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第三章 クエスト開始の篇

61 ゴブリン退治 2

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 朝。

 陽がのぼるとすぐにみんな起き出し、テントから出て真っ先に目の前の山の様子を確認する。
 その目に映るのは山のふもと近くまでゴブリンたちが群がっている姿だった。
 アイはその様子にちょっと肩を落とす。

アイ「フー…やっぱりね…」
アユミ「アイ…」
アカリ「仕方ない…想像通りだよ…」
アイ「まあ、そうなんだけど…」

 少し口惜くやしそうな顔をするアイの肩をアカリはポンと叩く。

ナオ「まあ、気持ちは分かるけど…少しずつやっていこう…」
ルカ「そうだよ…無理せずがんばろう。」
アイ「…わかった…」

 アイがうなずくと他のみんなは食事の用意を始める。
 テントから出てきてもまだ寝ぼけまなこのモアが、誰ともなく尋ねる。

モア「ねぇ、このテントってこのままでいいんだよね?」
ルカ「あー、どうなんだろう?」
アユミ「アイ、テントってこのままにしとくの?」
アイ「そうだね…」
ソラ「このままでいいんじゃない?今日で終わりそうもないし…」

 みんなの意見が聞こえたのか、ナオが飲み物をそそぎながら言う。

ナオ「でももし山の上までゴブリンを追っていって、そこで夜明かすとしたらどうする?」
アカリ「その可能性はあるかも…」
タクミ「山の上の方だとこの大きなテントは張れないから、これはこのままでいいんじゃないかな…
 上では小さい方のテントを張ればいいと思うけど…」

 タクミの言葉にアイは少しホッとしながらうなずいた。

アイ「タクミの言う通りだよ…このテントはこのままにしとこう…」
アカリ「了解…」

 アユミは手を叩いてみんなをうながす。

アユミ「パンも飲み物も用意できてるから、朝食を済ましてしまおう…」

 食事を終える頃には辺りはもう明るくなってきた。
 アイたちは昨日のグループ分けのまま、今日も山へ入っていく。

アイ「今日もゴブリンの数を減らすようにして、無理に追いはらうことをしなくてもいいから…」
アカリ「わかった…」
タクミ「ゴブリンの死骸もそうだけれど、魔石も残ったままなんだけど…」
ツグミ「そうだね…」

 昨日はとにかくゴブリンを倒すことばかりに集中していたが、ゴブリンの死骸が増えていくにつれ、そうしたものが目に付くようになってきた。

ナオ「気になるのは分かるけど、今はまずゴブリンを最終的に追い払うことを考えようよ…」
アユミ「そうだよ…後片付けはそれからだよ…」
ソラ「まずは目の前のゴブリンを倒すこと!」

 ソラはなぜか山を見上げながら片手で山を指し、もう一方の手は腰に当てて表情をキメて大きな声を出す。
 すると、その横でモアもソラと同じ格好、同じ顔をする。
 アカリやルカがそんな2人の様子に吹き出した。

アカリ「そんなに燃えなくてもいいって(笑)…」
ルカ「(笑)…」
モア「燃えるー‼」
アイ「もういいよ(笑)…さあ、いくよ!」
全員「了解(笑)!」

 アイたちが昨日と同じメンバーで二手に分かれて山に上っていくと、ゴブリンたちは昨日のことがあるからなのか、彼女たちの姿を見ただけでバラバラに散らばって逃げていく。
 アイたちは無理して追い立てずにまずは逃げ遅れたゴブリンを倒していくことに専念した。

ギャー、ギャー、ギャー…

ソラ「おっと、逃げんじゃないよ、コイツ。」
タクミ「えい、えい、えい!あっ、待てっ。」
ツグミ「タクミ君、あんまり一人だけで行っちゃダメだよ…」
アカリ「バラバラにならないでね!」

 ゴブリンたちは昨日よりもずっと早く、群れになって山の上へと逃げ出した。
 それの動きを見たアイやナオは山の木々の間からグループで道の方へ戻ってくると、反対側のしげみに入っているアカリたちに合図する。

