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本当の家族。
お兄ちゃんたち。
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亜子が食欲を落としていたころ、直哉は自分の部屋で着替えをしていた。
制服を脱ぎ、ハンガーにかけていく。
「あの子が亜子・・・俺の妹・・・。」
父親と兄が妹を探してることは、物心ついた時から知ってることだった。
妹の存在自体、記憶が曖昧だ。
自分自身が1歳の時に行方不明になった妹のことなんて、覚えてるほうがおかしい。
「1週間ぐらい前に見つけたって言ってたけど・・・ほんとだったんだ。」
学校が終わって家に帰ったら父親と兄が慌ただしくいろんなところに電話をしていた。
市役所や学校、施設に会社まで。
『見つかったから迎えに行ってくる。』と言われ、俺は学校があるから留守番になったのだ。
「最初は信じてなかったけど・・両眼が『赤色』って・・信じるしかないじゃん。」
そう呟きながら自分の左目に入れてるコンタクトを外した。
クローゼットの鏡を見ると、妹と同じ色の眼が左眼にある。
「兄貴が右眼、俺が左眼・・・で、亜子が両眼。遺伝ってすげぇな。」
ハーフといえど、俺の髪の毛は真っ黒だった。
父親に似たらしく、言わなければハーフだと気づかれることもない。
眼だけ赤色なのはさすがにいろいろ言われるから小学校の後半くらいからコンタクトを入れるようになったのだ。
「でも俺の眼より亜子の眼のほうがキレイだったな。」
透き通るような赤い眼に一瞬見惚れてしまったけど、すぐ我に返った。
俺は亜子をずっと見てられるけど、初対面で見続けるのはあまり良くない。
「・・・突然現れた妹って・・どう接すればいいんだろう?」
疑問だった。
亜子にとっても初対面、俺にとっても初対面。
父親と会うのも初めてだろうし、兄もそうだ。
どう接したらいいのか分からずにあまり喋らずにリビングをあとにしたはいいけど、明日からが問題だ。
何を話したらいいのかがわからない。
「まぁ・・・どうにかなる・・よな。」
そう思いながら部屋着に着替えた。
久しぶりのオムライスを机で食べ始める。
「うま。」
懐かし気な味に、小さいころを思い出しながら口に運んでいった。
ーーーーー
翌日の朝、いつも起きる時間にリビングに行くと兄と亜子がダイニングで何か話をしていた。
「・・・おはよ。」
そういうと兄はこちらを見ずに口だけで返事をした。
「おはよう、ご飯できてるからなー。」
「わかった。」
亜子を見ると、亜子は目線を合わせないようにしてこちらを向き、頭を軽く下げた。
「?」
昨日してくれた挨拶を期待していたけど、程遠いものだった。
俺はとりあえずキッチンに行き、朝ご飯が乗ったデカい皿を手に取り、冷蔵庫から牛乳を出した。
パックごとダイニングの机に持って行く。
「亜子、今日の予定だけど、服を買いに行って、学校のものを揃えよう。一日買い物になるから疲れたら言うんだよ?」
兄が亜子に予定をを話してる隣に座った。
兄の手元にはノートがあって、そこに亜子を迎え入れるための段取りが書かれてる。
そこに中学校名が書かれていた。
「あ、俺と同じ中学か。」
一つ年下だから当たり前のことだ。
でも『転入』で兄妹が入学してくるのはなんだか変な感じだ。
一緒に学校に行くのかとか、学校案内をしたほうがいいのかとかを頭の中で考えながら朝ご飯を口に運んでいく。
すると亜子が耳を疑うような言葉を言った。
「あの・・私、学校って行ったことなくて・・・」
その言葉に、俺と兄は動きが止まった。
「学校に行ったことない!?」
「学校に行ったことない!?」
二人で声を揃えて叫んだ。
幼稚園はいいとして、小学校と中学校は『義務教育』だ。
この世に生きてる限り、通うことができるハズだった。
「お勉強は朝に『先生』って呼ぶ人が来て教えてくれてました。」
それを聞いて、俺と兄は目を見合わせた。
学校に通わずに施設での勉強だけでついて行けるとは思えなかったからだ。
と、なると亜子の学力が気になってくる。
「亜子、勉強ってなにしてた?」
兄が聞くと亜子は斜め右上を見ながら話し始めた。
「本を読んでることが多かったです。Qに・・あの、先生は一緒にいた施設の友達に教えてることが多かったので勉強の部屋にある本を読んでました。」
「本・・・、計算問題とか、理科とか社会とかは?」
「えーと・・時々・・あったような・・?」
「・・・。」
兄は両手で頭を抱えた。
そしてなにか考え付いたのか、じっと亜子を見て言った。
「とりあえず今日は亜子の学校のものと、服とか身の回りのものを揃えて行こう。制服なんかは出来上がるまで1週間くらいかかるし・・・その間は・・そうだな、俺か父さんの仕事場についてきてもらおうかな。一人で留守番なんてさせれないし。」
「はい・・。」
「まぁ、亜子がどれくらい勉強についていけてるかはわからないけど、通うのは公立だから大丈夫。わからないことは直哉に聞けばいい。」
兄に言われた亜子はチラッと俺を見た。
少し困ったような表情を浮かべてる。
「が・・学校の案内とかは俺・・するから・・。」
そう言うと、亜子は少し笑ってくれた。
艶のないくすんだ茶髪に、不揃いな髪の毛がやたら目に入る。
(気になるけど・・言わないほうがいい・・よな?)
