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02『お前の名は。』(2017)
02:職場にて。
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その週の土曜日、わたしはバイト先へと向かった。高校に近い立地に構えた喫茶店で、時給は七一七円。
秋田県の最低賃金が、昨年(二〇一六)の十月から引き上げられ、六九五円から七一六円になり、ぎりぎり一円のみ上回っているだけだった。
最も高い東京都(九三二円)からすれば低いだろうが。まあ、別に、たくさんお金が欲しいというわけでもないので、これだけでも充分満足だった。
登校と同様に、最寄り駅まで約四十五分をかけ、そこから十分ほど行ったところに、わたしが働く喫茶店がある。
午前十一時。さっそく、ウェイトレスの制服に着替えて、客の注文を受けに行く。
出だしは好調だった。ミスなく厨房へ伝達し、作り終えたものをお客のもとへ運ぶ。
それを何回か繰り返していたが、何度目かのときに問題が起こってしまった。
「おい、髪の毛が入ってんだけど」
そう言って皿の中から、一本の毛髪を持ち上げる。それは、従業員にはいないはずの赤みがかった毛だった。
わたしはクレーマーの男たちを一瞥する。ひとりは毛髪を持った手をひらひらさせ、もうひとりはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。
ただの言いがかりかもしれないし、本当にどこかで混入したかもしれない。私情に囚われず、ひたすらマニュアルどおりの対応をした。
「も、申し訳ありません。すぐに替えをお持ちします……」
ほとんど残っていないカレー皿に伸ばした腕を、男性が横から掴んでくる。
「待て待て」わたしは、左腕を掴まれたまま、動きを止めた。「替えはもういいんだ。タダにしてくれれば」
「タダ、ですか? それでは店長を呼んできますので、少々お待ち頂けますか?」
「あぁん?」男性が高圧的な態度で、睨みつけてくる。
「難しいことは言ってないだろ。作り直してもらっても、そんなに食えないから、タダで手を打とうと言ってるだけだ。わざわざ店長を呼ぶ必要があるか?」
「はあ……でも、わたしの判断では、ちょっと……」
「ちっ!」
男性は盛大な舌打ちをした。左腕を離してくれたので、わたしは恐る恐る店長のもとへ向かう。
「岩永さん!」ウェイトレスのひとりが叫ぶ。「それ、どうしたの?」
「えっ?」
その人の視線の先を追って制服を見てみると、スリットが入ったようにスカートの裾が切れていた。
どう考えても、犯人はさっきの客にしか思えない。ここまで来る間に、まったく気づかなかった。
「なに、これ……?」
咄嗟に近くのウェイトレスが、制服の上着を腰回りに巻きつけてくれる。店長に事情を話すと、さっきの客のところへ行ってくれた。
そのあと更衣室で、用意してくれた予備の制服へ着替え直す。わたしは店長から別の仕事を言い渡され、ひととおりの雑事を熟した。
食器洗いにトイレ掃除。いったん休憩を挟んでから、もう一度わたしは制服を着なおした。
帰った客のお皿を片付け、そのテーブルを拭く。その流れで、隣りのお客さんの注文を受けに行った。
八時間みっちり働いたのち、午後七時半に今日のバイトは終わりを告げる。
そこから帰宅したのは、午後八時半を少し過ぎた頃だった。
~ ~ ~ ~ ~
その日の夜。自分の部屋で、なにをするわけでもなく、ただただ机に向き合っていた。
わたしは引き出しを開け、縦十五センチ、横八・五センチ大の手帳を取り出す。
厚さはそんなになく、一センチくらいだろうか、持ち運びに便利だが持ち運ぶ機会はない。
黒光りする表紙は触りすぎて、余計に光沢を増したようだった。
今日の日付が載ったページを開いたはいいものの、天井を見上げたまま、なにを書こうか思い悩む。
やっぱりバイトについてだろうが、あの厄介な一組の客に絡まれた以外は、特にトラブルもない一日だった。
誰かに見せるわけでもなく、自分でも読み返したことはなく、わたしはどういうわけか日記を認めている。