アイ「アカリ!タクミ!上の方へ追い立てていくから!」
アカリ「オーケー!こっちもそうする。」
ナオ「昨日みたいに「ウィンド・ブロウ」で驚かせてね。」
ソラ「わかった!」

ウギャ、ウギャ、ウギャ…

 全員が道へと出てくると、魔法を使えるメンバーが風でゴブリンの群れを驚かせ、他のメンバーは逃げ遅れたものを倒していく。

 そうやって群れを追っていくと、ちょうど昨日引き返した開けた場所にまでやってきた。
 ルカがまだまだゴブリンを追いかけようとするアイやソラの背中に声を掛ける。

ルカ「ねぇ、ちょっとここでひと休みしよう。がんばり過ぎるともたないよ…」
アユミ「そうだよ…休憩しよう…」
モア「休憩、休憩!」

 ソラは立ち止まって「えー」という顔をするが、アイは素直すなおに戻ってきてうなずく。

アイ「じゃあ、ここで一服ね…」
ソラ「勢いも大事じゃない?」
アカリ「まあまあ、落ち着きなよ…」
ナオ「ルカやアユミの言う通りだよ…」
ソラ「仕方ないなあー…」

 全員がルカが出したオレンジジュースを飲むと、休息と糖分とうぶん補給ほきゅうのおかげで力が戻ってくる。

ソラ「よおーし、もういっちょ行くぜー!」
アカリ「がんばろう(笑)!」
ルカ「ソラ、張り切り過ぎだよ(笑)…」
アユミ、ナオ「(笑)…」

 だがソラが心配していた通り、ゴブリンの群れはアイたちが追ってこないと分かるとこちらも固まって休憩をしていたようで、動かずにこちらをうかがっている。
 アイたちが「ウィンド・ブロウ」で強風を起こしたり、石を投げつけたりしても何匹かが逃げるだけで群れ自体はじっとしたままだ。

アカリ「もう一度、ちゃんと攻めないとダメみたいね…」
アイ「もうおどしはかないか…」
ナオ「みたいね…」
ソラ「じゃあ、やってやろうよ…」
アユミ「無理しないでね…」

 アイたちはまた二手に分かれると、ゴブリンの群れの中に入り、一匹ずつ倒していく。
 ゴブリンたちはさっきまでよりももっと多くの群れになってアイたちに向かってきた。

ギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー、ギャー…
ウギャ、ウギャ、ウギャ、ウギャ、ウギャ…

タクミ「わっ、なに、この数?」
ソラ「えい、えい、ヤバいってこれは…」
ツグミ「タクミ君もソラちゃんもこっちへ来て!」

 ツグミやモア、ナオが『バリア』を出してゴブリンたちの突進を防ぎ、アイやアカリたちも『バリア』越しに弓矢や石で反撃をする。
 アイたちがしっかりと守りを固めたおかげか、魔獣たちのまとまった攻撃もすぐに勢いを失ってゴブリンたちは再び山のもっと上へと移動し始めた。

ソラ「また逃げ出したよ!」
アイ「よし、もっと上まで追っていこう!」

 アイたちは攻撃する手をゆるめず、逃げるゴブリンたちを追いかける。魔獣の群れは山の頂上まで上っていく。

 みんながゴブリンを追って頂上までやって来ると、その頂上からは向こう側のもう一段高い山へと続く道がある。
 だがその道は鬱蒼うっそうとした山中の森にあって、しかも細い一本道になっている。
 ゴブリンたちは道だけでなく、森の木々の間へと入っていくが、アイたちが進むにはその細い道しかない。

アカリ「なんか結構ヤバそうな道なんだけど…」
ルカ「でも、ここしか行けるとこはないみたい…」
ソラ「ゴブリンに待ち伏せされてるってことはない?」
ナオ「待ち伏せは分からないけど…森の中には結構な数がいるみたいね…」

