シンデレラストーリーだけじゃ終われない!?

すずなり。

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本当の家族。

違和感。

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「・・・え?」


私はQの言葉に耳を疑った。

この施設で同じ暮らしをしてるQが『ここにいたほうがいい』と言ったのだ。

ご飯をお腹いっぱい食べることも叶わず、自分の自由にできる時間すら与えてもらえない毎日。

与えられた2着の服を着回し、お風呂は数日に1回しか入れない。

毎日何かしら文句を言われて叩かれる上に、『部屋』で過ごさなきゃいけない時も多々ある。

そんな生活なのに、『ここがいい』と言ったのだ。


「私ね、Lがいてくれるから楽しく思えるの。だからずっとここにいてね?」


にこっと笑って言ったQ。

そのままQはまた雑草を引き始めたけど、私はその言葉を素直に受け入れられなかった。


(え・・?待って・・何かおかしい・・・。)


気になり始めたら、普段『見えてなかったもの』まで見えてしまうことがある。

よくよく見れば、Qの服は自分の服よりきれいだった。

少し肉付きのいい体に、つややかな髪の毛。

それに比べて私は泥汚れが落ちてない、くすんだ色のワンピースを着ていた。

骨が浮き出てる腕に、つやなんてあったのかさえわからない髪の毛。

ぼさぼさで伸ばしっぱなしだからか腰まであった。


(え・・?え・・・?)


時間内に言いつけが終わらなかったら『怒られる』というのに、Qは作業はゆっくりと進める。

施設長の機嫌が悪いハズなのに、手には軍手をはめている。

その軍手の下は・・・私の記憶が合っていたらあかぎれ一つないきれいな肌のハズだ。


「L?どうかした?」


ぷちっと雑草を引き抜いたQが、私を覗き込むようにして見てきた。

考え事をしてしまっていた私は、即座に雑草を引き始める。


「・・ううん?なんでもないよ?」


そう答えながらも頭の中は疑問がいっぱいだった。

『同じ環境にいるのになぜ色々と違う?』

寄付金があるから?

身内がいるから?

いろんな答えが頭に浮かぶものの、どれもしっくりくる答えはない。

考えながら草を引いてると、Qが口を開いた。


「ふふっ、私ね?Lのことが大好きだから言っちゃうね?」


ニコニコ笑いながらQは自分の手を口元にあてた。


「?・・・なに?」


そう聞くとQはとんでもないことを私に話し始めた。


「あのね?私、本当の名前は『Q』じゃなくて『サキ』っていうんだよ?」


その言葉を聞いて私は驚いた。

『L』や『Q』はアルファベットなのは知っていた。

だけど・・・『名前』だと思っていたからだ。

施設長や、一緒に暮らしてる子どもたち、それに外から来る学校の先生らしきしともその名前で呼んでいたから何も疑問に思ってこなかった。


「え!?」

「ふふっ、知らなかったでしょ?みんなちゃんと本当の名前があるんだよー。今は施設長が適当にアルファベットで名前をつけてるんだよー。」


自慢気に話すQ。

いろいろなことに一気に気がついて、私は頭がいっぱいいっぱいになってきていた。


「待って・・じゃあ・・・じゃあ、私にも違う名前があるってこと・・?」


Qの話から考えたらそうなる。

アルファベットの名前は通し名のようなもので、本当の名前が存在してることになるのだ。


「あるかもしれないけどー・・・Lは家族いないからわかんないと思うよ?」

「あ・・・。」


Qの言うとおりだった。

私には家族がいない。

生まれたときに、この施設の前に捨てられていたらしく、誕生日とかもわからないのだ。


(一応拾われた日が誕生日になってるけど・・・『L』が名前じゃなかったなんて・・・。)


雑草を引いていた手を止めてQを見つめてると、庭に走ってくる男の子の姿を見つけた。

あれは・・・Kだ。


「おい、お前ら。施設長があと30分で終わらせろって言ってたぞ。俺もやるからさっさと終わらせよう。」


そう言ってKはまだ手を付けてないとこの雑草を抜き始めた。

Kは私と同い年だ。

私よりちょっと身長が大きくて、力もたくさんある。


「あ、じゃあ私は反対の向こうしてくる。」


そういって私はQの側から離れた。

生えてる雑草を端から抜きながらさっきの話を整理していく。


(・・・私は身内と呼べる人が一人もいない。だからここで暮らしてる。)


自分を証明するものが何もない状態で、私はこの施設の前で捨てられていた。

ここが養護施設だと知った上で捨てたんだろうと、施設長は漏らしていた。

赤ちゃんのときにこの施設に来た子供は、物心つく前に里親に引き取られることが多い。

タイミングが合わなかったり、持病があるとなかなか里親は見つからないらしいけど、私には一件も面談は来なかった。


(病気はないんだけどなー、タイミングが悪かったんだろうなー・・。)


運が悪い、と思うしかないことだ。

それはいつものことだからいいとして、気になるのはQだった。

Qには家族がいる。

お母さんと出かけることも、月に一度はあるだろう。

買い物に行ったりすることから考えたら、金銭面的な問題でこの施設に預けられてるとは考えにくい。


(確か・・・お父さんが暴力を振るう・・みたいなこと言ってたっけ。)


かなり前に聞いた記憶だ。

暴力を振るう父親と一緒に家にいると、Qが巻き添えを喰らうかもしれない。

母親はQを父親から守るためにこの施設に預けた・・・と、Qから聞いたことがあったのだ。


(まぁ、他の子たちもそういう事情が多いし・・。)


でも、Qと他の子たちとでは差があるような気がして仕方なかった。

施設長からの言いつけも、みんなと比べたら少ない。

掃除、洗濯、洗い物、料理と、生活するには欠かせない仕事を、Qはあまりしてないことに気がついた。


(そういえば・・・いつも勉強部屋で先生がついて教えてたような・・・。)


Qは、昼間は基本的に勉強していた。

私は朝の1時間位で終わらされるけど、Qは私よりも長く勉強していた。

その間、私は施設長に言いつけられた仕事をしているから、いつQが勉強部屋から出てきてるのかはわからなかった。

夕方に晩御飯作りを手伝いに来てくれてたことから、それまでには終わっていただろうけど、Qの1日の動きは知らなかったのだ。


(まぁ、全員の1日の動きなんてわかんないけど。みんなバラバラに動いてることが多いし。)


小さい子は基本的に寝てるか、遊び部屋で遊んでる。

言いつけられて動けるのは私とQとKくらいなものだった。


(考えだしたらキリがないよね、気のせい気のせい。)


終わりが見えそうのない考えに、私は自分で区切りをつけた。

この施設で一番仲のいい友達を疑いたくない。

施設長に叩かれても、友達に会えたら痛みは和らぐ。

この関係を崩したくなくて、切り替えることにした。


「こっち、終わったぞ。」


ぷちぷちと雑草を引きながら気持ちを切り替えた時、Kが言った。

こんもり山になった草を両手に抱えてる。


「Lは?もう終わるか?」

「あとちょっとだよー。」

「わかった、じゃあQのとこ手伝ってくる。」


そう言って、草を抱えたままQのところに行った。


(早く終わらせないと。)


そう思って手を進めてると、Kの大きな声が聞こえてきた。





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