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第二章 冒険出発の篇

45-1 村での夕べ

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 ニコの案内でアイたちがギリアの家を訪ねた時、入口でアイたちを出迎でむかえたのはやはりさっき人混みからギリアの元にやって来た女性だった。

アイ「ギリアさん、お加減かげんはいかがですか?…」
アユミ「あの~、少しでも早く良くなっていただこうと思って、お邪魔しました…」

 ギリアの家も板壁、板ぶきだったが、村長の家よりはずっと小さかった。
 アイとアユミ、ナオが入口から室内を見ると板張りの床にキツネや野犬のような獣の皮があちこちにかれている。
 ギリアはそんな獣の皮の上で横になっていたが、その女性に支えられながら起き上がった。

ギリア「あんた方には、何とお礼を言えばいいのか…化け物熊から子供たちを守ってもらっただけでなく、オレの怪我まで直してもらったのに…
 しかも途中まで運んでもらいながら、オレは何の礼も言わずに…本当に申し訳ない…」

 頭を下げるギリアの隣で、例の女性も深々と頭を下げた。

女性「私はギリアの妻でミギアと申します。今日は主人と子供たちを助けていただき、本当にありがとうございます。
 不作法ぶさほうな主人が何のお礼も申さず、本当に申し訳ございません。」

 アイとアユミは2人の丁重ていちょうすぎる礼に言葉が出ない。ナオがその様子を見て助け舟を出す。

ナオ「ミギアさん、私たちはギリアさんにまた魔法をかけるために来ました。担架たんかで運ばれていた時もまだ傷がいたむご様子でしたので…」
アユミ「先ほどドニアさんからもうかがいましたが、この村にはまじない師のような方もおられないと聞きましたから…」

 ギリアとミギアは思ってもみなかったのだろう、お互いに顔を見合わせる。

ギリア「いや、あんた方にはもう十分にしてもらった…クマから助けてもらって傷も直してもらった…これ以上のことをしてもらうわけには…」

 断ろうとするギリアに対してナオが言う。

ナオ「私たちは最初にいた小屋を離れてからずっと人に会いたいと思ってました。
 あんな形でしたがギリアさんたちにお会いできましたし、そのおかげで村長や長老の皆さんからお話を伺えました。
 私たち、ギリアさんにも村の皆さんにもお礼をしたいんです。」

 ナオがアイやアユミの顔を見ると、2人もうなずいてギリアに頭を下げた。

アユミ「どうか治療をさせてもらえませんか?…」

 ギリアはしばらく黙っていたが、ナオやアユミの真剣な顔を見て口を開く。

ギリア「…分かった…申し訳ないが、また魔法をかけてもらいたい…」
ミギア「本当にありがとうございます。」

 2人はまた頭を下げると、ナオとアユミ、そしてモアを家に向かい入れた。
 ギリアの家はそれほど広くないので他のメンバーは外で待つことにする。

 ミギアは家の外まで来て、アイや他のみんなにギリアと子供たちを助けてもらったことに対して何度も礼を言った。
 すると、ニコがそばに寄ってくる。

ニコ「皆さん、ギリアさんの家にいる方は後で私が案内しますので、皆さんは先に用意した小屋へ参りませんか?」

 ニコの言葉にアイはソラに小声で話しかける。

アイ「どうしよう…」
ソラ「この人の言う通りにしようよ…」

 ソラがそっと辺りを見渡すと、こちらに寄ってこないがさっきからずっと村の者が家のかげや物陰から自分たちのことを見ている。

アカリ「とにかく、いったん小屋へ行こう。」
アイ「分かった…」

 アイがうなずいてニコに小屋への案内をお願いすると、みんなで小屋へ向かった。
 村が用意してくれた小屋も他の小屋と同じく板葺、板壁で多少古く見えたが、9人もいるからだろう、他のものよりはずっと広い。

ニコ「ここは以前、他の村へと移っていった者の家でした。汚い家で申し訳ありません。」

 ニコはそう言うが、家の中はきれいに掃除されていて板張りの床にはほこり一つなく、ずっと誰も住んでいなかったとはとても思えない。
 それでも小屋の中には机や椅子のようなものは何もない。アイたちはみんなでニコに頭を下げた。

アイ「ありがとうございます。私たちのためにこんなにきれいにしていただいて…本当に助かります…」

 ニコはにっこり笑うと、どうぞごゆっくりとだけ言ってギリアの家の方へ行った。
 小屋に入るとソラがすぐに毛布を出して寝転がり、大きく伸びをする。
 他のみんなも同じように銘々めいめいが毛布を出して座ったり、寝転がったりした。

