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第二章 冒険出発の篇

36-2 オオカミとの遭遇

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 再び歩き続けて陽が頭上に輝くようになった頃、ツグミとモアが急に立ち止まって顔を見合わせた。

ルカ「ん?ツグミちゃん、どうしたの?」
ツグミ「あの~、前の方から何かが近づいてくるの…」
アイ「こないだのゴブリンみたいなの?…」

 ツグミとモアはいっしょにうなずく。ナオも同じことを感じているようだ。

ナオ「こないだと同じで、何が近づいてるのかは分からないけど…」
アカリ「数は?ゴブリンみたいにたくさんいる?」
モア「ううん…そんなにはいないみたい…10匹か、もう少し多いぐらい…」
アユミ「どうしよう…」
ツグミ「だんだん、近づいてきてる…」

 アイはアカリやナオに目で合図をすると、すぐに全員に指示を出す。

アイ「じゃあ、戦闘の準備だ…みんな武器とかつえとか出して、前みたいに武器を持っている人が前にいて、魔法を使う人が後ろに並ぼう。」
ソラ「オーケー。」
アカリ「タクミはアユミのそばから離れないでね。」
タクミ「了解。」

 みんなが闘う準備をしているうちにツグミたちが見つけた獣の姿が肉眼でも見えてくる。

アイ「あれがそうみたい…」
アカリ「オオカミか野犬みたいね…」

 やがてその姿は草のかげからもはっきりと分かるようになる。
 灰色の毛皮をまとっている胴体と釣り上がった眼。口からは炎のように赤い舌がビラビラと波打っていた。

 初めて対峙たいじするオオカミの群れに全員の身体が緊張で固くなる。
 ゴブリンの時と違って目の前にいるものが如何なるものなのか、誰もが分かっていた。恐怖で手足ががくがくと震える。

 オオカミの群れはうなり声を上げながら、少しずつ近づいてきた。
 その視線の強さにツグミやモアは少し後ずさりしてしまう。
 間合いが縮まる時間が誰にも永遠のように感じられた。

ウォ~ン!

 その鳴き声を合図に、何匹かのオオカミが一気にアイたちに向かってきた。

アイ「石を投げて、魔法を出して‼」

 前列に並んだメンバーはオオカミ目掛けて石を投げ、後ろからは火の玉が次々と飛んだ。
 石や火の玉のいくつかはオオカミに当たったが、それを避けて向かってくるものがいる。
 アイとアカリがやりを出して応じた。

ナオ「まだ向こうにいるよ!魔法を続けないと!」

 ナオやツグミ、モアやソラがまだこちらにこないオオカミたちにも火の玉を投げつける。
 ルカも向かってくるオオカミにほこで応戦した。

 アイもアカリも最初に自分たちに向かってきたオオカミは槍を一突きするだけで倒すことができた。
 だが、その後からやって来たものは最初のオオカミより大きく、動きも激しく、簡単には槍で倒すことはできない。
 アイもアカリも強烈なオオカミの攻撃に必死で応戦する。
 ツグミ、ナオ、モアも魔法を繰り出すが、辺りの草を燃やすだけでなかなかオオカミに当たらない。
 それでもオオカミたちも燃え広がった火を恐れ、近づいてこられない。

 時間が経つに連れ、次第に武器で闘う者と魔法を使う者がバラバラになってきた。
 アイとアカリがオオカミと闘うために前に出過ぎて、ナオたちが取り残されてしまっている。
 
 タクミが大声を出した。

タクミ「ダメだ!離れすぎてる。もっと仲間どうし近寄って戦わないと!」

 その声を聞いて魔法ではなく、槍で闘っていたソラがタクミとアユミのそばに戻ってくる。
 アイとアカリも自分たちが相手にしていたオオカミを倒したところで、一旦戻ろうと後ずさりした。

アユミ「危ない‼」

 突然、自分たちの横からまだ身体の小さいオオカミが飛び出してきて、前に気を取られていたソラの右腕にみついた。

「あっ‼」

 全員の視線がソラに釘付くぎづけになる。

「ダァー‼」

 ソラのすぐそばにいたタクミは、手にした剣をソラに咬みついているオオカミに振り下ろした。
 オオカミはあっという間に首と胴が別々になる。
 それを見たアイはすぐにソラのところへ走り出し、タクミのそばにいたアユミもけ寄った。アカリが我に返って叫ぶ。

