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第二章 冒険出発の篇

52 駅馬車の旅 1

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 次の日は陽が昇る前にみんな起き出して、急いで簡単な食事をませた。
 それからナニに言われた通り、お互いに『ヒール』をしっかりとけ合う。

 全員が小屋を出るとそこにニコがやってきた。

ニコ「おはようございます。馬車が停まっている場所までお送りいたしましょう。」

 やっと辺りが明るくなりだすような時間にニコが来たのでみんな驚いてしまう。

アイ「あのー、早朝から申し訳ありません…」

 ニコは何も苦ではないという様子で微笑む。

ニコ「皆さんのお世話をするのが私の仕事でしたし、皆さんの見送りもしたいですから…」

 ニコはそう言いながらアイたちを案内していく。アイは先を行くニコに声を掛けた。

アイ「ニコさんにもお礼を言わないといけなかったのですが…昨日はすいませんでした。」

 ニコは足を止めて振り返った。

ニコ「どうか皆さん、お気遣きづかいのないようにお願いします。私は自分の仕事をしただけですので…」
ナオ「そう言われても…宴会のお肉のこととかそれ以外にも…」

アユミ「そう、本当にいろいろ気をつかっていただいて、ありがとうございました。」
アイ「私たち全員がニコさんのおかげでいろんなことで助けてもらいました。本当にありがとうございました。」

 全員がニコに向かって頭を下げると、ニコは黙ってうなずいてまた先を進み出した。

 駅馬車のところにはナニ以外にも人が集まっていた。
 アイが驚いてよく見ると、村長やギリア一家、ドニアや他の猟師りょうしたちがいる。彼らはアイたちを見つけるとすぐそばに寄ってきた。

アイ「こんな朝早くから本当にすいません。」
村長「せめてお見送りだけでも、と思いまして…」

 そんなアイたちにナニが声を掛ける。

ナニ「やって来たのかい?じゃあ、荷物をせてくれ。」

 アカリが馬車の様子を確認するナニのところへ行く。

アカリ「あのー、実は私たち、荷物が無くて…」
ナニ「荷物が何もないって?」
アカリ「その…実は容量の大きなストレージをそれぞれが持っていて、それに自分たちの荷物はしまっています。」
ナニ「そんなに大きなストレージなのか…」
アカリ「はい…武器でも毛布でも何でも入るぐらいの…」

 ナニはアカリの説明に納得なっとくしたのか、何度もうなずく。

ナニ「じゃあ、馬車に乗ってくれ。すぐに出発するからな。」

 馬車は二頭立てで大きな麻布あさぬのほろが掛かっている。
 アイたちは互いに助け合って馬車に乗っていく。
 アイはもう一度見送りに来てくれた村人たち全員と握手をした。

アイ「本当にありがとうございました。皆さんのことは決して忘れません。」
ギリア「それはこっちの言葉だ…本当にありがとう。」
村長「どうかご無事で…皆様の希望が果たされますように…」

 アイが乗り込むと馬車はすぐに動き出した。

アイ「皆さん、さようなら‼」

 アイたちが馬車の後ろから手を振ると、村人たちも手を振り返した。

 馬車は少しずつスピードを上げる。だがそれでも人が少し早足になるぐらいのスピードだ。
 道は最初思っていたほどの悪路ではなかった。一応砂利じゃりいてあって道が波打っているような感じではない。
 だが、それでもあちこちに穴があったり、石や木の枝も転がっていたりする。

 馬車はもちろんゴムもついていない木の車輪で、車体にはサスペンションもない。
 ゴトゴトというれは途切れることなく続き、穴に落ちたり何かに乗り上げたりしてしょっちゅうガタンといって大きく揺れる。

アイ「う~ん、これは結構大変だ…」
アカリ「うっ、うっ…こりゃすごい…」
タクミ「いっ、いや、ちょっと、ガタガタ過ぎる…」
モア「ダメだよ…酔っちゃうよー…」
ソラ「うーん…魔法しとけっていう意味はこれか…」