ソラ「あー、疲れたー…大変な一日だった~…」
アカリ「残念だけど、まだ終わってないみたい(笑)…」
ルカ「なんか、歓迎のもよおしをするみたいなこと言ってたね…」
タクミ「…あ~、オレ、もうこのまま寝たい…」
アイ「まあ、そうはいかないねー…私たちが主賓しゅひんだからね…」

 みんな、しばらくの間ぼんやりとしている。と、ツグミがぼそっと言う。

ツグミ「…村長さんの家でもらった水って、大丈夫かなぁ…」

 アイが怪訝けげんな顔をして身体を起こす。

アイ「大丈夫って、どういう意味?」
ルカ「なに?毒でも入ってるような感じだった?」

 ツグミがあわてて首を振った。

ツグミ「そう言う意味じゃなくて…生水って、あんまり飲むな、って言うでしょ…」
タクミ「ヤバいかな…」
ソラ「確かに…結構飲んじゃったけど…」
アカリ「心配し過ぎだよー(笑)…後でアユミかモアに『ケア』でもしてもらおう…」

 全員が毛布の上に転がっていると、そこにアユミとナオ、モアがニコに連れられてやって来た。
 アイがすぐに立ち上がって聞く。

アイ「ギリアさん、どうだった?…」
アユミ「大丈夫…私とモアが『ヒーラー』をしたら、かなり痛みも収まってきたみたい…」
ナオ「いつ、ここを離れるのか分からないけど…とりあえず居る間はしてあげようって、ここに来る時に話し合ってたから…」
アカリ「せっかくだったら、元気に歩けるようになってほしいね…」
モア「そう、そんなこと、私たちも言ってたの…」
ルカ「良くなってきてよかった…」

 最初に会った時のギリアの様子を思い出して、みんな安心する。

 そんなことを話している間に、うたげの用意が出来たという使いがやって来た。
 全員でゆっくりする間もなく、みんないそいそと案内されるがまま歓迎の場所へと向かう。

 外は段々と暗くなってきていた。家々が並んでいる、その向こう側はどうやらすぐに森になっているようだ。
 アイたちがぞろぞろと歩いていると、またツグミが不安そうに言う。

ツグミ「…宴って…お酒とか出るのかな…」

 お酒という言葉を聞いて、何人かが顔を見合わせる。

ナオ「お酒が出ると思う?」
アイ「この感じだと、出そうな気がしない?」
ツグミ「…そんな気がする…」
アカリ「みんな、どう?お酒、飲めそう?…」
ソラ「私はちょっとぐらいなら、イケるけど…」
タクミ「オレもまあ少しぐらいは…」
アユミ「私はぜんぜんダメ…」
ツグミ「私、飲んだことないよ…」
ルカ「私も…」

 アユミやツグミ、ルカが暗い表情をするのにモアはニコニコして言う。

モア「え~、あんなの全然大丈夫だよー…」
アイ「あんたはいいかもしれないけどねー…」
ナオ「無理して飲んで悪酔わるよいしたりしたら、マズいかも…」
アカリ「アイ、どうする?…」

 アイは一瞬立ち止まるが、案内の女性が少し急かすようなしぐさをするのでとりあえずまた歩き出した。

アイ「私たちが別の世界から来たってことは村の人も知ってるわけだから、無理せず、お酒は飲めないって正直に言おう…」
アカリ「変に我慢しないで、正直に言うのが一番だね…」
ナオ「私もそれがいいと思う…それに何が出てくるか、私たちには分からないから…」

 ナオはうなずいて、アユミやツグミはホッとした様子を見せる。

アイ「分かった…私から村長に言うね…」
モア「どんなお酒か、ちょっと興味あったけど…」
ソラ「あんた、ねぇ~…」








*楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、「いいね」や「お気に入り」をいただければ励みになります。
 また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。

*2025年10月15日
 読みやすさ改善のため、文章を大幅に変更しました。
 一部の語句や文章の修正も行っていますが、内容は変更していません。
 今後も文章の改変を随時行っていきます。ゆっくりマイペースで行いますので、どうかご理解下さい。

 2025年12月17日。
 文字数がかなり多いエピソードが増えてきましたので、エピソードを分割して読みやすくしていきます。
 現状では文字数で機械的に分割を行っていますので、単純にページが増えているという感じでお読み下さい。
 こちらもマイペースで進行いたしますので、ご容赦ください。
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