なぜ、こんなものを書いているのか、自分でもよくわからなかった。いつからの習慣なのか、いまとなってはわかりようもない。
とりあえず、この手帳だけは毎年、欠かさずに購入していた。
メトロノームのように刻む時計の音が、確実に過ぎていく時間の流れを教えてくれる。
時計を見ると、もうすぐで午後十時になるところだった。この時刻なら、上りも下りも終点を迎えているはず。
いま、家には誰もいない。他人の目を憚ることなく、わたしは気分転換も兼ねて家を出た。
外灯に照らされた影をぼんやりと見つめていたが、ふと気がつけば、またこの待合所に来てしまっている。
長椅子に腰かけ、座布団の隙間を弄った。ケースの中から取り出した大学ノートには、また書き込みが増えている。
膝の上に置いたケースが傾き、中からボールペンが転がってきた。
それを使って、なにかを書こうと思ってみたが、この映画のことも知らないし、なにを書けばいいのかもわからない。
頬杖をつきながら外を眺めて、しばらくその場に留まる。すると、前に来たときと同じように外灯が点滅し、目がチカチカとした。
外にばかり気を取られていたので、なにかが太腿あたりにぶつかって驚く。自分の膝の上に、見覚えのある男性の頭が、載っかってきていたのだ。
また、あのときと同じように、わたしは咄嗟に右脚を引っこ抜き、男性の頭の重みから解放されようとする。
座布団の上に突っ伏したのと同時に、男性はぱちくりとさせて目を覚ました。
「また、同じ夢……?」わたしの気持ちを代弁するように、男性がそう言って、のそりと起き上がる。「また会ったね」
扉のほうへ避けていたわたしは、その男性と目が合って思わず逸らした。欠伸をしながら目を擦り、男性は伸びをする。
そういえば、前に会ったときも眠そうにしていたっけ。実際、寄りかかってきたぐらいなのだから、眠そうではなく本当に寝ていたのだろう。
いきなりのことで驚いてしまったが、わたしは、その男性を注意深く観察してみた。これが幻かそうではないか、夢かそうではないか。
一週間前になるだろうか、男性に初めて会ったときと同じ、東京にある高校の制服を着ていた。
手にした物体へ目を落としながら、男性は愛おしそうに、それを摩る。
その視線の先を追って、男性の手元へと視線がいく。それは、わたしが持っている手帳と同じものだった。
「これのせいかな」男性は手帳を携えたまま、わたしの脇を通り過ぎて、待合所の外へと出て行く。「今日って、何月何日?」
「ご、五月、××日……です」
突然の質問にドギマギしながら答えると、男性は黒の表紙に手を置いてページを捲る。
それはだいぶ古いようで、わたしが持っているものよりも、いくらか表紙の剥げた手帳だった。暗がりのせいで、そう見えただけかもしれないが。
男性はホームの真ん中で、夜空を見上げながら呟く。
「そうか。じゃあ、今日も流星群が見られるわけだ。極大日には、まだ数日あるけど」
授業で先生が言っていたことを思い出し、わたしも夜空を見上げた。
普段は一時間に数個ほどなのに対して、極大日には一時間で十数個ほど、通常より多く流れ星を見られるらしい。
イシュタム流星群は、これが一ヶ月間も続くそうだ。
しかし、そんなに毎晩、流星群を見るために夜空を眺めたいとは思わない。
「東京だと周りに明かりが多すぎて、なかなか星を見つけることはできないんだ。ククルカン流星群も、見れる場所を探すの、けっこう苦労したよ」
その発言はなんだか、ある種の、都会自慢のように聞こえた。
男性の言うククルカン流星群を、あとで気になって調べたら、十数年に一度の間隔で出現する「周期群」というものらしく、ここ最近では十五年前に発生したのが最後だったとか。
どうして、そんな前の話を持ち出すのだろう。おそらく赤ん坊の頃で、記憶だって定かではないはずなのに。やだやだ。
わたしは前と同じように、そそくさと、その場を立ち去ろうとした。すると、電球が切れたように、また外灯が暗くなり、わたしは恐る恐る振り返る。
その明滅に合わせて、再び明るくなった一瞬のうちに、男性の姿は見えなくなっていた。
周りを探すのも怖くなって、わたしは逃げるようにその場をあとにした。
