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わざとらしく目を潤ませながら、ミナミは通路の奥にいた晃大に駆け寄る。
ちょうど晃大は乾いたタオルを店員から受け取ったところで、濡れたところを拭っていた。
「私……私……」
「気にするな。こんなのなんてことない」
「でも……」
ミナミは目を潤ませたまま、一歩前に出た。
「私のせいで服、濡れちゃったじゃないですかぁ……。このあとどこかでお酒、奢らせてくれませんかぁ?」
そう言って、困ったように笑ってみせた。
「ちゃんとお詫び、したいんですぅ……」
また一歩、距離を縮める。
晃大は一歩下がろうとするが、そこは壁。
ミナミは口角を少し上げ、上目使いをするように晃大にすり寄った。
「……ね? 泉宮せんぱ―――」
「必要ない」
晃大は身体の向きを変え、一歩前に出た。
そして、歩きながら低い声でこう告げたのだ。
「俺はそういうの、好きじゃないから」
「え……?」
「俺はお前に興味はない。……戻るぞ」
「なっ……!?」
想定していたものと違う反応に、ミナミの声が裏返る。
晃大はそんなミナミに視線をくれることもなく、座敷へと戻っていったのだ。
(ちょっと……ちょっと、ちょっと!? 今、私を振った!? 信じられないんだけど!?)
今まで取られたことのない態度に、ミナミは辺りを見回す。
幸いなことにここは店の奥にある通路だ。
今の出来事を目撃した者はいない。
(……いやいやいや、きっと私との接点がまだあんまりないから、困っただけよね)
ミナミはそう自分に言い聞かせるように、手をぎゅっと握った。
『拒絶された』という事実をそのまま受け取るなんて、プライドが許さない。
(そうよ、そうよ。急に距離を詰めたからよ。真面目な人ほど、どうしていいかわからなくなるってやつよ)
深呼吸し、口角をきゅっとあげていつもの自分の表情を作る。
(ここで取り乱したら……負けだもん)
ミナミは通路の奥から座敷へと足を進めた。
笑い声やグラスの触れ合う音が、耳に戻ってくる。
「えへっ、ただいま戻りました~!」
何事もなかったかのように席に戻り、晃大の隣に座る。
すると、晃大とは反対の席に座っていた女子がミナミに声をかけた。
「大丈夫だった?」
「うんっ! せんぱいが『気にしなくていいよ』って。すっごく優しかったよ、泉宮せんぱい!」
そういって晃大に視線を向ける。
だが晃大はその声に反応することなく、グラスを口に傾けていた。
(……これくらいで引く私じゃないんだから)
ミナミの決意が燃えるなか、飲み会は夜遅くまで続いた。
表向きは何もなく、賑やかに。
だが水面下では―――何かが変わり始めていたのだった。
ちょうど晃大は乾いたタオルを店員から受け取ったところで、濡れたところを拭っていた。
「私……私……」
「気にするな。こんなのなんてことない」
「でも……」
ミナミは目を潤ませたまま、一歩前に出た。
「私のせいで服、濡れちゃったじゃないですかぁ……。このあとどこかでお酒、奢らせてくれませんかぁ?」
そう言って、困ったように笑ってみせた。
「ちゃんとお詫び、したいんですぅ……」
また一歩、距離を縮める。
晃大は一歩下がろうとするが、そこは壁。
ミナミは口角を少し上げ、上目使いをするように晃大にすり寄った。
「……ね? 泉宮せんぱ―――」
「必要ない」
晃大は身体の向きを変え、一歩前に出た。
そして、歩きながら低い声でこう告げたのだ。
「俺はそういうの、好きじゃないから」
「え……?」
「俺はお前に興味はない。……戻るぞ」
「なっ……!?」
想定していたものと違う反応に、ミナミの声が裏返る。
晃大はそんなミナミに視線をくれることもなく、座敷へと戻っていったのだ。
(ちょっと……ちょっと、ちょっと!? 今、私を振った!? 信じられないんだけど!?)
今まで取られたことのない態度に、ミナミは辺りを見回す。
幸いなことにここは店の奥にある通路だ。
今の出来事を目撃した者はいない。
(……いやいやいや、きっと私との接点がまだあんまりないから、困っただけよね)
ミナミはそう自分に言い聞かせるように、手をぎゅっと握った。
『拒絶された』という事実をそのまま受け取るなんて、プライドが許さない。
(そうよ、そうよ。急に距離を詰めたからよ。真面目な人ほど、どうしていいかわからなくなるってやつよ)
深呼吸し、口角をきゅっとあげていつもの自分の表情を作る。
(ここで取り乱したら……負けだもん)
ミナミは通路の奥から座敷へと足を進めた。
笑い声やグラスの触れ合う音が、耳に戻ってくる。
「えへっ、ただいま戻りました~!」
何事もなかったかのように席に戻り、晃大の隣に座る。
すると、晃大とは反対の席に座っていた女子がミナミに声をかけた。
「大丈夫だった?」
「うんっ! せんぱいが『気にしなくていいよ』って。すっごく優しかったよ、泉宮せんぱい!」
そういって晃大に視線を向ける。
だが晃大はその声に反応することなく、グラスを口に傾けていた。
(……これくらいで引く私じゃないんだから)
ミナミの決意が燃えるなか、飲み会は夜遅くまで続いた。
表向きは何もなく、賑やかに。
だが水面下では―――何かが変わり始めていたのだった。
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