アカリ「まだ別のオオカミがいるよ!」

 ツグミはそばにいるナオとモアの目を見る。

ツグミ「いっしょにいくよ!『ファイラ』‼」

 するとツグミとモアとナオがかかげた杖の先から帯状の炎が飛び出し、オオカミの群れに向かっていく。
 辺り一面の乾いた草が一瞬で炎に包まれ、黒い煙が周辺をおおった。ツグミたちは何度も杖から魔法の炎を出し続ける。

 この時偶然だが、ツグミやアイたちは風上にいてオオカミの群れは風下にいた。
 そのために炎や煙はオオカミたちにだけ向かう形になり、オオカミの群れは炎と煙にさえぎられ、アイたちに向かっていくことができない。
 黒い煙の向こうからオオカミたちがえ立ててくる声が響く。

 アイがソラに駆け寄ると、その腕にはまだオオカミの咬みついた頭が残っている。
 アイがすぐにオオカミの口を開けてソラの腕から離す。
 するとソラの腕から血がプシューと吹き上がった。アイとタクミは一瞬、血を避けようと身体をのけらせる。

 だがアユミは吹き出る血を避けず、すぐに彼女の腕にストレージから出したタオルをかぶせてその上から『ヒーラー』をかけた。
 タオルはあっという間に真っ赤になり、タオルとソラの腕から血がしたたり落ちる。
 ソラの白い顔から血の気がなくなっていく。アイは彼女の身体をずっと支えていた。

 いつの間にかみんながソラのところへやって来た。心配そうにのぞき込むモアやナオに対して、アカリとルカ、そしてツグミは炎と煙をくぐってオオカミがやって来ないか、ずっと炎の方を見張った。
 タクミもソラを襲ったオオカミが突っ込んできた方向に目を光らせる。

 やがてアユミのひたいに汗がにじんでくると、ソラの腕から血のしたたりが止まった。
 アユミがソラの腕にかけたタオルを取ると、ソラの腕に赤い傷跡が点々と見える。
 アユミは真っ赤になったタオルをその場に捨てて、再び別のタオルをソラの腕に被せると今度は『ケアラ』をかけた。
 だが、今度はアユミの顔色が変わってくる。

 その様子に気づいたモアが今度はアユミに代わる。モアがソラに『ヒーラー』をかけているそばで、フラフラするアユミの肩をナオがいた。
 モアが『ヒーラー』をかけていると、ぐったりしていたソラの顔にだんだんと血の気が戻ってきた。
 そんなソラの顔色を見てアイがアユミやナオに眼で大丈夫かを確かめる。ナオがうなずいた。

アイ「ソラ…どう、動けそう?」

 ソラは申し訳なさそうに弱々しくうなずいた。
 ナオは真新しいタオルを何枚か出すと一枚を怪我の部分に当てて、その上から別のタオルを包帯のように巻きつけた。

 ナオがタオルを巻いたのを見て、アイはすぐにソラの前に背中を出してしゃがむ。
 その姿を見てナオやタクミが手を貸してソラをアイの背中に乗せる。
 ルカはまだフラフラしているアユミを同じように背負った。

アイ「走ろう!急いで!」

 アイはソラを背負ったまま、元来た道を戻るように走り出した。
 アユミを背負ったルカがその後に続き、他のメンバーもその後を追いかけて全力で走り出す。

 アカリはソラの槍をひろってストレージにしまうと、殿しんがりを務めるように最後尾になった。
 草を焼く炎の向こうからはまだオオカミたちの鳴き声がする。

 真っ黒な煙がたなびく草原を後にして、全員がただひたすらに走った。






*楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、「いいね」や「お気に入り」をいただければ励みになります。
 また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。

 2025年12月7日
 文字数がかなり多いエピソードが増えてきましたので、エピソードを分割して読みやすくしていきます。
 現状では文字数で機械的に分割を行っていますので、単純にページが増えているという感じでお読み下さい。
 こちらもマイペースで進行いたしますので、ご容赦ください。
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