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式場。

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千冬side・・・







私が病院を退院してから1カ月が経った。




千冬「もう仕事も完全復帰できたし・・・ほんとによかったー・・。」





復帰した日には仕事仲間の人と所長に謝り倒した私。

みんなは病気を理解してくれてるから責められはしなかった。





千冬「仕事も通常通りに戻ったし、あとは・・・・・。」





私と秋也さんの結婚だ。






千冬「『両家の顔合わせ』・・・みたいなのをするのかな。」





まだ会ったことのない秋也さんのご両親。

どんなご両親なのかを聞きたくて、私は仕事帰りに秋也さんのマンションに寄った。





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ピンポーン・・・





秋也さんのマンションのインターホンを鳴らすと、玄関のドアが開いた。



ガチャ・・・




秋也「早かったな、千冬。」

千冬「仕事が終わって真っ直ぐ来たからかな?お邪魔しまーす。」





玄関で靴を脱いで中に入る。

廊下を歩き、現れたリビングに荷物を置いた。




千冬「あれ・・・?なんかいい匂いする・・・。」




鼻を抜けた香り。

ふとダイニングのほうに目を向けると、テーブルにご飯が並んでるのが見えた。




千冬「え!?作ったの!?」

秋也「そ。」





何を作ったのか見に行くと、テーブルには肉じゃがを中心とした『和食』が並んでいた。




千冬「肉じゃがだ・・・。」

秋也「うん。俺の母親の得意料理。これだけは・・・忘れない。」

千冬「?」





なにを言ってるのかわからない私は、秋也さんを見つめる。

秋也さんは・・・悲しそうに笑いながら私に言った。





秋也「俺の両親は飛行機事故で死んだんだよ。二人とも医師をしていて・・・海外に医師団として派遣される途中で・・・飛行機が墜落したんだ。」

千冬「そう・・・なんだ・・・。」

秋也「全ては海のもくず。遺体もないから墓も作らなかった。親の思い出として記憶にあるのはこの料理だけなんだよ。」




そう言って私にお箸を手渡してきた秋也さん。

私は受け取って、席についた。




千冬「そっか・・・。」

秋也「俺と姉は成人してて、医師として人の命に関わる仕事をスタートさせていた。家族全員忙しかったし、いなくなった実感はなかったけど・・・」

千冬「『けど』?」

秋也「千冬のことを紹介してたらどんな顔したかなーって思って作った。」




まだ湯気の立ってる肉じゃが。

私は秋也さんに聞いた。




千冬「いただいても・・・いい?」

秋也「もちろん。」





手を合わせる。





千冬「いただきます。」

秋也「いただきます。」




肉じゃがの入った器を手に取り、一口食べる。

ほろほろと口の中で崩れていくじゃがいもは、優しい味がした。





千冬「おいしい・・・。」

秋也「よかった。」




一口一口をゆっくり味わうように食べる。

味を覚えるために・・・。




千冬(でも・・・マネはできないなー・・・。)




秋也さんがお母さんを想うからこそ出せる味。

優しい肉じゃがの味は、秋也さんの人柄もでてるようで、私は彼への想いをまた深くした。




千冬「・・・ところで秋也さん?」

秋也「うん?」

千冬「ちょっと気になるんだけど・・・。」

秋也「なにが?」

千冬「なんで『肉じゃが』にニンジンが入ってるの?」




王道の肉じゃがには入れないニンジン。

入れる家もあるけど・・・

秋也さんの肉じゃがには豪快に入っていたのだ。





秋也「あぁ、母親が俺にレシピを教えるときに面倒くさかったらしくてさ、『材料はカレーと同じだから!』って言ったんだよ(笑)。」

千冬「あー・・・確かに(笑)。」

秋也「だから俺が作るときは必ずニンジンが入るし、白滝は入らない(笑)」




肉じゃがは、『家庭料理』と呼ばれるメニューの代表格だ。

各家庭ごとにレシピが違う。

ニンジンが入ってる肉じゃがも・・・いいと、私は思った。

お義母さんの・・・レシピだから。





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千冬「ごちそうさまでしたっ。」





ご飯を食べ終わった私は食器を下げた。

シンクに入れたお皿たちを洗っていく。





千冬「秋也さん、コーヒー飲む?洗い終わったら淹れるよ?」

秋也「飲む。頼むよ。」

千冬「はーい。」





カチャカチャと食器を洗っていく私。

最後の一枚を洗い終わってからコーヒーを準備した。




千冬「はい、どーぞ。」

秋也「さんきゅ。」




リビングで雑誌を見ていた秋也さん。

何を見てるのか、私は覗き込んだ。




千冬「・・・結婚式場?」




私の言葉に、秋也さんはいくつかのページを見せてくれた。




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