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本当の家族。

恭介お兄ちゃんの仕事。

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「私・・お兄ちゃんに嫌われてます・・よね?」


あまりにも唐突な言葉に、俺は持っていたヘアオイルのボトルを床に落とした。

ドサドサといい音が、変に風呂場にこだまする。


「・・・は!?なんで!?」

「昨日・・なんとなくそんな感じがしたんですけど・・。」


昨日は亜子にどう接していいのかわからなかったから喋らなかっただけだ。

『今日から!』と思っていたけど、どうやら亜子は俺に『嫌われた』と思ったらしい。


「・・・。」

「えと・・違いました・・?」


どう説明すればいいものかと悩んだとき、兄の声がリビングの方から聞こえて来た。


「直哉ー!そろそろヤバいぞー!」

「あ!!学校!!」


俺は落としたボトルを拾い集め、俺専用の棚にぶち込んだ。


「帰ってきてから話すけど、俺は亜子を嫌ってるわけじゃないから。じゃな!」


そう言って風呂場からダッシュで部屋に戻った。

まだ部屋着なことに気がついて、急いで着替え、鞄を持って家を飛び出る。


「いってきます!」

「車に轢かれるなよー!」


兄の声が軽く聞こえたところで玄関のドアは閉まった。

俺はそのまま走って・・・学校に向かった。



ーーーーー



直哉が学校に向かって家を出たあと、亜子はリビングに戻った。

そこにいた恭介が、亜子のきれいになった髪の毛を見て呆然と立っていた。


「・・・お兄ちゃん?」

「あ・・ごめん、亜子の髪の毛ってかぁさんにそっくりなんだな。」


そう言われ、私は棚に置いてあるお母さんの写真を覗きに行った。

昨日は髪の毛の色が違うと思っていたけど、さっきキレイにしてもらってからは同じ色に変わっていた。


「本当だ・・・。」


直哉お兄ちゃんがしてくれたドライヤーで、サラサラに仕上がった髪の毛を指ですくう。

今まで体験したことのない感触に、いつまでも触っていられそうだった。


「すごい・・・。」

「・・・直哉は美容師目指してるからな、そういうのは得意だと思うよ。」

「美容師さん!」


そう言われて納得だった。

頭を優しく洗ってもらい、ツヤツヤになるように蒸しタオルで包んでくれた。

いい匂いの何かまで塗ってもらって、こんなにサラサラになるなんて思いもしなかったことだった。


「さて、直哉がキレイにしてくれたことだし、制服と服、買いに行こうか。」

「はいっ。」


恭介お兄ちゃんに連れられて、私は学校用品を売ってるところに連れて行ってもらった。

そこで制服を採寸してもらい、他に学校で必要なものを揃えてもらった。

服屋さんにも連れて行ってもらい、普段着に部屋着にパジャマに下着にとたくさん買ってもらい、家に帰ったのはお昼を回ったころだった。


「亜子、すぐにご飯するからちょっと待ってな?」

「ありがとー・・ございますー・・。」


私は歩くのに疲れて、ソファーに倒れこむようにして座った。

そのままウトウトと眠気に襲われ始める。



ーーーーー




「亜子ー、そういえばアレルギーとか聞くの忘れてたんだけど、無いよなー?」


簡単にうどんにしようと思ってキッチンから声をかけた。

でも亜子から返事が帰ってこない。


「亜子ー??」


気になってソファーを覗きに行くと、亜子は目を閉じて静かに寝息を立てていた。


「zzz・・・。」

「あー・・疲れたよなー・・。」


初めて尽くしの環境に、買い物をして回った。

ただでさえ細っこくて体力もなさそうなのに連れまわしたことを少し後悔した。

でも必要なものを揃えるために仕方ない。


「起きてからでいいか、ご飯。」


俺は自分の部屋に行き、小さめのブランケットを取ってきた。

それを亜子の小さい身体にかける。


「風邪引くなよ?そして明日からもちょっと忙しいからな?」


そう言って亜子の背中をぽんぽんっと叩いた。


ーーーーー


翌日・・・

私は朝から恭介お兄ちゃんと一緒に車に乗っていた。

朝ご飯を食べたあとお弁当を持たされて・・・どこかに行くみたいだ。


「あの・・どこに行くんですか?」


窓の外を見ながら聞くと、お兄ちゃんは窓の外を指差した。

その方角に大きな大きな建物が見える。


「あそこ。俺の仕事場。」

「・・・お仕事?」

「連休も昨日で終わりだから今日から仕事なんだよ。だから亜子は俺の仕事場でいい子で留守番しててくれないか?」

「わかりました。」


仕事があることに驚いたけど、そもそも自分の家族と呼べる人たちが何歳なのかもしらないことに気がついた。


「あの・・お兄ちゃんっていくつなんですか?」

「俺?俺は26だよ。直哉は14。」

「26歳・・!あの、お仕事って・・・」

