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「そうです。」
「うちもお世話になったことがある弁護士・・・まさかこんなところで繋がってるなんて・・・」
「ははっ。世間って狭いですね。」
「ほんとに・・・」
『A&a』の会社で昔、海外の取引先と揉めた時に声をかけたことがあった。
その時、彼はちょうど日本にいてて依頼を受けてくれ事なきを得ることができたのだ。
「え・・・じゃあ橋本ユキくんのお姉さんがお店をされてる・・・?」
「そうです。結婚前にちょっといろいろあって行方不明状態になったんですけど、この町の外れに家を買って、ご飯屋を始めたんです。安価だし美味いしでしょっちゅうお客さんが入ってますよ。」
「そうなんですか・・・」
思いがけないところで知った名前を聞き、なんだか一気に親近感が沸いてくる。
「あ、上、見に行きます?二人はきっと話に夢中でしょうけど、ある程度なら俺でも案内できますんで・・・。」
「是非お願いします。・・・真那ちゃん、ちょっと二階行こうか。」
「いくっ!けーたん、だっこ!」
真那ちゃんは俺の膝から下り、長谷川さんに向けて両手を大きく広げた。
「はいはい、ほらおいで。」
手慣れた様子で真那ちゃんを片腕で抱く長谷川さんの腕は逞しいものだった。
レスキューをされてるのだから鍛えてるのだろう。
(俺も鍛えようかな。)
そんなことを考えながら案内してもらった二階は、部屋が二つあった。
一つは広い部屋でミシンが見え、布や糸が溢れるほどあった。
柚香と那智さんが喋ってることから、きっとここで服を縫ってるのだろう。
そしてもう一つの部屋はがらんとしていて、パソコンが置いてある机があるだけだった。
「随分シンプルな・・・?部屋ですね・・?」
ここも作業場にしてしまうか寝室として扱えばいいのに、パソコンと机だけ。
一体何に使ってる部屋なのかと思ってると、長谷川さんが口を開いた。
「那智はここでオンライン採寸してるんですよ。」
「オンライン採寸?」
「えぇ。最近なんでもかんでもネットで買えますよね?でも服はお店で試着をしたいって人が多いみたいなんです。」
「あー・・まぁ女性は特にそうでしょうね。」
「ははっ。・・でも自分に合った服ってなかなかないらしくて。身長が低い人もいれば高い人もいる、細い人もいればふくよかな人もいる。」
「まぁ、確かに。」
「フルオーダーとまではいかないんですけど、『その人に合わせたサイズで作る』っていうお店をしていて、オンラインで採寸して作ってるんですよ。」
「へぇー!・・・え?でもわざわざオンラインじゃなくてもサイズを明記してメールで送ってもらったらいいんじゃ・・・。」
別にサイズを測るくらいなら伝えてもらえばいい。
そしたらもっと効率的だと思ったけど、現実はそうじゃないらしい。
「それは俺も言いました(笑)でも那智に『みんな痩せるつもりで少し数字を小さくして言ってくるのよ。で、そのサイズ通りに作ったら入らないでしょ?だから対面がいいの!』って言われちゃいました。」
「なるほど・・・」
「実際、那智がオンラインで測る箇所はめちゃくちゃ多いです。ほら・・・」
長谷川さんは机の引き出しから紙を一枚取り出した。
その紙には女性の体を模った線がかかれていて、肩幅や裄丈、手首、ウエスト、バスト、アンダーバスト、ヒップ、太もも、足首・・・と、それはもう細かく分けて線が引かれていたのだ。
「すごい・・・!」
「もっとすごいのがあるんですよ。こっち。」
長谷川さんに言われて入ったのは隣の作業部屋。
話に夢中になってる二人を放って、長谷川さんは扉の所にあったマネキンを指さした。
「?・・・マネキンですか?」
なんの変哲もなさそうなマネキンだ。
ただ、素材がプラスチックじゃなくて布生地のように見える。
「これ、伸縮するマネキンなんですよ。」
「伸縮・・・?」
「まぁ見ててください。」
そう言って長谷川さんはマネキンの裏にあった機械のようなものを触り始めた。
「えーっと、じゃあバストが78で、アンダーバストが65、肩幅が・・・・」
ぶつぶつ言う長谷川さんと同時にピッピッ・・と、機械音が聞こえてくる。