 ナオが『索敵さくてき』を確認しながら、慎重に山の様子を探る。このまま先に進もうとするアイやアカリ、ナオやソラにアユミが言った。

アユミ「ねぇ、ここで少しでいいからなんか食べよう。朝からずっと戦ってきたんだから…」
ツグミ「水分とエネルギーの補給ほきゅうは必要だよ…」
アカリ「そうだね…」
アイ「…わかった。」

 みんなは頂上のあちこちにある倒木や石の上に座って、それぞれがパンや飲み物を少しずつ口にする。
 アイはその間も山林から目を離さず、ナオやソラも『索敵』で群れの様子を探っていた。

 アカリはそんなアイの様子を見ると、地面に置いてあるオレンジジュースの入った入れ物を手にして彼女のそばへ行く。

アカリ「アイ、もう少しジュースらない?」

 アイは話しかけられるまでアカリがそこに来ているのに気づかなかったのか、言われてちょっとびっくりする。

アイ「あっ?あ、ありがとう…」

 アカリはそんなアイの肩を軽く叩く。

アカリ「そんなに気を張らなくても大丈夫だよ…」
アイ「アカリ…」

 アイがうなずくと、2人のところにナオが近寄ってきた。

ナオ「この道の先にある開けた場所にゴブリンがかなり固まってるみたい…」

 ナオの言葉を聞いて、全員が集まってくる。アイとアカリはちょっと見合ったまま考えていた。

アイ「そこに何かあると思う?」
ナオ「何かがあるとか言われると、わかんないけど…」
ツグミ「でも、ちょっと気になるかな…」

 みんなは難しい顔になるが、アイははやる気持ちを振り払うように首を何度か横に振る。

アイ「とにかく、注意しないといけないところってことね…慎重に進んだ方がいいみたいね…」
ソラ「確かに…」
アカリ「ゆっくり進んだ方が良さそうね…」

 ナオやツグミに言われて、全員の緊張感が高まる。

アイ「ここからはバラバラにならないように、それぞれが確認し合って進んでいこう…」
全員「わかった…」

 それぞれが木剣もっけんこんを手に、アイとアカリを先頭に山林の中へと入っていった。

 ゴブリンたちはさっきと同じようにアイたちの動きをうかがうと、逃げ出すことなくこちらを見ている。
 そして彼女たちの武器が届きそうなぐらいにまで近づくと、バタバタと森の奥へと逃げていった。
 アイたちも無理に追ってはいかず、少しずつ先を進む。

ツグミ「このずっと奥まで道は続いてるんだけど、この先にゴブリンが固まってるみたい…」

 ツグミが『索敵』で見える森の奥のことを伝えると、全員が一度足を止めた。

アイ「その固まってる場所に、何かあるのかな?…」
ナオ「私の『索敵』にも『地図』にも、特別なものはうつってないけど…」
アカリ「でも、何もなしで集まってることはある?…」

アユミ「確かに、ゴブリンにとっての何かがあるかもしれない…」
ソラ「あんまり闇雲やみくもに突っ込んだらヤバそうだね…」
ルカ「そうだよ…」
タクミ「辺りを確かめて、慎重に進む方がいいみたい…」
アイ「そうだね…」

 何かしら、このゴブリン退治のポイントになる場所に近づいてる。
 全員がそんなふうに感じて、ここは慎重に道を進んだ。

 ゴブリンの群れも次第に後退しなくなり、群れ全体でアイたちに抵抗するようになってきた。
 ゴブリンたちはきばき出し、つめを立て、その攻撃も必死さを帯びてきて、今までで一番の格闘かくとうになってくる。
 全員が木剣や棍を手に目の前のゴブリンと必死に戦う。

ウギャ、ウギャ、ウギャ、ウギャ、ウギャ、ウギャ…

ソラ「えい、えい、えーい!どうだ、どうだ‼」
アカリ「えーい、倒しても倒しても出てきやがる。」
ツグミ「「ウィンド・ブロウ」‼「ウィンド・フラッシュ」‼」
モア「ダメ、ダメ‼私の『ウォーター』をくらえ!」
アイ「うん、うん、うん、うん…まだまだだよ‼」

