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「すみません、ごちそうさまでした。」
晩御飯をいただいた俺たちはお暇させていただくことにし、柚香は那智さんに、俺は長谷川さんにご挨拶をした。
「また遊びに来てくださいね?野崎さん。」
「はいっ。今日はお時間いただき、ありがとうございました。」
「園田さんもまた来てください。今度はさっき食べた弁当の店、案内します。」
「それは是非。」
柚香は名残惜しそうに真那ちゃんに挨拶をし、俺たちは帰路についた。
帰りの車の中で柚香は那智さんの家でのことの話が止まらない。
「それでね?那智さんが生地を選ぶとき、基本的に生地屋さんが来てくれるらしくてーーーー」
「へぇー!こんなとこまで来てくれるのか。」
「車がないのと、生地も大量に買うから来てくれるんだって!」
「なるほど。」
「で、オンラインで採寸してるときは真那ちゃんは一人で遊んでるんだって!」
「一人!?大丈夫なのか?」
「DVD見せたりしてるらしいんだけど、その採寸は週に一度にしてできるだけ短時間で済ませるようにしてるんだって。それはこっちに引っ越してくる前からしてることって言ってた。」
「真那ちゃんの生活サイクルに組み込まれてるのか・・・すごいな。」
人見知りもせずに大人しかった真那ちゃん。
躾がいいのか、それともそういう性格なのかはわからない。
でも、柚香はそんな真那ちゃんをものすごくかわいがっていたのだ。
「・・・そういえばさ。」
「うん?」
「柚香って・・・まだ妊娠って・・してないよな?」
もう数えきれないくらい柚香を抱いてるけど、『妊娠した』なんて言葉は聞いた記憶がなかった。
もし妊娠していたとして、黙っていたとしても出てくる症状は抑えれるものではない。
だから気が付くはずなんだけど・・・・
「あー・・・実は・・・」
「!?・・・『妊娠してる』とか言う!?」
「え?・・・あ、違う違う。ちょっとあの・・・生理がずっときてなくて・・・」
柚香は前の男と同棲し始めてからすぐ生理が止まってしまったと、俺に話してくれた。
恐らくストレスと栄養不足が原因だと、自分でわかってるような話し方で・・・。
「そろそろ来るかなー・・とは思ってるんだけど・・・」
「病院は?診てもらう?」
「いや、そこまではいいかなー・・・って思って・・・」
苦笑いしながらそう言った柚香だったけど、次の瞬間、その表情は悲しそうなものに変わった。
「・・思ってたけど・・・ちょっと真那ちゃん見てたら『いいな』って思っちゃって・・・」
「あー・・かわいかったもんな?」
「うん。圭一さんとの子供・・・ちょっと欲しいなとか思っちゃった。」
照れるようにして笑う柚香がなんだか痛々しく見え、俺は思わず柚香の体を引き寄せた。
「ふぁっ・・・!?圭一さん、運転っ・・・!」
「大丈夫。・・・柚香はまだ若いし、今すぐに子供・・・とは思わなくていいんじゃないか?とりあえず生理が来なきゃ何も始まらないし。」
「・・・うん、そうだね。」
「年内に体調が改善されなかったら医者な?それは妊娠だけじゃなくて、別の病気もあるかもしれないから絶対。わかった?」
「!!・・・はい。」
あの男から引きはがしてもう半年以上になる。
俺と暮らし始めてからもいろいろあったけど、そろそろ柚香の心も体も解放されてもいい頃だった。
毎食きちんと食べ、茶々丸と運動もしてる。
仕事も前と変わってない。
(何か他に引っかかってることでもあるのか?)