 馬車は単に揺れるだけではなかった。
 上り坂がきつければ、アイたちが降りて後ろから押さないといけなく、逆に下り坂では猛スピードが出た。

ナオ「これは…ジェットコースターの方がマシだよ…」
アユミ「このゴトゴトが意外とキツイね…」

 馬車は決してスピードを出しているわけではなかったが、揺れがひっきりなしに続くのが皆に次第しだいにこたえてくる。
 誰もが荷台のすみほろめる支柱につかまって何とか頑張がんばって馬車に乗り続けるが、みんな乗り物酔いになってアユミとナオとモアが交代で仲間たちに魔法をかけ続けた。

 こうして太陽が頭上にまで登ったぐらいで、ナニはやっと馬車を停めた。
 全員がうのていで馬車を降り、何人かは我慢できずにそばの木の下にいてしまう。

ナニ「大丈夫じゃなさそうだな…まあ、仕方ない…魔法もあるようだし、二日もすれば慣れてくるさ…」
アイ「…どうもすいません…」

 ナニは平気で馬の方へ行き、近くの小川から水をんできて馬たちに飲ませた。
 馬は2頭ともずっとそこら辺の草を食んでいる

 その間アイたちはお互いに魔法を掛け合ったり、水を飲ませ合ったりして何とか回復しようとしていた。
 ナニがその様子を見て言う。

ナニ「今はとても話ができる感じじゃなさそうだな…」
アユミ「…みんなすっかり具合が悪くて…」
ナニ「今日は客人が乗っているわりには速く進んでる。
 このペースだと夕方の早い時間に次の村に着けそうだ。
 そこでゆっくりしてから話をしようか…」
アイ「…いろいろすいません…」
ナニ「まあ、馬車に初めて乗る客はみんなそうだ。
 それでも歩くよりも2倍か3倍は速いからな…」

 ナニは「まだしばらくここにいるからゆっくり休め」と言うとまた馬のところへ行った。
 アイたちはさすがに誰も口をきかず、みんな地面にぐったりして寝転がっていた。

 馬車は小一時間ほど休憩をしてから再び出発した。
 相変わらず揺れはひどかったが、徐々にアイたちも慣れてくる。
 午後からは坂道のアップダウンもほとんどなく、それも少しだけ彼女たちを助けてくれる。
 そしてまだ陽も高い4時過ぎに馬車は最初の村に到着した。

 みんなが馬車から降りるとナニがすぐにやって来る。

ナニ「そう言えば、あんたらはお金を持ってるのか?」
アユミ「持ってはいるんですが、金貨ばかりで…」
ナオ「馬車の乗車代はいくらになりますか?」

 ナニは首を振って言う。

ナニ「馬車の代金はいいんだ…村長からその分はもらってるんでね…だが、金貨ばかりだと宿代が払えないな…」
アイ「両替はできないでしょうか?」
ナニ「この村で両替は無理だ。目的地のドムニにしかこの辺りでは両替所はない…
 じゃあ分かった、ドムニに行くまでの宿代は俺が立て替えておく。
 その代わりにドムニで両替をしたらその分をすぐにはらってくれ。それでいいな。」

 アイはうなだれて頭を下げた。

アイ「…すいません…ご迷惑をおかけします。」
ナニ「いや、気にするな。それにそんなしけたつらするなよ。
 金はあるし、あんた方がこの世界に不慣れなのも分かってる。できないことはできないんだから仕方ないだろ。
 とりあえず宿へ行こう…そこでしばらく休めばいい…」
ナオ「…ありがとうございます…」

 ナニは馬車から馬たちを外して手際よくうまやへと連れていって世話を頼む。
 馬車の管理もまかせると、疲れ切ったアイたちを行きつけの宿へと連れていった。

 宿屋は一階が酒場兼食堂で、二階に宿としていくつかの大部屋が並んでいる。
 部屋は板張りの床でベッドはおろか、家具のようなものは一切無く、12,13人ぐらいは横になれそうな広さだ。
 部屋の隅には毛布が積んである。

ナニ「ここは大部屋しかないから当然俺たち全員が同じ場所に泊まるからな。
 ただ、俺はドアのすぐ傍で寝かせてくれ。日の出前に馬の世話をしないといけないからな。」

 ナニはそれだけ言うとまた厩へと戻っていった。アイたちはみんなそれぞれに毛布を出してすぐに横になる。

 ナニが厩から戻ってきたのはもう陽が落ちてからだった。
 アイたちはそれまでに起き出してパンやハムなどを出して食事の用意をしていた。
 戻ってきたナニはその様子を見て驚く。