そして作業が終わったのか、彼の『よし!』という声と同時に、マネキンが膨らみ始めたのだ。
「え!?」
胸が膨らみ、肩幅も広がっていくマネキン。
逆にお尻部分は少し小さくなり、身長も心なしか伸びたような気がする。
「これって・・・・」
「そうなんです。サイズを入力したらその通りの大きさのマネキンになるんですよ。」
「!!・・・へぇー!」
注文者と同じ体系になるマネキンなら、それに合わせて服を調節することができる。
『オーダー製作』として注文を取るならアリだと思った。
「那智は『小さなお子さんがいるお家の方に』って言って安価で受けてるんですよ。赤ちゃん連れて外にはなかなか出れない。小さな子供を連れての自分の服選びなんて尚更できない。そんな人たちにって・・オンラインで採寸するお店を立ち上げたって言ってました。」
那智さんは紙でできたメジャーを事前に送り、それを使って採寸をしてるらしい。
誤差はあまりないようにして、フォーマルから普段着までを作るというものは・・・簡単なことではない。
それでいて今までなかった『隙間産業』でもあった。
「目の付け所がいいですね。」
「ははっ、『A&a』の社長さんに言われたなら那智も喜びますよ。」
「いやほんとに目の付け所がいいです。企業じゃ真似できないところだ。」
そんな話をしてるうちに柚香と那智さんは一旦話が落ち着いたのか、こちらを見た。
「あ・・・!圭吾さん戻ってきてたの?」
「あぁ、飯にする?」
「簡単だけどお吸い物作るね。野崎さんと園田さんはごゆっくりしていてくださいねー。ちょっとパパっと用意しちゃいますっ。」
そう言って二人は階下に降りて行ってしまった。
残された俺と柚香は作業部屋をぐるっと見回す。
「話できてよかった?随分盛り上がってたみたいだけど・・・」
柚香は満足したのか、納得したような表情を浮かべていた。
満足げな顔で、部屋にある生地や糸を見つめてる。
「・・・うん。私のデザインを服にしてくれる人が三井さんでよかったと思った。」
「そっか。」
「あ、私のデザインを服にする他に仕事してる話って聞いた?」
「あぁ、聞いた。オンラインのやつだろう?」
「そう!すごいよねー。私じゃそんなの思いつかないし、私のデザインを服にしながら別の仕事もしてるって・・・ほんとすごいよね。」
満足げな表情は尊敬の眼差しに変わり、なぜか少し・・・遠くの未来を見てるような視線をしてるように見える。
「・・・俺は柚香もすごいと思うよ?」
無から有を生み出すのは経験とセンス、それから『好き』じゃないとできないこと。
それら全てを持って描き続けてるっていうのはなかなかできることではない。
「私は・・・全然だよ。好きなものしか描いてないし・・・。」
「それがいいんじゃない?柚香の価値観に合う人達が手に取って買っていくわけだし。全部が全部万人受けするものはないだろう?」
「うん・・・。そうだね。」
自分の想像と現実が合わないのか、柚香は少し悲しそうな表情を漏らした。
でもこればっかりは好みや価値観なんかが存在するから、どうしようもない。
「・・・柚香、そういえばさ、ふと思ったんだけど・・・」
「なぁに?」
「真那ちゃんが来てたワンピースって・・・よく見た?」
「え?・・・いや、あまり見てないけど・・・」
「あれ、『ママが作った』って真那ちゃんが言ってた。柚香なら違うデザインのワンピースも作れるんじゃないかと思って・・・例えば親子コーデとか・・・」
「!!」
「全部が全部一緒っていうのはちょっと・・・っていう人もいるだろうからさ、アウターだけとか、帽子だけとか?そういう『親子』で一つ考えてみるのもどうかなーって思った。」
女の子ならお母さんと、男の子ならお父さんと、ほんの少しだけお揃いの部分があるのもファッションとしてアリだ。
色違いとか左右対称とか、いくらでも案はある。
「それいいね!」
「お?乗る?」
「乗る乗る!!帰ったらデザイン描いてみる!!」
「ははっ。」
柚香が仕上げてくるデザイン次第でブランドでも立ち上げるかと思ってると、階下から声が聞こえてきた。
「できましたよー!食べましょー!」
「あ、はーい!ありがとうございますー!」
俺たちは一階に降り、長谷川さんが用意してくれた弁当を4人で囲みながら食べたのだった。