人がそんな簡単に、出現したり消失したりするはずがない。あってたまるか。これは精巧にできた夢に違いないのだ。
そう思い込もうとして、わたしは自分の部屋へ着くなり、布団を目深に被って、本物の夢の世界へと行こうとした。
秋田県の最低賃金が、昨年(二〇一六)の十月から引き上げられ、六九五円から七一六円になり、ぎりぎり一円のみ上回っているだけだった。
最も高い東京都(九三二円)からすれば低いだろうが。まあ、別に、たくさんお金が欲しいというわけでもないので、これだけでも充分満足だった。
登校と同様に、最寄り駅まで約四十五分をかけ、そこから十分ほど行ったところに、わたしが働く喫茶店がある。
午前十一時。さっそく、ウェイトレスの制服に着替えて、客の注文を受けに行く。
出だしは好調だった。ミスなく厨房へ伝達し、作り終えたものをお客のもとへ運ぶ。
それを何回か繰り返していたが、何度目かのときに問題が起こってしまった。
「おい、髪の毛が入ってんだけど」
そう言って皿の中から、一本の毛髪を持ち上げる。それは、従業員にはいないはずの赤みがかった毛だった。
わたしはクレーマーの男たちを一瞥する。ひとりは毛髪を持った手をひらひらさせ、もうひとりはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。
ただの言いがかりかもしれないし、本当にどこかで混入したかもしれない。私情に囚われず、ひたすらマニュアルどおりの対応をした。
「も、申し訳ありません。すぐに替えをお持ちします……」
ほとんど残っていないカレー皿に伸ばした腕を、男性が横から掴んでくる。
「待て待て」わたしは、左腕を掴まれたまま、動きを止めた。「替えはもういいんだ。タダにしてくれれば」
「タダ、ですか? それでは店長を呼んできますので、少々お待ち頂けますか?」
「あぁん?」男性が高圧的な態度で、睨みつけてくる。
「難しいことは言ってないだろ。作り直してもらっても、そんなに食えないから、タダで手を打とうと言ってるだけだ。わざわざ店長を呼ぶ必要があるか?」
「はあ……でも、わたしの判断では、ちょっと……」
「ちっ!」
男性は盛大な舌打ちをした。左腕を離してくれたので、わたしは恐る恐る店長のもとへ向かう。
「岩永さん!」ウェイトレスのひとりが叫ぶ。「それ、どうしたの?」
「えっ?」
その人の視線の先を追って制服を見てみると、スリットが入ったようにスカートの裾が切れていた。
どう考えても、犯人はさっきの客にしか思えない。ここまで来る間に、まったく気づかなかった。
「なに、これ……?」
咄嗟に近くのウェイトレスが、制服の上着を腰回りに巻きつけてくれる。店長に事情を話すと、さっきの客のところへ行ってくれた。
そのあと更衣室で、用意してくれた予備の制服へ着替え直す。わたしは店長から別の仕事を言い渡され、ひととおりの雑事を熟した。
食器洗いにトイレ掃除。いったん休憩を挟んでから、もう一度わたしは制服を着なおした。
帰った客のお皿を片付け、そのテーブルを拭く。その流れで、隣りのお客さんの注文を受けに行った。
八時間みっちり働いたのち、午後七時半に今日のバイトは終わりを告げる。
そこから帰宅したのは、午後八時半を少し過ぎた頃だった。
~ ~ ~ ~ ~
その日の夜。自分の部屋で、なにをするわけでもなく、ただただ机に向き合っていた。
わたしは引き出しを開け、縦十五センチ、横八・五センチ大の手帳を取り出す。
厚さはそんなになく、一センチくらいだろうか、持ち運びに便利だが持ち運ぶ機会はない。
黒光りする表紙は触りすぎて、余計に光沢を増したようだった。
今日の日付が載ったページを開いたはいいものの、天井を見上げたまま、なにを書こうか思い悩む。
やっぱりバイトについてだろうが、あの厄介な一組の客に絡まれた以外は、特にトラブルもない一日だった。
誰かに見せるわけでもなく、自分でも読み返したことはなく、わたしはどういうわけか日記を認めている。
なぜ、こんなものを書いているのか、自分でもよくわからなかった。いつからの習慣なのか、いまとなってはわかりようもない。
とりあえず、この手帳だけは毎年、欠かさずに購入していた。