 タクミが目の前のゴブリンを倒し、顔を上げるとアユミが別のゴブリンの群れにかこまれていた。
 タクミは急いでアユミにけ寄る。

タクミ「アユミさん、危ない!えい!コイツ、あっちへ行け!」
アユミ「タクミ君…ありがとう…」
ルカ「アユミ!無理しないで…下がっててね。」
アユミ「ルカも…ありがとう…でも、大丈夫だよ…」
ソラ「ねえ!だんだん群れが下がっていくよ!」

 ソラの言う通り、しばらくの間アイたちに必死に抵抗してきたゴブリンたちだが、彼女たちの攻撃にえ切れなくなってきたのか、後方の群れが森のもっと奥へと後退し始めたようだった。

アイ「今度こそ、このまま向こうの山へ追い払おう‼」
ツグミ「待って‼奥に何かいる!ゴブリンとは違うものだよ‼」
ソラ「なに⁉」
モア「えっ?何なの?」
アカリ「ちょっと、あれ、なに?なんかデカイのがこっちへ来てる‼」
ナオ「みんな‼気をつけて‼」

 ツグミの大声と同時に、森の奥からアイたちの方へ大きな獣がのっそり姿を現す。
 ゴブリンたちもその姿を見て、一斉に森の奥へと逃げていく。

タクミ「なんだ、あれ?」
アユミ「おっきいよ!」
ソラ「ヤバくない?」
アカリ「ヤバい!クマだよ!」
ナオ「ホント、クマだ!」
ルカ「違う‼ゴブリンだよ、それもデカイやつだよ‼」
モア「マジ⁉」

ギャーッ、ギャーッ、ギャーッ!

 のそのそとアイたちに近づいてきた大きな影は、ルカが言ったように確かにゴブリンだった。
 しかし、その大きさはアイたちよりもずっと大きく、本当にクマと同じぐらいある。
 アイは急いでみんなに指示を出した。

アイ「みんな!武器を出して!
 ツグミやモアは『ファイア』や『サンダー』の用意!」
アカリ「分かった!」
ツグミ「了解‼」
ルカ「急いで!」

 姿を現したゴブリンは2メートルほどの大きさで、姿かたちは小さいゴブリンと同じだが、口から伸びる牙や手の爪の大きさ、手足の太さは比べようがないほど大きい。
 普通のゴブリンはどこか可愛げのある顔つきをしているが、この巨大ゴブリンは目つきもするどく、凶暴きょうぼうな表情をしていた。

 その顔を見ただけで、この魔獣がここまで相手をしてきたものとは全く違うのがアイたちにも分かって、全員が身体を固くする。
 巨大ゴブリンはみんなが剣ややりつえを取り出しているのを見ると、手元の木の枝を引きちぎり、いきなりアイたちに投げつけた。

ギャーッ、ギャーッ!

アカリ「危ない!」

 ツグミに真っ直ぐ飛んできた枝をアカリが剣で叩き落す。
 すると魔獣は同じように長い枝を折って手に取ると、それで辺りを手当たり次第に叩き始めた。

グェー、グェー‼

バタン、バタン、バタン、バタン…

アイ「固まってちゃダメ!散らばって!」
ソラ「クソッ!」

 巨大ゴブリンは何度も何度も枝を振り回す。
 さいわい誰にも当たらないが、パワーがあるので辺りの木の枝がゴブリンが振る枝に当たって折れて降ってきたり、枯れ葉や砂ぼこりが辺りに舞い散ったりした。
 巨獣の動きは元々のゴブリンと同じくスローだが、パワーは断然だんぜん強い。

ナオ「ツグミ!目潰めつぶしに『ファイア』を顔へ!」
ツグミ「わかった!」
モア「私も!」

 ナオの掛け声で3人が巨大ゴブリンのすきをつき、その顔に炎を飛ばした。

ギャーッ、ギャーッ、ギャーッ!