せめてと思い、手首に着けていた髪の毛を留めるゴムを亜子に差し出した。
黒い色のゴムだ。
不揃いな髪の毛も、くくってしまえばわからなくなる。
そう思った。
「ほら、つけな?」
亜子は俺の手からゴムを受け取った。
けど・・亜子はそのゴムを眺めて眺めて・・・見てるだけだった。
「まさか・・『くくったことない』・・とか言う・・?」
そう聞くと亜子は首を縦に振った。
「貸せ、くくってやる。」
そう言って亜子に渡したゴムを返してもらい、俺は椅子から立ち上がった。
亜子の後ろに回って、髪の毛を集めていく。
(うわ・・オイルとか何もしてねーな、これ。トリートメントもしてないんじゃ・・)
手で触った瞬間に、指に髪の毛がギシギシと引っかかった。
手入れどころか、もしかしたら『石鹸』で洗ってるんじゃないかと思ったほどだった。
「・・・兄貴、今、亜子借りていい?」
触れば触るほど、どうにかしたくなってしまった俺は我慢の限界を超えた。
「?・・時間はあるからいいけど、お前、学校あるぞ?」
「走ればギリ遅刻しないから平気。・・・亜子、来い。」
亜子の腕を掴み、席から立ち上がらせた。
掴んだ腕のあまりの細さに一瞬、折れてしまうんじゃないかと思った。
「え、あの・・・」
何が何だか分からなさそうな亜子は、俺に手を引かれるままについてくる。
ダイニングを出て、廊下を進み、たどり着いたのは風呂場だ。
洗い場にある椅子に座らせ、天井を向くようにして亜子の頭を浴槽の淵に寝かせさせた。
首が痛くないようにタオルを挟む。
「???」
「今から髪の毛洗うから。なんかあったら言えよ。」
そう言ってシャワーを出した。
浴槽の中でお湯になるのを待って、亜子の頭を濡らしていく。
「ふぁ・・・。」
「お前、シャンプーとか何使ってた?こんなバッサバッサになるとかどこのメーカーだよ・・。」
一通り濡れたところで俺のシャンプーを泡立てて亜子の髪の毛に乗せた。
ゆっくりマッサージしながら汚れを落としていく。
「シャンプー・・は使ったことないと・・思います。」
気持ちがいいのか、目を閉じて話す亜子。
そこ言葉に俺は思わず叫んだ。
「・・・は!?」
「白い石鹸で洗ってました。」
「マジかよ・・・。」
『ありえない』と思いながらシャンプーを洗い流し、タオルで軽く水気を取ってからトリートメントをつけた。
長い髪の毛全体に。
「ちょっとこのまま待ってて。蒸しタオル作ってくる。」
「あい・・。」
亜子の髪の毛の長さに合うように大きめのタオルを水で濡らし、急いでキッチンに持って行った。
それをレンジに入れて1分加熱する。
ほかほかに温まったタオルを持って風呂場に戻り、亜子の髪の毛を包んでいく。
「これでちょっとはマシになるハズ・・・。」
5分くらい放置して、洗い流していった。
その放置してる間、亜子は何も喋らずにただじっと目を閉じていた。
「あとは乾かして、オイルだな。」
髪の毛の水分をタオルで取って亜子の身体を起こさせた。
そのままドライヤーを引っ張ってきて乾かし始める。
「お、艶がちょっと戻ったな。」
手櫛で梳かしながら乾かすと、さっき引っかかっていた髪の毛がスルっと通った。
この一回のトリートメントでどれくらい修復できたかはわからないけど、だいぶマシになったことだけはわかった。