ナニ「おお、これはすごいな…これから酒場へ行こうと思っていたが、その必要はなさそうだな…」
ナオ「今日は一日ありがとうございました。これ、食べてください。」
ナニ「いいけど…俺はこれでも結構食う方だが、量は大丈夫か?」
アユミ「大丈夫です…足りなかったら、また出しますから…」
ナニ「出しますってか…ということは魔法があるんだな。じゃあ、遠慮なくいただこう。」
ルカ「飲み物もありますから…」

 さすがに一日中働いていただけあって、ナニはアイたちの3,4人前をあっという間に平らげた。
 逆にアイたちはまだ馬車の酔いが残っていて、何人かはツグミやモアが作っておいた代用かゆを少し口にするぐらいだった。

 それでもアイとアカリが食事をしながら自分たちのことをナニに説明する。
 ナニはしばらく食べながら何も言わずにその話を聞いている。
 そして最後のパンを食べ終えて飲み物を飲み干すと、おもむろに口を開いた。

ナニ「…なるほど、勝手にこの世界に連れてこられて、一応能力と武器や金だけは渡してほうっておかれた、と…
 確かにそれじゃあ、なすすべ無しっていう感じだな…分かった、とりあえずこれからのことを話そう…」

 全員が食事をして片付けも終わると、ナニはゆっくりと話し始めた。

ナニ「今晩はとりあえず、ギルドへ行くまでにしておくべきことを話そう。
 一つ目は金貨を両替りょうがえすること。二つ目は武器を買うこと。
 三つ目は…まあちょっと違うが、あんたたちがしっかりと顔をかくしておくこと、だな…」
ソラ「顔を隠すって?…」

 アイたちはナニの言葉を聞いてお互いに顔を見合わせる。

ナニ「まずはさっきも言ったように両替だ。
 ドムニの両替所に行けば金貨は1枚で銀貨100枚、銀貨は1枚で銅貨100枚に替えてもらえる。
 ただ、金貨は両替するたびに手数料がかかる。
 ドムニなら金貨1枚で手数料は銀貨7、8枚ぐらいっていうところだ。」
ナオ「『ドムニなら』っていうことは、別の町なら違うってことですか?」

ナニ「そう。例えばこの辺りで最も大きいリラの街なら手数料は銀貨4,5枚だろう。
 だいたいドムニだと金貨を持ってる奴が少ない。だから両替もそれ程必要ない。
 だがリラだと金貨を持ってる奴も多いから両替も頻繫ひんぱんだ。そうなると両替の少ないところは手数料が高くなる。

 だが、村や町で使うのはほぼ銀貨と銅貨だ。だからそれがないとやっていけない。
 あんたたちなら金貨20枚ぐらい両替しといた方がいいだろう、人数がいるからな。
 金貨なんて出しても持ってかれるだけだからな。あんまり出したりしちゃダメだぜ。」

ソラ「金貨って使い道あるんですか?」
ナニ「これからそのことも話そう。次にるのは武器だ。
 あんたたちはストレージに武器も入れてるって聞いたが、一度それを見せてくれ。」

 ナニに言われてそばにいるアカリがストレージから剣を出して渡す。ナニはその剣をツグミやソラが出した光にらしてよく調べる。
 それから少しだけ剣を抜いて中身も確認してからそれをアカリに返した。

ナニ「この剣はダメだ…」
アイ「ダメって、どういう意味ですか?」
ナニ「この剣はな、王侯貴族が使うような、いわゆる宝剣っていうヤツだ。
 さやのところに細かい装飾そうしょくが入ってるだろ。
 新米の勇者が使うもんなんてそんな装飾なんか入ってない。それに剣自体も鉄じゃないだろう?」
アカリ「ええ、何か特別なものらしいです…」

ナニ「そんな剣をぶら下げて町の中を歩いてみろ。衛兵にとっ捕まってその剣をどこで手に入れたか、こってりしぼられるだけだ…」
ルカ「それって盗んだって思われるってことですか?」

