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「荷物、持つよ。」
そう言って園田さんは私が持っていた大きなバッグをひょいと取った。
「あ・・すみません。」
「いいえ。これだけでよかったの?」
バッグに入れたのは私が一番最初にデザインした服一式だった。
これだけは思い出深いものすぎて手放すことはできない。
「・・・はい。あと・・ちょっと謝らないといけないことが・・・」
「え・・・なに・・・?」
私は大きめのバッグの中に手を入れた。
そして中から鞄を取り出した。
「えと・・この前買っていただいたパイとマフィンなんですけど・・・食べきれずに持って帰ったきりになってしまいまして・・・」
恐る恐る中を覗くと、パイとマフィンはまだ原型を留めていた。
カビは生えてはいなさそうだけど、もう食べることはできなくなってしまってる。
「すみません・・・買っていただいたのに食べれなくて・・・」
申し訳なく謝ると、園田さんは一瞬驚いた顔を見せた。
でもすぐ優しい笑顔に変わっていく。
「そんなことか。・・・俺はてっきり・・・」
「『てっきり』?」
「いや、なんでもない。また買うから気にしないで。」
「・・・・すみません。」
残念なことになってしまったパイとマフィンは今日、泊まれるところを見つけたらそこで処分しようと思い、私はまたバッグの中にしまった。
「・・・あれ?園田さん、どうしてうちまで来てくれたんですか?」
気がついたときには園田さんは家の中にいたことを思い出した。
「あぁ、絶対何かあると思って階段駆けあがった。」
「階段!?うち、7階ですよ!?」
息切れ一つせずに入って来たような気がしたけど気のせいだろうか。
私だったらきっと2階で休憩してしまいそうだ。
「体力はないとやっていけない仕事だからね。」
「そう?なんですか?」
「ははっ、疑問が多そうだな。」
笑う園田さんにつられて笑いそうになり、私は手で口元を押さえた。
その時、袖口が少しめくれたようで、園田さんの視線が私の右手首に移った。
「その手・・・あいつ?」
「あ・・・さっき掴まれた痕です。すぐ引くと思います。」
そうは言ったものの、ズキズキと痛みは続いていた。
園田さんに見えないように手を後ろに回してグーとパーを繰り返してみる。
するとグーからパーにするときに痛みが起こることに気がついたのだ。
(筋かな?)
握られたことで変な捻り方のようなことになってしまったかもしれない。
とりあえず園田さんにはご迷惑をおかけできないこともあり、私は手をパーにして振って見せた。
「ほら、なんともないですよ?」
笑顔でそう言うと、園田さんは私の手をぎゅっと掴んだ。
そして、右手首の一番痛い場所であろうところを・・・ぐっと押したのだ。
「いあぁぁぁ・・・!」
「折れてるな。ヒビってところだ。」
あまりの痛みに私は左手で右腕を掴んだ。
「その動きは『本能』。痛みの原因がわからないから心臓に流れないようにするための動き。」
「ほ・・本能・・・?いぃぃ・・・・!」
「素直に言ってくれたらこんな確認しなくて済んだのに・・・。ほら、車乗って?医者呼ぶから。」
痛みに負けてふらふらな体を園田さんは支えながら歩いてくれ、私は車の助手席に乗せられてしまった。
今日はネカフェにでも泊まって、明日から住む家を探そうと思ってたのに予定が狂ってしまう。
「これ以上お世話になるわけには・・・」
「何言ってんの、しばらくその右腕使い物にならないよ?ペンすら持てないだろう。」
「嘘・・・・」
「嘘なんかつかないって。軽いヒビだと思うから手術は必要ないだろう。痛み止めと固定くらいだな。それでも日常生活に支障はでる。」
「そんな・・・・」
ペンが握れなきゃ住むところの契約はできない。
それに仕事もできなくなってしまうのだ。
「とりあえず医者に診せる。いい?」
「うぅぅ・・・お世話になります・・。」
こうして私は園田さんのお家にご厄介になることになってしまったのだった。