 顔を炎におおわれたゴブリンは枝を捨て、両手で自分の顔をこする。
 熱さに耐えられないのだろう。そばの太い樹木に顔を叩きつけるようなしぐさも見せる。

アイ「今だ!脚をねらうんだ!」
ソラ「オーケー!」
ルカ「わかった。」

 アイは飛び出していき、樹に顔を向けて立っている巨大ゴブリンの太ももの辺りを剣で切りつけた。
 ソラやルカも同じようなところを槍やほこで突き刺す。

 脚を攻撃され、巨大ゴブリンは耐え切れずにその場に座り込んだ。
 それで動けなくなったものの、おとなしくはならず落ちている枝や石を文字通りめくらめっぽうに投げつけてくる。

グェー、グェー!

アカリ「ヤ、ヤバい!」
ツグミ「みんな、こっち来て!モア、『バリア』出そ‼」
モア「り(了解)!」

 ツグミとモアが『バリア』で大きなたてを作り、全員がその中に逃げ込む。
 大きな石や枝が何度も魔法でできた盾に当たった。

 巨大ゴブリンは目が見えないので、ずっとあちこちに向かって枝や石、砂を投げ続けたが、次第に疲れてきたようで動きがにぶくなってきた。
 それを見て、アイがアカリとルカに言う。

アイ「槍と矛で三方から一気にのどを狙おう。」
アカリ「わかった。」
ルカ「うん。」
アユミ「無理しちゃダメだよ…」
アイ「大丈夫。」
ツグミ「アイちゃん…」

 アイとアカリとルカはツグミたちが『バリア』で作った魔法の盾から離れて、身体をかがめて足音を立てないようにゆっくりとゴブリンへ近づいた。

 巨大ゴブリンは焼かれた顔と切られた片脚が気になるのか、しきりにうめきながら顔と脚の傷の部分をでている。脚の傷から流れる血が止まらない。
 脚を撫でている時は首元はがら空きになるが、顔を撫でている時には太い腕が邪魔になる。

 アイたち3人は気づかれないように音を立てず、ゴブリンのすぐ近くの木陰にそれぞれ身をひそめる。
 離れた場所にいるアユミやナオたちも固唾かたずを飲んでその様子を見守っていた。

 やがてゴブリンは顔から手を離して、脚を撫で出した。その瞬間、アイが他の2人の目を見てうなずくと、3人は一気に飛び出す。

アイ「えい‼」
ルカ「やー!」
アカリ「んー!」

グォーッ、グォーッ‼

 3人が突き出した槍や矛は見事に巨大ゴブリンの喉元をつらぬいた。
 ゴブリンは一瞬両腕を上げたが、直ぐにぐったりとなり、3人が武器を引き抜くとその場にクタクタと倒れ込み、喉元から血がドクドクと流れ出した。

ソラ「よっしゃー!」
モア「やったー!」

 他のみんなは直ぐに飛び出して、3人の元へ駆け寄る。
 アイ、アカリ、ルカも緊張から解き放たれたからか、その場に座り込んだ。

アユミ「みんな、大丈夫?直ぐに『ヒール』するから…」
モア「私も…」
ツグミ「大丈夫?」

 アユミやツグミの問いかけに、アイたち3人は黙ってうなずいた。
 アユミ、モア、ナオがそれぞれの背中に『ヒール』をかけていくと、3人とも少しずつ力が戻ってきたようだ。
 タクミはその間に巨大ゴブリンの死骸を自分のストレージに収めていた。

ツグミ「ねぇ、ゴブリンがいなくなってる…」

 返り血を浴びたアイやアカリの顔を拭いていたツグミが辺りが静かになっているのに気づき、周りの森を見渡す。
 ツグミに言われてみんなも辺りを見るが、あんなに無数にいたゴブリンが確かに森の中から全くいなくなっていた。