「医者だよ。内科の医者。」

「お医者さん・・・!?」


窓の外を見ていた視線をお兄ちゃんに移した。

驚く私の頭をぽんぽんっと撫で、お兄ちゃんは続きを話し始める。


「ちょっとずつ知ればいいよ。急がなくていい。知りたいことは聞いてくれたら答えるし。」

「・・・。」

「ほら、もう着くよ。」


そう言われて視線を前に向けると、大きい建物が目の前にあった。

車がたくさんある駐車場に、車は進んで行って止まった。


「よし、ちょっと歩くからなー。」


私はお兄ちゃんの後ろをついて病院の中に入った。




ーーーーー



「亜子、こっち。」


病院の中に入った私はお兄ちゃんに連れられて『心療内科』にやってきた。

診察室らしき部屋をお兄ちゃんはノックする。


コンコン・・・


一木いちき、今日も暇か?」


そう言ってドアを開けた。


「おいおい、随分失礼な言い方だな・・・。」


部屋の中にいた人が笑いながら答えた。


「いつも暇なのは事実だろ?ちょっと頼まれてくれないか?」

「なんだ?」


お兄ちゃんはこの人に私の事を説明し始めた。


「この前言ってた妹。一人で留守番はまだ難しいと思うから連れて来たんだよ。」

「あー・・行方不明だった妹さんか。」

「そうそう。弁当持たせてあるから勤務時間終わるまで預かってくれ。」

「・・・いいけど。暇だから。」


ポンポンと進む会話に、私は二人を交互に見ていた。


「じゃ、よろしくな!時々見に来るわ。亜子、いい子でいろよ?」


そう言ってお兄ちゃんは部屋からでていってしまった。

お兄ちゃんの後ろ姿を見送ったあと、振り返る。


「僕は一木。キミは?」


一木さんは白衣ではなく、ブルーのカッターシャツに黒いパンツを履いてる人だった。

黒縁のメガネをかけていて、椅子に腰掛け、両手を動かしながら話してる。


「二階堂 亜子です。」

「亜子ちゃんか。年はいくつかな?」

「13歳です。」

「お、直哉と一つ違いか。」


一木さんは私に色々聞いてきた。

好きな食べ物や、好きな色、好きな遊びに、好きな匂い。

様々な質問に、答えれるだけ答えていく。


「あ、立ったままでごめんね?よかったらそこのプレイエリアにいろんなものあるから使って?」


一木さんは壁で仕切られた隣の部屋らしきところを指差した。

壁が途切れてるところまで進み、中を覗いてみる。


「うわぁ・・・。」


中はたくさんのもので溢れかえっていた。

小さい子が遊ぶようなおもちゃに絵本、テレビに大きなボールまである。


「すごい・・・。」


そう呟くと一木さんは私の後ろに立った。


「気に入った?好きに遊んでていいよ?二階堂が来るまで一緒に遊んでもいいし。」

「え、あの・・お仕事は・・・?」


遊んでいたら仕事にならないことは私でもわかることだった。


「あぁ、患者は滅多に来ないから大丈夫ー。」


そう言って一木さんは絵本を1冊取り出した。

そしてそれを私に向かって差し出してきた。


「読んでみてくれる?音読で。」

「?・・・はい。」


私はその本を受け取り、パラパラっとめくった。

最初の文字から順番に読んでいく。


「『星の金貨。昔々あるところに女の子がおりました。その女の子はとても貧しく、今日、食べるものにも困っておりました。』」


特に詰まることもなく、読みすすめていき、私は5分くらいで話を読み終えた。


「上手だねー。次は計算とかやってみようか。」


一木さんはどこから出したのか、計算問題が書かれたプリントを出してきた。

プレイエリアにあるテーブルに置いて、問題を解き始める。


「・・・できました。」

「お疲れ様。じゃあ次はこっちもできるかな?」


一木さんは次から次に問題を出してきた。

計算問題が終わったら理科の問題。

それが終わったら今度は社会。

終わる度にプリントを渡され、気がついたら時計はお昼を指していた。


「おや、もうお昼だね。お弁当食べよっか。」


全部終わったのかどうかはわからなかったけど、『お昼』と言われ、私は持たされたお弁当を開けた。

小さいおにぎりが4つに、卵焼きとウィンナーが入ってるやつだ。


「えへへっ、いただきまーす。」


お箸を持って食べ始めようとしたとき、電話が鳴った。


プルルルル・・・


「おっと?ちょっと食べといてねー。」


一木さんは電話に出た。


「はい、心療内科の一木です。はい・・はい、はい・・・大丈夫ですよー。」



そう言って電話を切った。


「亜子ちゃんごめん。患者さん来ることになったからちょっと静かにしててくる?」

「はい。」


私が答えるのと同時に、一木さんは慌ただしく動き始めた。

ロッカーみたいなところから白衣を取り出して羽織っていく。

そして大きな椅子に腰掛けた。






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