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そう言って園田さんは私が持っていた大きなバッグをひょいと取った。
「あ・・すみません。」
「いいえ。これだけでよかったの?」
バッグに入れたのは私が一番最初にデザインした服一式だった。
これだけは思い出深いものすぎて手放すことはできない。
「・・・はい。あと・・ちょっと謝らないといけないことが・・・」
「え・・・なに・・・?」
私は大きめのバッグの中に手を入れた。
そして中から鞄を取り出した。
「えと・・この前買っていただいたパイとマフィンなんですけど・・・食べきれずに持って帰ったきりになってしまいまして・・・」
恐る恐る中を覗くと、パイとマフィンはまだ原型を留めていた。
カビは生えてはいなさそうだけど、もう食べることはできなくなってしまってる。
「すみません・・・買っていただいたのに食べれなくて・・・」
申し訳なく謝ると、園田さんは一瞬驚いた顔を見せた。
でもすぐ優しい笑顔に変わっていく。
「そんなことか。・・・俺はてっきり・・・」
「『てっきり』?」
「いや、なんでもない。また買うから気にしないで。」
「・・・・すみません。」
残念なことになってしまったパイとマフィンは今日、泊まれるところを見つけたらそこで処分しようと思い、私はまたバッグの中にしまった。
「・・・あれ?園田さん、どうしてうちまで来てくれたんですか?」
気がついたときには園田さんは家の中にいたことを思い出した。
「あぁ、絶対何かあると思って階段駆けあがった。」
「階段!?うち、7階ですよ!?」
息切れ一つせずに入って来たような気がしたけど気のせいだろうか。
私だったらきっと2階で休憩してしまいそうだ。
「体力はないとやっていけない仕事だからね。」
「そう?なんですか?」
「ははっ、疑問が多そうだな。」
笑う園田さんにつられて笑いそうになり、私は手で口元を押さえた。
その時、袖口が少しめくれたようで、園田さんの視線が私の右手首に移った。
「その手・・・あいつ?」
「あ・・・さっき掴まれた痕です。すぐ引くと思います。」
そうは言ったものの、ズキズキと痛みは続いていた。
園田さんに見えないように手を後ろに回してグーとパーを繰り返してみる。
するとグーからパーにするときに痛みが起こることに気がついたのだ。
(筋かな?)
握られたことで変な捻り方のようなことになってしまったかもしれない。
とりあえず園田さんにはご迷惑をおかけできないこともあり、私は手をパーにして振って見せた。
「ほら、なんともないですよ?」
笑顔でそう言うと、園田さんは私の手をぎゅっと掴んだ。
そして、右手首の一番痛い場所であろうところを・・・ぐっと押したのだ。
「いあぁぁぁ・・・!」
「折れてるな。ヒビってところだ。」
あまりの痛みに私は左手で右腕を掴んだ。
「その動きは『本能』。痛みの原因がわからないから心臓に流れないようにするための動き。」
「ほ・・本能・・・?いぃぃ・・・・!」
「素直に言ってくれたらこんな確認しなくて済んだのに・・・。ほら、車乗って?医者呼ぶから。」
痛みに負けてふらふらな体を園田さんは支えながら歩いてくれ、私は車の助手席に乗せられてしまった。
今日はネカフェにでも泊まって、明日から住む家を探そうと思ってたのに予定が狂ってしまう。
「これ以上お世話になるわけには・・・」
「何言ってんの、しばらくその右腕使い物にならないよ?ペンすら持てないだろう。」
「嘘・・・・」
「嘘なんかつかないって。軽いヒビだと思うから手術は必要ないだろう。痛み止めと固定くらいだな。それでも日常生活に支障はでる。」
「そんな・・・・」
ペンが握れなきゃ住むところの契約はできない。
それに仕事もできなくなってしまうのだ。
「とりあえず医者に診せる。いい?」
「うぅぅ・・・お世話になります・・。」
こうして私は園田さんのお家にご厄介になることになってしまったのだった。
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