「よし、あとはオイルっと。」
自分専用の棚からオイルを10本取った。
「亜子、どれが好き?」
そう聞いて全部の匂いをかがせていく。
亜子は順番にボトルの匂いを嗅いでいったけど、黄色いボトルを嗅いだときに目が大きくなった。
どうもこれが好きな匂いらしい。
「シトラスか。まぁ、さっぱりした感じだな。」
どのボトルを取り上げ、手に6プッシュくらい出した。
手櫛で梳くようにして亜子の髪の毛に塗って行く。
すると、くすんだ茶色の髪の毛はいつのまにか金に近い色になっていた。
「すげ・・・。」
膨らんでいた髪の毛は水分を含んだようにしっとりして、少し輝いてる。
きれいな髪の毛に、俺は自分のヘアブラシを持って来てドライヤーでセットし始めた。
真っ直ぐに、きれいになるように伸ばしていく。
「よしっ!これくらいだな。見て見な?」
風呂場にある大きな鏡を指差すと、亜子は自分の髪の毛を見て驚いた。
「わぁ・・・。」
鏡を見ながら自分の髪の毛を手ですくう亜子。
長い髪の毛は鏡を通さなくても見ることができる。
右からも左からも髪の毛を集めて眺めていた。
「可愛い服、いっぱい兄貴に買ってもらいな。」
そう言って出した物の片付けを始めたとき、亜子が俺の服の端っこをちょっと引っ張った。
「・・・うん?」
亜子を見ると、亜子は笑みをこぼしながら言った。
「あの・・ありがとうございます・・・。」
その表情につられて俺も自然と表情が緩んだ。
すると亜子は、じっと俺を見つめ始めた。
「?・・なに?」
制服を脱ぎ、ハンガーにかけていく。
「あの子が亜子・・・俺の妹・・・。」
父親と兄が妹を探してることは、物心ついた時から知ってることだった。
妹の存在自体、記憶が曖昧だ。
自分自身が1歳の時に行方不明になった妹のことなんて、覚えてるほうがおかしい。
「1週間ぐらい前に見つけたって言ってたけど・・・ほんとだったんだ。」
学校が終わって家に帰ったら父親と兄が慌ただしくいろんなところに電話をしていた。
市役所や学校、施設に会社まで。
『見つかったから迎えに行ってくる。』と言われ、俺は学校があるから留守番になったのだ。
「最初は信じてなかったけど・・両眼が『赤色』って・・信じるしかないじゃん。」
そう呟きながら自分の左目に入れてるコンタクトを外した。
クローゼットの鏡を見ると、妹と同じ色の眼が左眼にある。
「兄貴が右眼、俺が左眼・・・で、亜子が両眼。遺伝ってすげぇな。」
ハーフといえど、俺の髪の毛は真っ黒だった。
父親に似たらしく、言わなければハーフだと気づかれることもない。
眼だけ赤色なのはさすがにいろいろ言われるから小学校の後半くらいからコンタクトを入れるようになったのだ。
「でも俺の眼より亜子の眼のほうがキレイだったな。」
透き通るような赤い眼に一瞬見惚れてしまったけど、すぐ我に返った。
俺は亜子をずっと見てられるけど、初対面で見続けるのはあまり良くない。
「・・・突然現れた妹って・・どう接すればいいんだろう?」
疑問だった。
亜子にとっても初対面、俺にとっても初対面。
父親と会うのも初めてだろうし、兄もそうだ。
どう接したらいいのか分からずにあまり喋らずにリビングをあとにしたはいいけど、明日からが問題だ。
何を話したらいいのかがわからない。