そんなことを考えてると、引き寄せていた柚香の体が急に離れた。
「どした?」
「ちょ・・・ちょっとコンビニに寄りたい・・・・」
「コンビニ?珍しいな。ちょっと待って?」
前を見ると少し行ったところにコンビニの姿が見える。
俺がそのコンビニに車を止めると、柚香は鞄を持っていそいそと降りて行ったのだ。
「?・・・喉乾いたとか?」
ついでにコーヒーでも買おうかと思って俺も車を降りてコンビニに入っていく。
すると柚香の姿があるはずなのにどこにもないような気がするのだ。
「コンビニ・・入ったよな?」
店内をぐるっと回りながら探してると、扉がガチャっと開く音が聞こえてきた。
そしてその音の方向から出てきたのは・・・柚香だ。
「あれ?トイレ行ってたのか?」
俯きながら出てきた柚香に声をかけると、柚香は顔を上げ、笑顔で俺を見た。
「・・・きた。」
「うん?何が?」
「生理・・・きた・・・。」
「!!・・・よかったな。」
柚香の体がまた、妊娠できる準備が整った証だ。
女性特有のものであるけど、ひと月に一度来るといわれてるものがちゃんと来たということは、柚香の体が正常に機能してるということ。
それは健康を指し、柚香の未来を保証してくれるバロメータでもあるのだ。
「ふふっ・・・よかった。」
「そうだな。・・・ところで柚香は子供ができたとしたら男の子と女の子、どっちがいい?」
コーヒーを手に取り、柚香が好きな紅茶も取ってレジに向かう。
すると柚香は考えながら俺の後ろとついてきた。
「うーん・・・どっちでもいいかな?」
「どっちでも?真那ちゃんみたいな女の子っていうかと思った。」
女の子のほうが色鮮やかな服を着せれるし、デザイナーである柚香はきっといろいろ描いたりもするだろう。
何より、柚香に似た女の子だったら思いっきり甘やかして育てたいと、ちょっと思ってたりしたのだ。
「・・・大好きな圭一さんとの子供なら・・・どっちでもかわいいもん。」
「!!・・・ははっ、それもそうか。」
俺は買った紅茶を柚香に手渡し、二人でまた車に戻った。
どこかで一泊しようかと思っていたけど、ちょっと予定が変わりそうだ。
「柚香、ホテル泊まる?家までまっすぐ帰ってもいいけど・・・どっちがいい?」
女性の生理は症状が重たい人と軽い人に分かれる。
慣れないホテルで寝ると気を使って寝れないかもしれないし、ここは柚香に聞くのが一番だと思ったのだ。
「・・・申し訳ないんだけど・・・」
「あ、帰った方がいいんだな?」
「うん・・。私、生理は重い方で、多分朝にはもう動けなくなると思う・・。」
「そんなに!?え、薬とかは?」
「三日くらいぐだぐだ過ごしたら元に戻るから大丈夫だよ。・・・ありがとう。」
にこっと笑った柚香だったけど、深夜に家に帰れた頃にはもう顔色が悪くなってしまっていた。
腹を押さえたまま車から降りることもできなかった為、抱き上げて部屋まで運ぶ。
「どうする?俺の部屋にする?自分の部屋のほうがいい?」
「自分の・・部屋・・・・」
「オーケー。欲しいものは?必要なものは?」
「カイロ・・・お腹温めたら・・・マシになる・・・」
「わかった。とりあえず茶々丸呼ぶから抱えとけ。」
俺は口笛で茶々丸を呼び、柚香を部屋に寝かせた。
布団をかけようとしたときに茶々丸が部屋に入ってきたから、柚香の隣に寝転ばせておく。
「茶々丸、ここにいろ。いいな?」
「くぅーん?」
「柚香、ちょっと寝といて?」
「んー・・・・」
茶々丸を抱きしめるようにして寝てる柚香に布団をかけ、俺は一旦自分の部屋に戻った。
そして手軽に食べれるゼリータイプの栄養補給剤をいくつか持ち、柚香の部屋に戻った。
「柚香?枕の上にゼリータイプのやつ置いとくからな?他にいるものとか欲しいものあったら言えよ?」
「うん・・・・ありがと・・・・」
