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本当の家族。

家2。

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施設の『部屋』くらいある広さの部屋に、ベッドが1つと机、ちっちゃいソファー、服を入れるクローゼットがあった。

一つ一つが大きい家具のハズなのに、部屋の広さに負けて小さく見える。

大きい窓が一つに小さい窓が二つ、それぞれに可愛い星柄が赤いカーテンに刺繍されていた。

天井からは花の形をした照明が吊り下げられて、部屋全体を明るくしてる。


「どう?気に入った?」


恭介さんのその言葉に、私は無言で首を縦に振った。

上下に何度も何度も。


「ははっ、気に入ってくれたならよかったよ。隣は『直哉なおや』の部屋で、その奥が俺の部屋だから。なんかあったらおいで?」


その言葉に振ってた首の動きを止めた。


「・・・なおや?」


初めて聞く名前だ。


「あぁ、直哉のことまだ言ってなかった?亜子より一つ年上の兄妹だよ。」

「!?・・・もう一人お兄ちゃんが・・!?」

「いつも夜遅くに帰ってくるから・・・寝てなかったら会えると思うよ?」


恭介さんの言葉を聞いて、私は思い出した。

昨日の昼、初めて対面したときに聞いた昔話にお兄ちゃんが『二人』いたことを。


(そうだった・・・。もう一人いるんだ・・。)


期待に胸がドキドキと高鳴る中、私は恭介さんに聞いた。


「あの・・なんて呼べば・・いいですか・・・?」


普通に考えたら『お兄ちゃん』だ。

でも今まで存在すら知らなかった人を『お兄ちゃん』と呼ぶにはハードルが高すぎるような気がしてならなかった。

そもそもこの人たちのことを私は殆ど知らないんだから。


「ん?・・あぁ、好きに呼べばいいよ?」

「好きに・・・。」


『恭介さん』・・でもいいんだろうかと心の中で思った時、恭介さんは私の頭の上に手を置いた。

よしよしと撫でながら言葉を続ける。


「できれば・・いつかでいいから『お兄ちゃん』って呼んで欲しいな。」

「!!」


2・3回撫でた手はすぐに頭から離れ、恭介さんは部屋から出て行こうと扉に向かって歩き始めた。


「あの・・・!」

「ん?」

「私は・・本当にこの家の子供・・なんですよね・・・?」


何度も聞いたことだけど何度も確認したくなってしまう。

大きなお家に優しい父と兄。

迎え入れてもらえる準備までしてもらってて・・・これが夢じゃないかと疑ってしまって仕方ない。


「もちろん。なんならDNA鑑定してもらってもいいよ?」

「!!」


恭介さんの顔は、真剣な表情をしていた。

これ以上何度も聞くのは、しちゃいけないことだと悟った。

だから・・・私が言う言葉はただ一つだ。


「よろしくお願いします。・・・恭介お兄ちゃん!」



一通り部屋を見せてもらった私はお兄ちゃんと一緒にリビングに戻った。


「亜子、どうだった?」


ソファーに座ってマグカップに口をつけながらお父さんが聞いてきた。

私はお兄ちゃんの側を離れ、お父さんの前に回る。


「?・・・どうした?」


マグカップを持ったまま私を見上げるお父さんに、私は息を目一杯吸って言った。


「素敵な部屋をありがとうっ、お父さんっ。」

「!!」


お父さんは優しい笑みを浮かべ、マグカップをテーブルに置いた。


「お帰り、亜子。もう離さないから。」



ーーーーー



その夜、お父さんは晩御飯を作ってくれた。

オムライスだ。


「久しぶりに作ったなぁ。」

「俺が小さいとき・・っていうか、直哉が小さいときはよく作ってたよね。」


絵本で見たことのある食べ物が目の前にある。

それも湯気を出しながらおいしそうにツヤツヤと輝いてるのだ。


「うわぁ・・・。」


コーンスープとブロッコリーのサラダも一緒に並んでる。

そのどれもがおいしそうだ。


「亜子、食べていいよ?ほら。」


お兄ちゃんが半分笑いながらスプーンを渡してくれた。

それを受け取り、両手を合わせる。


「いただきますっ。」

「召し上がれ。」


卵の上からスプーンを割り入れてご飯と一緒に口に入れた。


「!!・・・おいしい!」


赤いケチャップと卵とご飯が混ざり合って、口の中でなんとも言えない味に変わっていった。

それがとても美味しくて・・・私は次から次に口の中に運んでいった。


「そんな気に入ったんならまた作るよ。今までできなかった分、いっぱい作るから。」


にこにこ笑いながら言うお父さんに見られながらオムライスを頬張ってると、玄関のドアがガチャっと開く音が聞こえた。


「ただいまー。」

「お?直哉が帰ってきた。今日は早いなぁ。」


お父さんがそう言うと同時に、直哉お兄ちゃんはダイニングに入ってきた。

高い背に細い身体、紺色の制服を着ている。

背中には黒い大きな筒形のリュックを背負っていて、ツンツンと短い髪の毛が立っていた。


(大きい・・。)


私はスプーンをお皿に置き、ダイニングの椅子から立ち上がった。


「初めましてっ、L・・じゃなくて亜子ですっ、よろしくお願いしますっ。」


挨拶は施設でしこたましてきたことだ。

言葉を言ったあとに頭を下げる。


「・・・。」


ここで、相手が何かを喋ったら頭を上げると施設では教わった。

でも少し待ってもお兄ちゃんは口を開かない。


「?」


気になった私は頭を上げた。

すると直哉お兄ちゃんはじっと私を見たあとスッと目を反らした。


「・・・ほんとにいるし。」

「え・・?」


直哉お兄ちゃんは大きなため息をこぼし、背中にあった大きなリュックをバサッと下ろした。


「はぁー・・・メシ取ってくる。」


そう言ってキッチンに行き、お皿を一枚手に取った。


「部屋で食うから。」


さっき下ろしたリュックを手に持ち、直哉お兄ちゃんは二階に上がって行ってしまった。

私は椅子に座り、食べかけのオムライスをじっと見つめる。


「亜子、直哉は照れてるだけだから気にしないで。」

「・・・。」


気にするなと言われたところで、直哉お兄ちゃんの行動は明らかに私を嫌ってるものだと分かった。

明らかなため息に、一緒に食べない食事。

お父さんとも恭介お兄ちゃんともあまり言葉を交わさなかった。

私に至ってはご挨拶したのに何も言ってくれなかったのだ。


(きっと嫌われてる・・・。)


そう確信を持つと食欲は自然とわかなくなるもので、私はここで晩御飯を終了した。





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