「うちもお世話になったことがある弁護士・・・まさかこんなところで繋がってるなんて・・・」
「ははっ。世間って狭いですね。」
「ほんとに・・・」
『A&a』の会社で昔、海外の取引先と揉めた時に声をかけたことがあった。
その時、彼はちょうど日本にいてて依頼を受けてくれ事なきを得ることができたのだ。
「え・・・じゃあ橋本ユキくんのお姉さんがお店をされてる・・・?」
「そうです。結婚前にちょっといろいろあって行方不明状態になったんですけど、この町の外れに家を買って、ご飯屋を始めたんです。安価だし美味いしでしょっちゅうお客さんが入ってますよ。」
「そうなんですか・・・」
思いがけないところで知った名前を聞き、なんだか一気に親近感が沸いてくる。
「あ、上、見に行きます?二人はきっと話に夢中でしょうけど、ある程度なら俺でも案内できますんで・・・。」
「是非お願いします。・・・真那ちゃん、ちょっと二階行こうか。」
「いくっ!けーたん、だっこ!」
真那ちゃんは俺の膝から下り、長谷川さんに向けて両手を大きく広げた。
「はいはい、ほらおいで。」
手慣れた様子で真那ちゃんを片腕で抱く長谷川さんの腕は逞しいものだった。
レスキューをされてるのだから鍛えてるのだろう。
(俺も鍛えようかな。)
そんなことを考えながら案内してもらった二階は、部屋が二つあった。
一つは広い部屋でミシンが見え、布や糸が溢れるほどあった。
柚香と那智さんが喋ってることから、きっとここで服を縫ってるのだろう。
そしてもう一つの部屋はがらんとしていて、パソコンが置いてある机があるだけだった。
「随分シンプルな・・・?部屋ですね・・?」
ここも作業場にしてしまうか寝室として扱えばいいのに、パソコンと机だけ。
一体何に使ってる部屋なのかと思ってると、長谷川さんが口を開いた。
「那智はここでオンライン採寸してるんですよ。」
「オンライン採寸?」
「えぇ。最近なんでもかんでもネットで買えますよね?でも服はお店で試着をしたいって人が多いみたいなんです。」
「あー・・まぁ女性は特にそうでしょうね。」
「ははっ。・・でも自分に合った服ってなかなかないらしくて。身長が低い人もいれば高い人もいる、細い人もいればふくよかな人もいる。」
「まぁ、確かに。」
「フルオーダーとまではいかないんですけど、『その人に合わせたサイズで作る』っていうお店をしていて、オンラインで採寸して作ってるんですよ。」
「へぇー!・・・え?でもわざわざオンラインじゃなくてもサイズを明記してメールで送ってもらったらいいんじゃ・・・。」
別にサイズを測るくらいなら伝えてもらえばいい。
そしたらもっと効率的だと思ったけど、現実はそうじゃないらしい。
「それは俺も言いました(笑)でも那智に『みんな痩せるつもりで少し数字を小さくして言ってくるのよ。で、そのサイズ通りに作ったら入らないでしょ?だから対面がいいの!』って言われちゃいました。」
「なるほど・・・」
「実際、那智がオンラインで測る箇所はめちゃくちゃ多いです。ほら・・・」
長谷川さんは机の引き出しから紙を一枚取り出した。
その紙には女性の体を模った線がかかれていて、肩幅や裄丈、手首、ウエスト、バスト、アンダーバスト、ヒップ、太もも、足首・・・と、それはもう細かく分けて線が引かれていたのだ。
「すごい・・・!」
「もっとすごいのがあるんですよ。こっち。」
長谷川さんに言われて入ったのは隣の作業部屋。
話に夢中になってる二人を放って、長谷川さんは扉の所にあったマネキンを指さした。
「?・・・マネキンですか?」
なんの変哲もなさそうなマネキンだ。
ただ、素材がプラスチックじゃなくて布生地のように見える。
「これ、伸縮するマネキンなんですよ。」
「伸縮・・・?」
「まぁ見ててください。」
そう言って長谷川さんはマネキンの裏にあった機械のようなものを触り始めた。
「えーっと、じゃあバストが78で、アンダーバストが65、肩幅が・・・・」
ぶつぶつ言う長谷川さんと同時にピッピッ・・と、機械音が聞こえてくる。
そして作業が終わったのか、彼の『よし!』という声と同時に、マネキンが膨らみ始めたのだ。
「え!?」
胸が膨らみ、肩幅も広がっていくマネキン。