「カイロは明日まで我慢してくれるか?代わりに・・・」
俺は茶々丸と反対側に寝転び、柚香の腰に手をあてた。
前後で温めれば少しはマシかと思ったのだ。
「きもち・・いい・・・」
「気持ちいい?ならよかった。朝までこのままでいるから・・・。」
「ん・・・・」
代わってやることができないもどかしさを覚えながら、俺は柚香が寝入るまでずっと温め続けたのだった。
晩御飯をいただいた俺たちはお暇させていただくことにし、柚香は那智さんに、俺は長谷川さんにご挨拶をした。
「また遊びに来てくださいね?野崎さん。」
「はいっ。今日はお時間いただき、ありがとうございました。」
「園田さんもまた来てください。今度はさっき食べた弁当の店、案内します。」
「それは是非。」
柚香は名残惜しそうに真那ちゃんに挨拶をし、俺たちは帰路についた。
帰りの車の中で柚香は那智さんの家でのことの話が止まらない。
「それでね?那智さんが生地を選ぶとき、基本的に生地屋さんが来てくれるらしくてーーーー」
「へぇー!こんなとこまで来てくれるのか。」
「車がないのと、生地も大量に買うから来てくれるんだって!」
「なるほど。」
「で、オンラインで採寸してるときは真那ちゃんは一人で遊んでるんだって!」
「一人!?大丈夫なのか?」
「DVD見せたりしてるらしいんだけど、その採寸は週に一度にしてできるだけ短時間で済ませるようにしてるんだって。それはこっちに引っ越してくる前からしてることって言ってた。」
「真那ちゃんの生活サイクルに組み込まれてるのか・・・すごいな。」
人見知りもせずに大人しかった真那ちゃん。
躾がいいのか、それともそういう性格なのかはわからない。
でも、柚香はそんな真那ちゃんをものすごくかわいがっていたのだ。
「・・・そういえばさ。」
「うん?」
「柚香って・・・まだ妊娠って・・してないよな?」
もう数えきれないくらい柚香を抱いてるけど、『妊娠した』なんて言葉は聞いた記憶がなかった。
もし妊娠していたとして、黙っていたとしても出てくる症状は抑えれるものではない。
だから気が付くはずなんだけど・・・・
「あー・・・実は・・・」
「!?・・・『妊娠してる』とか言う!?」
「え?・・・あ、違う違う。ちょっとあの・・・生理がずっときてなくて・・・」
柚香は前の男と同棲し始めてからすぐ生理が止まってしまったと、俺に話してくれた。
恐らくストレスと栄養不足が原因だと、自分でわかってるような話し方で・・・。
「そろそろ来るかなー・・とは思ってるんだけど・・・」
「病院は?診てもらう?」
「いや、そこまではいいかなー・・・って思って・・・」
苦笑いしながらそう言った柚香だったけど、次の瞬間、その表情は悲しそうなものに変わった。
「・・思ってたけど・・・ちょっと真那ちゃん見てたら『いいな』って思っちゃって・・・」
「あー・・かわいかったもんな?」
「うん。圭一さんとの子供・・・ちょっと欲しいなとか思っちゃった。」
照れるようにして笑う柚香がなんだか痛々しく見え、俺は思わず柚香の体を引き寄せた。
「ふぁっ・・・!?圭一さん、運転っ・・・!」
「大丈夫。・・・柚香はまだ若いし、今すぐに子供・・・とは思わなくていいんじゃないか?とりあえず生理が来なきゃ何も始まらないし。」
「・・・うん、そうだね。」
「年内に体調が改善されなかったら医者な?それは妊娠だけじゃなくて、別の病気もあるかもしれないから絶対。わかった?」
「!!・・・はい。」
あの男から引きはがしてもう半年以上になる。
俺と暮らし始めてからもいろいろあったけど、そろそろ柚香の心も体も解放されてもいい頃だった。
毎食きちんと食べ、茶々丸と運動もしてる。
仕事も前と変わってない。
(何か他に引っかかってることでもあるのか?)