「まぁ・・・どうにかなる・・よな。」
そう思いながら部屋着に着替えた。
久しぶりのオムライスを机で食べ始める。
「うま。」
懐かし気な味に、小さいころを思い出しながら口に運んでいった。
ーーーーー
翌日の朝、いつも起きる時間にリビングに行くと兄と亜子がダイニングで何か話をしていた。
「・・・おはよ。」
そういうと兄はこちらを見ずに口だけで返事をした。
「おはよう、ご飯できてるからなー。」
「わかった。」
亜子を見ると、亜子は目線を合わせないようにしてこちらを向き、頭を軽く下げた。
「?」
昨日してくれた挨拶を期待していたけど、程遠いものだった。
俺はとりあえずキッチンに行き、朝ご飯が乗ったデカい皿を手に取り、冷蔵庫から牛乳を出した。
パックごとダイニングの机に持って行く。
「亜子、今日の予定だけど、服を買いに行って、学校のものを揃えよう。一日買い物になるから疲れたら言うんだよ?」
兄が亜子に予定をを話してる隣に座った。
兄の手元にはノートがあって、そこに亜子を迎え入れるための段取りが書かれてる。
そこに中学校名が書かれていた。
「あ、俺と同じ中学か。」
一つ年下だから当たり前のことだ。
でも『転入』で兄妹が入学してくるのはなんだか変な感じだ。
一緒に学校に行くのかとか、学校案内をしたほうがいいのかとかを頭の中で考えながら朝ご飯を口に運んでいく。
すると亜子が耳を疑うような言葉を言った。
「あの・・私、学校って行ったことなくて・・・」
その言葉に、俺と兄は動きが止まった。
「学校に行ったことない!?」
「学校に行ったことない!?」
二人で声を揃えて叫んだ。
幼稚園はいいとして、小学校と中学校は『義務教育』だ。
この世に生きてる限り、通うことができるハズだった。
「お勉強は朝に『先生』って呼ぶ人が来て教えてくれてました。」
それを聞いて、俺と兄は目を見合わせた。
学校に通わずに施設での勉強だけでついて行けるとは思えなかったからだ。
と、なると亜子の学力が気になってくる。
「亜子、勉強ってなにしてた?」
兄が聞くと亜子は斜め右上を見ながら話し始めた。
「本を読んでることが多かったです。Qに・・あの、先生は一緒にいた施設の友達に教えてることが多かったので勉強の部屋にある本を読んでました。」
「本・・・、計算問題とか、理科とか社会とかは?」
「えーと・・時々・・あったような・・?」
「・・・。」
兄は両手で頭を抱えた。
そしてなにか考え付いたのか、じっと亜子を見て言った。
「とりあえず今日は亜子の学校のものと、服とか身の回りのものを揃えて行こう。制服なんかは出来上がるまで1週間くらいかかるし・・・その間は・・そうだな、俺か父さんの仕事場についてきてもらおうかな。一人で留守番なんてさせれないし。」
「はい・・。」
「まぁ、亜子がどれくらい勉強についていけてるかはわからないけど、通うのは公立だから大丈夫。わからないことは直哉に聞けばいい。」
兄に言われた亜子はチラッと俺を見た。
少し困ったような表情を浮かべてる。
「が・・学校の案内とかは俺・・するから・・。」
そう言うと、亜子は少し笑ってくれた。
艶のないくすんだ茶髪に、不揃いな髪の毛がやたら目に入る。
(気になるけど・・言わないほうがいい・・よな?)