逆にお尻部分は少し小さくなり、身長も心なしか伸びたような気がする。
「これって・・・・」
「そうなんです。サイズを入力したらその通りの大きさのマネキンになるんですよ。」
「!!・・・へぇー!」
注文者と同じ体系になるマネキンなら、それに合わせて服を調節することができる。
『オーダー製作』として注文を取るならアリだと思った。
「那智は『小さなお子さんがいるお家の方に』って言って安価で受けてるんですよ。赤ちゃん連れて外にはなかなか出れない。小さな子供を連れての自分の服選びなんて尚更できない。そんな人たちにって・・オンラインで採寸するお店を立ち上げたって言ってました。」
那智さんは紙でできたメジャーを事前に送り、それを使って採寸をしてるらしい。
誤差はあまりないようにして、フォーマルから普段着までを作るというものは・・・簡単なことではない。
それでいて今までなかった『隙間産業』でもあった。
「目の付け所がいいですね。」
「ははっ、『A&a』の社長さんに言われたなら那智も喜びますよ。」
「いやほんとに目の付け所がいいです。企業じゃ真似できないところだ。」
そんな話をしてるうちに柚香と那智さんは一旦話が落ち着いたのか、こちらを見た。
「あ・・・!圭吾さん戻ってきてたの?」
「あぁ、飯にする?」
「簡単だけどお吸い物作るね。野崎さんと園田さんはごゆっくりしていてくださいねー。ちょっとパパっと用意しちゃいますっ。」
そう言って二人は階下に降りて行ってしまった。
残された俺と柚香は作業部屋をぐるっと見回す。
「話できてよかった?随分盛り上がってたみたいだけど・・・」
柚香は満足したのか、納得したような表情を浮かべていた。
満足げな顔で、部屋にある生地や糸を見つめてる。
「・・・うん。私のデザインを服にしてくれる人が三井さんでよかったと思った。」
「そっか。」
「あ、私のデザインを服にする他に仕事してる話って聞いた?」
「あぁ、聞いた。オンラインのやつだろう?」
「そう!すごいよねー。私じゃそんなの思いつかないし、私のデザインを服にしながら別の仕事もしてるって・・・ほんとすごいよね。」
満足げな表情は尊敬の眼差しに変わり、なぜか少し・・・遠くの未来を見てるような視線をしてるように見える。
「・・・俺は柚香もすごいと思うよ?」
無から有を生み出すのは経験とセンス、それから『好き』じゃないとできないこと。
それら全てを持って描き続けてるっていうのはなかなかできることではない。
「私は・・・全然だよ。好きなものしか描いてないし・・・。」
「それがいいんじゃない?柚香の価値観に合う人達が手に取って買っていくわけだし。全部が全部万人受けするものはないだろう?」
「うん・・・。そうだね。」
自分の想像と現実が合わないのか、柚香は少し悲しそうな表情を漏らした。
でもこればっかりは好みや価値観なんかが存在するから、どうしようもない。
「・・・柚香、そういえばさ、ふと思ったんだけど・・・」
「なぁに?」
「真那ちゃんが来てたワンピースって・・・よく見た?」
「え?・・・いや、あまり見てないけど・・・」
「あれ、『ママが作った』って真那ちゃんが言ってた。柚香なら違うデザインのワンピースも作れるんじゃないかと思って・・・例えば親子コーデとか・・・」
「!!」
「全部が全部一緒っていうのはちょっと・・・っていう人もいるだろうからさ、アウターだけとか、帽子だけとか?そういう『親子』で一つ考えてみるのもどうかなーって思った。」
女の子ならお母さんと、男の子ならお父さんと、ほんの少しだけお揃いの部分があるのもファッションとしてアリだ。
色違いとか左右対称とか、いくらでも案はある。
「それいいね!」
「お?乗る?」
「乗る乗る!!帰ったらデザイン描いてみる!!」
「ははっ。」
柚香が仕上げてくるデザイン次第でブランドでも立ち上げるかと思ってると、階下から声が聞こえてきた。
「できましたよー!食べましょー!」
「あ、はーい!ありがとうございますー!」
俺たちは一階に降り、長谷川さんが用意してくれた弁当を4人で囲みながら食べたのだった。
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