ナニ「そうだ。平民がこんな上等なもの、買えるわけがない。
 俺は目利きじゃないが、この剣一振りで金貨500枚とか下手すりゃ1000枚とかになるんじゃないか…」
アユミ「そんなに…」

ナニ「他の武器もそれほど変わらないだろ?そんな武器は町中で持って歩けやしない。
 だが、冒険者ギルドへ行って勇者パーティーに登録しようってヤツらが剣の一振りも持ってないっていうのは、それはそれでおかしい。
 だからドムニの町には俺の知り合いの店があるから、そこで一通りの武器をそろえりゃいい。
 戦う時には今持ってる上等なヤツを使って、町中では買った安物を持って歩くってことだ。」
ナオ「その武器を買うのに金貨が要るってことですか?」

ナニ「なかなか察しがいいな。武器は剣一振りでも最低3ゴールドぐらいする。
 だから武器を買うにはどうしても金貨が必要になる。

 まあ、金のことはそんなに心配するな。
 その店は町に冒険者ギルドがあるから安くて良い武器を揃えてるし、俺は馴染なじみだから店のオヤジに顔もく。
 無愛想ぶあいそうなオヤジだが悪い奴じゃないし、鈍刀なまくらつかませてもうけようってこともない。
 あんたたちに合ったものを見繕みつくろってくれるだろう。」
アイ「わかりました…」

 ナニはナオが足した飲み物を一口飲む。

ナニ「ところで、今持ってる武器はその剣だけかい?」
アイ「武術の能力を持ってる者は剣とやりとかほかとかで、魔法を使うのはそれぞれつえを持ってます。」
ナニ「杖は普通の木の杖なのか?」
アユミ「杖にも特別な金属が嵌ってます。」
ナニ「そうか…じゃあ杖も要るな…他によろいかぶと、弓矢とかはないのか?」
アカリ「そういったのは…」

ナニ「分かった…そういったものも店で言えば出してもらえるだろう。
 武器はとりあえず剣士のヤツはそれぞれが普通の剣と、1,2人は槍でも持っておいて、魔法使いなら木の杖だな。
 それにそこは武器だけじゃなく食器でもかまなたでも、食料も小麦粉や豆ぐらいなら置いてるから必要なものを探せばいいだろう」
アユミ「お願いします…」
ナニ「さてそれで…次も大事なことだ…」
ナオ「顔を隠すってことですね…」

 ナオが意味が分からないという感じでナニに尋ねる。

ナニ「その前にあんたたちに聞きたいんだが…あんたたちは自分自身のことをどう思ってるんだ…
 あまり顔を隠そうともしないし、自分たちが女だってことも気にしてないように見えるが…」
アイ「まだおっしゃってることの意味がよくわからないんですが…」
ナニ「正直に言えば、自分たちのことを美人だと思ってないのか、ってこと。なあ、お前…」

 ナニはそう言って、輪の向こうにいるタクミを指す。

ナニ「え~と…」
タクミ「…あっ、オレはタクミって言います。」
ナニ「その、タクミは一人だけ男だが、あんたはこの子たちのことを美人だとは思ってないのか?
 それともあんたたちの世界にはこんな美人しかいないのか?
 だったら是非あんた方の世界へ行きたいがね(笑)…」

 タクミは一瞬何と言えばいいのか迷うが、一応正直に答える。

タクミ「…いや、みんな美人だと思ってますし…それに元いた世界でも、みんな美人ですよ…」
アイ「…タクミ…」
ソラ「いやいや、そうだよね(笑)…ありがと、ありがと…」
アカリ「ソラ、なに言ってんの?全く…」

 ナニは一瞬ニヤリとするが、すぐに真面目な顔に戻った。

ナニ「やっぱそうだよな。だがな、あんたたち自身がもっと自分たちが美人だと分かってなきゃダメだ…
 いいか、この世界では美人ってのはそれだけで大きな力だ。だが、それだけにそうした美女をねらってる男たちがわんさかいる。

 例えば貴族の中には平民の女で美人なのを見つければ、有無を言わせず自分の屋敷に連れ帰って自分の側女そばめにしてしまう奴だっていくらでもいるんだ。」
ツグミ「そんな…」