せめてと思い、手首に着けていた髪の毛を留めるゴムを亜子に差し出した。
黒い色のゴムだ。
不揃いな髪の毛も、くくってしまえばわからなくなる。
そう思った。
「ほら、つけな?」
亜子は俺の手からゴムを受け取った。
けど・・亜子はそのゴムを眺めて眺めて・・・見てるだけだった。
「まさか・・『くくったことない』・・とか言う・・?」
そう聞くと亜子は首を縦に振った。
「貸せ、くくってやる。」
そう言って亜子に渡したゴムを返してもらい、俺は椅子から立ち上がった。
亜子の後ろに回って、髪の毛を集めていく。
(うわ・・オイルとか何もしてねーな、これ。トリートメントもしてないんじゃ・・)
手で触った瞬間に、指に髪の毛がギシギシと引っかかった。
手入れどころか、もしかしたら『石鹸』で洗ってるんじゃないかと思ったほどだった。
「・・・兄貴、今、亜子借りていい?」
触れば触るほど、どうにかしたくなってしまった俺は我慢の限界を超えた。
「?・・時間はあるからいいけど、お前、学校あるぞ?」
「走ればギリ遅刻しないから平気。・・・亜子、来い。」
亜子の腕を掴み、席から立ち上がらせた。
掴んだ腕のあまりの細さに一瞬、折れてしまうんじゃないかと思った。
「え、あの・・・」
何が何だか分からなさそうな亜子は、俺に手を引かれるままについてくる。
ダイニングを出て、廊下を進み、たどり着いたのは風呂場だ。
洗い場にある椅子に座らせ、天井を向くようにして亜子の頭を浴槽の淵に寝かせさせた。
首が痛くないようにタオルを挟む。
「???」
「今から髪の毛洗うから。なんかあったら言えよ。」
そう言ってシャワーを出した。
浴槽の中でお湯になるのを待って、亜子の頭を濡らしていく。
「ふぁ・・・。」
「お前、シャンプーとか何使ってた?こんなバッサバッサになるとかどこのメーカーだよ・・。」
一通り濡れたところで俺のシャンプーを泡立てて亜子の髪の毛に乗せた。
ゆっくりマッサージしながら汚れを落としていく。
「シャンプー・・は使ったことないと・・思います。」
気持ちがいいのか、目を閉じて話す亜子。
そこ言葉に俺は思わず叫んだ。
「・・・は!?」
「白い石鹸で洗ってました。」
「マジかよ・・・。」
『ありえない』と思いながらシャンプーを洗い流し、タオルで軽く水気を取ってからトリートメントをつけた。
長い髪の毛全体に。
「ちょっとこのまま待ってて。蒸しタオル作ってくる。」
「あい・・。」
亜子の髪の毛の長さに合うように大きめのタオルを水で濡らし、急いでキッチンに持って行った。
それをレンジに入れて1分加熱する。
ほかほかに温まったタオルを持って風呂場に戻り、亜子の髪の毛を包んでいく。
「これでちょっとはマシになるハズ・・・。」
5分くらい放置して、洗い流していった。
その放置してる間、亜子は何も喋らずにただじっと目を閉じていた。
「あとは乾かして、オイルだな。」
髪の毛の水分をタオルで取って亜子の身体を起こさせた。
そのままドライヤーを引っ張ってきて乾かし始める。
「お、艶がちょっと戻ったな。」
手櫛で梳かしながら乾かすと、さっき引っかかっていた髪の毛がスルっと通った。
この一回のトリートメントでどれくらい修復できたかはわからないけど、だいぶマシになったことだけはわかった。
「よし、あとはオイルっと。」
自分専用の棚からオイルを10本取った。
「亜子、どれが好き?」
そう聞いて全部の匂いをかがせていく。
亜子は順番にボトルの匂いを嗅いでいったけど、黄色いボトルを嗅いだときに目が大きくなった。
どうもこれが好きな匂いらしい。
「シトラスか。まぁ、さっぱりした感じだな。」
どのボトルを取り上げ、手に6プッシュくらい出した。
手櫛で梳くようにして亜子の髪の毛に塗って行く。
すると、くすんだ茶色の髪の毛はいつのまにか金に近い色になっていた。
「すげ・・・。」
膨らんでいた髪の毛は水分を含んだようにしっとりして、少し輝いてる。
きれいな髪の毛に、俺は自分のヘアブラシを持って来てドライヤーでセットし始めた。
真っ直ぐに、きれいになるように伸ばしていく。
「よしっ!これくらいだな。見て見な?」
風呂場にある大きな鏡を指差すと、亜子は自分の髪の毛を見て驚いた。
「わぁ・・・。」
鏡を見ながら自分の髪の毛を手ですくう亜子。
長い髪の毛は鏡を通さなくても見ることができる。
右からも左からも髪の毛を集めて眺めていた。
「可愛い服、いっぱい兄貴に買ってもらいな。」
そう言って出した物の片付けを始めたとき、亜子が俺の服の端っこをちょっと引っ張った。
「・・・うん?」
亜子を見ると、亜子は笑みをこぼしながら言った。
「あの・・ありがとうございます・・・。」
その表情につられて俺も自然と表情が緩んだ。
すると亜子は、じっと俺を見つめ始めた。
「?・・なに?」
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