そんなことを考えてると、引き寄せていた柚香の体が急に離れた。
「どした?」
「ちょ・・・ちょっとコンビニに寄りたい・・・・」
「コンビニ?珍しいな。ちょっと待って?」
前を見ると少し行ったところにコンビニの姿が見える。
俺がそのコンビニに車を止めると、柚香は鞄を持っていそいそと降りて行ったのだ。
「?・・・喉乾いたとか?」
ついでにコーヒーでも買おうかと思って俺も車を降りてコンビニに入っていく。
すると柚香の姿があるはずなのにどこにもないような気がするのだ。
「コンビニ・・入ったよな?」
店内をぐるっと回りながら探してると、扉がガチャっと開く音が聞こえてきた。
そしてその音の方向から出てきたのは・・・柚香だ。
「あれ?トイレ行ってたのか?」
俯きながら出てきた柚香に声をかけると、柚香は顔を上げ、笑顔で俺を見た。
「・・・きた。」
「うん?何が?」
「生理・・・きた・・・。」
「!!・・・よかったな。」
柚香の体がまた、妊娠できる準備が整った証だ。
女性特有のものであるけど、ひと月に一度来るといわれてるものがちゃんと来たということは、柚香の体が正常に機能してるということ。
それは健康を指し、柚香の未来を保証してくれるバロメータでもあるのだ。
「ふふっ・・・よかった。」
「そうだな。・・・ところで柚香は子供ができたとしたら男の子と女の子、どっちがいい?」
コーヒーを手に取り、柚香が好きな紅茶も取ってレジに向かう。
すると柚香は考えながら俺の後ろとついてきた。
「うーん・・・どっちでもいいかな?」
「どっちでも?真那ちゃんみたいな女の子っていうかと思った。」
女の子のほうが色鮮やかな服を着せれるし、デザイナーである柚香はきっといろいろ描いたりもするだろう。
何より、柚香に似た女の子だったら思いっきり甘やかして育てたいと、ちょっと思ってたりしたのだ。
「・・・大好きな圭一さんとの子供なら・・・どっちでもかわいいもん。」
「!!・・・ははっ、それもそうか。」
俺は買った紅茶を柚香に手渡し、二人でまた車に戻った。
どこかで一泊しようかと思っていたけど、ちょっと予定が変わりそうだ。
「柚香、ホテル泊まる?家までまっすぐ帰ってもいいけど・・・どっちがいい?」
女性の生理は症状が重たい人と軽い人に分かれる。
慣れないホテルで寝ると気を使って寝れないかもしれないし、ここは柚香に聞くのが一番だと思ったのだ。
「・・・申し訳ないんだけど・・・」
「あ、帰った方がいいんだな?」
「うん・・。私、生理は重い方で、多分朝にはもう動けなくなると思う・・。」
「そんなに!?え、薬とかは?」
「三日くらいぐだぐだ過ごしたら元に戻るから大丈夫だよ。・・・ありがとう。」
にこっと笑った柚香だったけど、深夜に家に帰れた頃にはもう顔色が悪くなってしまっていた。
腹を押さえたまま車から降りることもできなかった為、抱き上げて部屋まで運ぶ。
「どうする?俺の部屋にする?自分の部屋のほうがいい?」
「自分の・・部屋・・・・」
「オーケー。欲しいものは?必要なものは?」
「カイロ・・・お腹温めたら・・・マシになる・・・」
「わかった。とりあえず茶々丸呼ぶから抱えとけ。」
俺は口笛で茶々丸を呼び、柚香を部屋に寝かせた。
布団をかけようとしたときに茶々丸が部屋に入ってきたから、柚香の隣に寝転ばせておく。
「茶々丸、ここにいろ。いいな?」
「くぅーん?」
「柚香、ちょっと寝といて?」
「んー・・・・」
茶々丸を抱きしめるようにして寝てる柚香に布団をかけ、俺は一旦自分の部屋に戻った。
そして手軽に食べれるゼリータイプの栄養補給剤をいくつか持ち、柚香の部屋に戻った。
「柚香?枕の上にゼリータイプのやつ置いとくからな?他にいるものとか欲しいものあったら言えよ?」
「うん・・・・ありがと・・・・」
「カイロは明日まで我慢してくれるか?代わりに・・・」
俺は茶々丸と反対側に寝転び、柚香の腰に手をあてた。
前後で温めれば少しはマシかと思ったのだ。
「きもち・・いい・・・」
「気持ちいい?ならよかった。朝までこのままでいるから・・・。」
「ん・・・・」
代わってやることができないもどかしさを覚えながら、俺は柚香が寝入るまでずっと温め続けたのだった。
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