アイ「ホントだ…」
ソラ「みんな逃げてったってこと?」
タクミ「あんなにいたのに…」

 ゴブリンが鳴いたり、ガサゴソ動き回っていたりしてうるさかった森の中は、今は虫と鳥の鳴き声しかしない。

ナオ「あの巨大ゴブリンが親玉おやだまだったってことなのかな?…」
アカリ「確かに…あれを倒したらいなくなったもんね…」
モア「やっと終わりだー!」

 モアは地面に足を開いて座り込んだ。それを見て、他のみんなもその場に座る。

ルカ「これって、クエスト完了ってことでいいよね?」
ソラ「ゴブリンがいなくなったんだもん…」
アカリ「そうそう…これで終わりだよ…」

 みんなが戦い終わった余韻よいんひたろうとする中、ナオだけが首を振る。

ナオ「残念だけど、まだ後片付けが残ってるからね…見てよ…」

 ナオが指差す先を見ると、森のあちこちにゴブリンの死骸が転がっている。
 ソラとモアはそれを見て大きなため息をついた。

ソラ「これって、このままってわけにはいかない?」
ツグミ「ダメだよ…魔石もいっぱいあるだろうし…」
アイ「それに血のにおいをかぎぎ付けて、他の獣が来るかもしれない…そうすればまた村に何か起こるかも…」
アユミ「そうね…出来るだけ片付けなきゃね…」
モア「あーあ…」

 話しているうちに森がゆっくりと暗くなってきて、アイがあわてる。

アイ「疲れてるけど、とりあえず森の中のゴブリンの死骸だけはひろいながら、さっきの森の入り口まで引き返そう。」
ナオ「急がなきゃ、真っ暗になっちゃう…」

 全員がアイの言葉で立ち上がり、また二手に分かれてゴブリンの死骸を回収することにする。

ルカ「魔石はどうすんの?」
ツグミ「暗くて分かりにくいけど…」
アイ「とにかくゴブリンだけは回収しよう。魔石は分かったら、でいいよ…」
ソラ「了解!」

 最初にタクミが巨大ゴブリンが倒れていたところに落ちている、大きな魔石を指差す。
 するとツグミが以前にもしたようにタオルを被せてから、『シールド』をかけた。
 魔法をかけ終わった真っ赤な魔石を手に取ると、片手では足りないほどの大きさがある。

ナオ「それって、ツグミが持っとく?」
ツグミ「でも、私は魔獣のクマの魔石を持ってるから…」
モア「私、欲しいー…」
ソラ「モアが?(笑)…」
ルカ「えっ、おかしくないんじゃない?モアちゃんが持ってたらいいよ…いろんな魔法使えるし…」
モア「でしょ…」
ツグミ「じゃあ、モアちゃん、どうぞ…」
モア「やったー!」

 辺りを見渡すと、山頂の森の中だけでも本当にたくさんのゴブリンの死骸が転がっていた。
 みんなはゴブリンの死骸とそのそばにある魔石をストレージに入れていく。

タクミ「こっちは全部終わり…」
アカリ「タクミ、こっち来て。まだいっぱいいるよ。」
ソラ「あー、こんな影にも落ちてた…」
アユミ「モア、魔石も拾わなきゃ…」
モア「よく見えないよー、もういいじゃん…」
ツグミ「これだって、お金になるよ…」
アカリ「そうそう、このゴブリンの魔石のおかげでいい宿にまれるかもしんないよー…」
モア「えー、それマジ?」

 アカリに言われてモアが急に目をキラキラさせたので、ナオが爆笑する。

ナオ「これ何個かで、そこまで変わらないよー(笑)…」
アイ「わかんないよー…これ一個の差でボロい宿に泊まらなきゃなんないかも(笑)…」
モア「それはヤだよー…がんばる!」
全員「(笑)…」

 アイに乗せられたモアが魔石をいきおい良く探し出したのを見て、全員がお腹をかかえて笑った。

 アイたちは何とか日暮れまでに森の中のゴブリンの死骸を回収し終わり、その夜は頂上の開けた場所に小さなテントを三つ張り、そこに分かれて眠った。







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 また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。
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