メトロノームのように刻む時計の音が、確実に過ぎていく時間の流れを教えてくれる。
時計を見ると、もうすぐで午後十時になるところだった。この時刻なら、上りも下りも終点を迎えているはず。
いま、家には誰もいない。他人の目を憚ることなく、わたしは気分転換も兼ねて家を出た。
外灯に照らされた影をぼんやりと見つめていたが、ふと気がつけば、またこの待合所に来てしまっている。
長椅子に腰かけ、座布団の隙間を弄った。ケースの中から取り出した大学ノートには、また書き込みが増えている。
膝の上に置いたケースが傾き、中からボールペンが転がってきた。
それを使って、なにかを書こうと思ってみたが、この映画のことも知らないし、なにを書けばいいのかもわからない。
頬杖をつきながら外を眺めて、しばらくその場に留まる。すると、前に来たときと同じように外灯が点滅し、目がチカチカとした。
外にばかり気を取られていたので、なにかが太腿あたりにぶつかって驚く。自分の膝の上に、見覚えのある男性の頭が、載っかってきていたのだ。
また、あのときと同じように、わたしは咄嗟に右脚を引っこ抜き、男性の頭の重みから解放されようとする。
座布団の上に突っ伏したのと同時に、男性はぱちくりとさせて目を覚ました。
「また、同じ夢……?」わたしの気持ちを代弁するように、男性がそう言って、のそりと起き上がる。「また会ったね」
扉のほうへ避けていたわたしは、その男性と目が合って思わず逸らした。欠伸をしながら目を擦り、男性は伸びをする。
そういえば、前に会ったときも眠そうにしていたっけ。実際、寄りかかってきたぐらいなのだから、眠そうではなく本当に寝ていたのだろう。
いきなりのことで驚いてしまったが、わたしは、その男性を注意深く観察してみた。これが幻かそうではないか、夢かそうではないか。
一週間前になるだろうか、男性に初めて会ったときと同じ、東京にある高校の制服を着ていた。
手にした物体へ目を落としながら、男性は愛おしそうに、それを摩る。
その視線の先を追って、男性の手元へと視線がいく。それは、わたしが持っている手帳と同じものだった。
「これのせいかな」男性は手帳を携えたまま、わたしの脇を通り過ぎて、待合所の外へと出て行く。「今日って、何月何日?」
「ご、五月、××日……です」
突然の質問にドギマギしながら答えると、男性は黒の表紙に手を置いてページを捲る。
それはだいぶ古いようで、わたしが持っているものよりも、いくらか表紙の剥げた手帳だった。暗がりのせいで、そう見えただけかもしれないが。
男性はホームの真ん中で、夜空を見上げながら呟く。
「そうか。じゃあ、今日も流星群が見られるわけだ。極大日には、まだ数日あるけど」
授業で先生が言っていたことを思い出し、わたしも夜空を見上げた。
普段は一時間に数個ほどなのに対して、極大日には一時間で十数個ほど、通常より多く流れ星を見られるらしい。
イシュタム流星群は、これが一ヶ月間も続くそうだ。
しかし、そんなに毎晩、流星群を見るために夜空を眺めたいとは思わない。
「東京だと周りに明かりが多すぎて、なかなか星を見つけることはできないんだ。ククルカン流星群も、見れる場所を探すの、けっこう苦労したよ」
その発言はなんだか、ある種の、都会自慢のように聞こえた。
男性の言うククルカン流星群を、あとで気になって調べたら、十数年に一度の間隔で出現する「周期群」というものらしく、ここ最近では十五年前に発生したのが最後だったとか。
どうして、そんな前の話を持ち出すのだろう。おそらく赤ん坊の頃で、記憶だって定かではないはずなのに。やだやだ。
わたしは前と同じように、そそくさと、その場を立ち去ろうとした。すると、電球が切れたように、また外灯が暗くなり、わたしは恐る恐る振り返る。
その明滅に合わせて、再び明るくなった一瞬のうちに、男性の姿は見えなくなっていた。
周りを探すのも怖くなって、わたしは逃げるようにその場をあとにした。
人がそんな簡単に、出現したり消失したりするはずがない。あってたまるか。これは精巧にできた夢に違いないのだ。
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