 ツグミを始め女の子たちはみんな硬い表情になる。

ナニ「だからこの辺りの片田舎ならいいが、これから行くような町中では絶対に顔を見せちゃいけない。
 何か顔を隠すようなものは持ってないのか?」

 ナニに言われて全員が自分たちの持ち物を調べる。

ルカ「このマントってどうかな?」

 ルカがストレージから取り出したマントを羽織はおってみる。
 マントに付いたフードをかぶると頭全体が隠れた。

ナニ「そう、それだ。いいか、町中ではいつもそのマントを着てずっとフードを被ってるんだ。
 決して顔を出しちゃダメだからな。」
アカリ「それって、女性って知らせたらいけないってことですか?」

 アカリの問いにナニは首を振る。

ナニ「いいかい、今のあんたたちは旅の最中で十分な身だしなみも出来てないし、着てるものも男物の勇者のようなものだ。
 それでもあんたたちがそこら辺の女たちよりずっと美人だというのは誰が見てもわかる…

 ましてや身だしなみを整えて、貴族が着るような服を着ればあんたたちはこの辺りの田舎貴族のお姫様なんか歯が立たないほどの美貌びぼうの持ち主なんだ。
 だから顔をさらして出歩くなんてあり得ないことだぜ。」

 アイたちが目を丸くして女の子同士、顔を見合わせるのを見て、ナニはやれやれという表情をした。

ナニ「いいか、もう一度言うがあんたたちはこの辺じゃちょっとお目にかかれないほどの美人ばかりだ。
 だから顔なんか出してちゃ、ねらってくださいって言ってるようなもんだ。
 とにかく自分たちが美人だって自覚して自分自身を守るようにするんだ。
 顔を隠すのはその一番初歩だ。分かったか?」
アイ「…はい…」

 それでも女の子たちはまだ互いに顔を見合わせて、ナニの言うことを信じられないという顔をした。
 ナニはそんなアイたちの様子を見て少し苦笑する。

ナニ「もう一つ注意しないといけないのはストレージのことだな。
 ストレージ自体はこの世界だと誰でも持ってるんだが、あんたたちが言う何でも入るような大きなストレージを持ってるヤツはほとんどいない。
 大部分の人たちは400か500gが入る程度の容量しかないし、大きくても2,3㎏で、5㎏も入れば相当大きいってことになる。

 ごくまれに有名な勇者パーティーのリーダーなんかが100㎏とかそれ以上の容量のストレージを持ってたりするが、そういうのは大抵前のリーダーからそんな力を死にぎわに引きいだようなもので、本当に特別だ。
 だから、あんたらみたいにまだ若い勇者パーティーが武器でも何でも入るようなストレージを持ってるのもあまり知られない方がいいだろうな…」
ソラ「なんか、知られちゃダメなことばかりみたい…」

 ソラが何気なくらした言葉を聞いてナニはニヤリとする。

ナニ「そうだ、それだけ特別なものをいっぱい持ってるってことだ。そうしたことをもう少し気にした方がいいんじゃないのか?…」
アユミ「特別なものって…」

 アユミやツグミはナニに言われたことの意味を顔を見合ってちょっと考えるようなしぐさをした。
 が、気づいたらナニはもう寝る準備を始めていた。

ナニ「さあ、とりあえず今日の話はここまでだ。明日も夜明けの出発だからな。
 俺はもう休ませてもらうぜ、朝から馬の面倒めんどうも見なくちゃならないんでね…」

 ナニは持ってきていた麻袋あさぶくろから革袋かわぶくろを取り出すと、その中身を一口、二口飲む。

ナニ「こいつは酒でね…じゃあ、おやすみ。」

 ナニは床に寝転がって毛布を被るとすぐにいびきをかき出した。
 その無駄のなさに他のみんなはただただあっけに取られていた。

アカリ「とにかく私たちももう寝よう…」
ナオ「…そうね。また明日も一日揺られなきゃならないし…」
モア「もー、大変だったよ~…」
タクミ「疲れた~…」
ソラ「まだ初日だけどね(笑)…」
ツグミ「じゃあ、灯りも消すね…」
アユミ「おやすみ…」
アイ「おやすみー…」

 みんな疲れていたのだろう。ナニのいびきを気にすることもなく、誰もがすぐに眠りに落ちていった。







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