食べられるチョコを作っちゃったら、わたし、支倉くんとつきあうことになっちゃうの?」
「つきあいたかったんじゃないの?」
「それは、そうだけど……こんな形で」
わたしが口籠っていると、背中をけっこう強めに叩かれた。
「どんな形だっていいじゃん。みんなに遠慮しているから、いつまで経っても彼氏ができないんだよ。新垣さんとかよりも、ずっとトモミンのほうが可愛いのに」
「えっ……?」
「それはそうと!」聞き返そうとしたわたしは、風月ちゃんの気迫に押されて黙り込んだ。「作ろう! キャロブチップスを使ったチョコレート!」
「……うん」
月明かりが出たり陰ったりを繰り返して、時間は過ぎ去っていく。経験者である風月ちゃんの指示どおりに、わたしはチョコレート作りの手順を踏んでいった。
どんな反応してくれるかな。支倉くんは喜んでくれるかな。……わたしと、つきあってくれるのかな。
いや、やっぱダメ。そんな強引な方法でつきあっても、わたしも支倉くんも楽しくはない。チョコレートを渡すときに気持ちは伝えるけど、それであっさりフラれてきっぱり諦める。……うん、それが一番いい。
「ねぇ、トモミン。支倉くんの好きな人って、誰だと思う?」
風月ちゃんのほうを見ると、作業の手を止めて、こっちに身体を向けていた。
「……知らないけど、いるの?」
そういう人が? 支倉くんに?
そういえば、新垣さんをフッていた場面を目撃してしまったことは、まだ言っていなかった。新垣さん以上の人なんか、すぐには思いつかない。でも、好きな人ぐらい、いてもおかしくはないけど……
だとしたら、どっちみち告っても意味ないじゃん。
風月ちゃんは、「そうか。わかんないか」と呟きながら、作業を開始した。そしてもう一度、振り向きざまにニッコリと微笑み、「明日、頑張って!」と、ひとこと応援された。
どういうこと? はじめからフラれるのがわかっているのに、どう頑張ればいいの?
はぁ……
わたしは盛大に溜め息を吐いた。明日が来なければいいのに。
(了)
「チョコレートの語源は、ナワトル語で『苦い水』を意味する『xocolatl』から、と言われているみたい」
スマホで調べながら発した風月ちゃんの言葉に、わたしの頭上はハテナマークでいっぱいになる。
ナワトル語? それ、どこの言葉?
「でも、ナワトル語じゃないっていう説もあって、どっちが真実かわからないけど……」
と、風月ちゃんはつけ加えた。
わたしは何気なく、手に持っていた板チョコをひっくり返して、パッケージに書かれた原材料名を眺める。
砂糖……カカオマス……
テレビで見たことあるけど、確か原材料名って、含有量の多い順で表記されているんじゃなかったっけ?
風月ちゃんは、わたしの手元を覗き込んだ。腕を組んで、なにごとか考える素振をする。
「コーヒーは苦いけど、同じカカオが原料のはずの『ココア』とか『チョコレート』とかは、むしろ甘いイメージがあるよね。カカオよりも砂糖のほうが多く含まれているんじゃあ、当然っちゃ当然だけど……」
それに関しては、わたしも同意する。
「結局、砂糖を入れて甘くするんだったら、別にカカオじゃなくてもいいような……?」
「うんうん、確かに!」風月ちゃんは大きく頷く。「なにかで代用できるかもしれないね!」
代用? なるほど、その手があったわけか。
アレルギーの人でも食べられる、カカオが一切入っていないチョコレートを作ればいいんだ!
ふと、風月ちゃんの手元に置かれたものが気になった。茶色くて丸いお菓子のようなものが入った透明なパッケージ……そこには、「CAROB CHIPS」と印字されている。
「これは……?」
わたしが指差すと、ひとつ取り出してみせる。
「じつは、いまの彼氏もチョコレートアレルギーでさ、これ余ったヤツなんだけど……キャロブっていうのが、チョコレートの代用品として使われてるみたい」
「キャロブ……?」
「日本では『いなご豆』と言って、チョコレートアレルギーを持つ人でも、安心して食べることができるものらしくて」
知らなかった、そんなものがあったなんて。まさか、風月ちゃんは知ってて、支倉くんにあんなことを……?
「ちょ、ちょっと待って。これでチョコレートアレルギーの人でも食べられるチョコを作っちゃったら、わたし、支倉くんとつきあうことになっちゃうの?」
「つきあいたかったんじゃないの?」
「それは、そうだけど……こんな形で」
わたしが口籠っていると、背中をけっこう強めに叩かれた。
「どんな形だっていいじゃん。みんなに遠慮しているから、いつまで経っても彼氏ができないんだよ。新垣さんとかよりも、ずっとトモミンのほうが可愛いのに」
「えっ……?」
「それはそうと!」聞き返そうとしたわたしは、風月ちゃんの気迫に押されて黙り込んだ。「作ろう! キャロブチップスを使ったチョコレート!」
「……うん」
月明かりが出たり陰ったりを繰り返して、時間は過ぎ去っていく。経験者である風月ちゃんの指示どおりに、わたしはチョコレート作りの手順を踏んでいった。
どんな反応してくれるかな。支倉くんは喜んでくれるかな。……わたしと、つきあってくれるのかな。
いや、やっぱダメ。そんな強引な方法でつきあっても、わたしも支倉くんも楽しくはない。チョコレートを渡すときに気持ちは伝えるけど、それであっさりフラれてきっぱり諦める。……うん、それが一番いい。
「ねぇ、トモミン。支倉くんの好きな人って、誰だと思う?」
風月ちゃんのほうを見ると、作業の手を止めて、こっちに身体を向けていた。
「……知らないけど、いるの?」
そういう人が? 支倉くんに?
そういえば、新垣さんをフッていた場面を目撃してしまったことは、まだ言っていなかった。新垣さん以上の人なんか、すぐには思いつかない。でも、好きな人ぐらい、いてもおかしくはないけど……
だとしたら、どっちみち告っても意味ないじゃん。
風月ちゃんは、「そうか。わかんないか」と呟きながら、作業を開始した。そしてもう一度、振り向きざまにニッコリと微笑み、「明日、頑張って!」と、ひとこと応援された。
どういうこと? はじめからフラれるのがわかっているのに、どう頑張ればいいの?
はぁ……
わたしは盛大に溜め息を吐いた。明日が来なければいいのに。
(了)
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