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翌日。

昼前に目を覚ました私は、窓に手をかけて外を見ていた。

もうタウさんたちは森に向かって出発したらしい。


「応戦って言ってたよね・・・戦争ってことだよね・・・?」


攻める気はないピストニア側は、攻められた時の戦略を立てるらしい。

攻められないことが一番いいけど、国民を守るのが騎士団の仕事。

もしものときのことを考えて今、考えておかないといけないのだろう。


「攻めて来れなければいいのに・・・。」


この土地が陸続きなのがダメなところなのじゃないかと、ふと思った私。

堀のようなものを作る戦略が前世の遥か昔にあったような記憶があるけど、堺の森全てに堀を作るのは難しい。

難しいどころか無理なことだった。


「堀・・・確か堀に水を入れてたお城とかあったよね。」


堺の森の縦ラインすべてに堀ができたとしてもディアヘルの人たちは攻めてくるだろう。

そうなればその堀に川みたいに水を流すことができたら、攻めてくるのにかなり時間がかかるようになる。

その川の流れが早ければ諦めるようなことになってくれるかもしれない。


「まー・・・絵空事だよね・・・。」


そもそも堀が作れない時点で絵空事。

でももし、それができたら・・・と考えてしまう。


「うーん・・・」


どういうのがいいのか考えながら、私は手をまっすぐ伸ばした。

堺の森がある方に手のひらを向け、さっきの堀をそうぞうしながら防界を作ってみる。


「・・・・・。」


お城を中心にして、悪意のある者を弾くように念を込め、シャボン玉のイメージでゆっくり広げていく。


「これを境の森の半分まで覆ってから・・・土地ごと引き寄せる・・!!」


ショベルカーで土をすくい寄せるようなイメージで、私は広げていた手をぎゅっと握った。

そして手をゆっくり引いていく。


「うっ・・!重いっ・・・!!」


想像通りできてるのかわからないけど、手に何か重いものがあることはわかった。

時間はかかるものの、少しずつ何かが動いてる気配が手に感じられる。


「え・・待って、これって堺の森ではどうなってるの?」



ーーーーー



ステラがとんでもない規模の防界をかけてる時、堺の森にいる騎士団は茫然としてた。

戦略を立てるための調査をしに来てるのだが、森全体が動いてるのだ。


「下がれ!!」

「何がどうなってる!?」


地響きが鳴り響く地面は、盛り上がるようにして動いていた。

まるで波が押し寄せるかのように土が上がっていく。


「は!?なんだこれ!?」


山のように盛り上がっていく土をタウが見てる時、トゥレイスがタウの肩を引っ張った。


「ステラじゃないか!?この結界、ステラだろ!?」

「!?」


トゥレイスの言葉に空を見上げると、遥か上空にステラの結界が見えた。

目が覚めたステラがかけたのだろう。


「いや・・ステラは土魔法は使えないはず・・・・」

「じゃあ一体なんだ!?」

「ディアヘルの可能性は!?」

「これ、堺の森全部だぞ・・・!?ディアヘルの奴らがこの規模の土地を動かすことなんてできないだろ・・・!!」


俺は風魔法を使って空高く上がった。

森全体がどうなってるのかを見るためだ。


「!!・・・これは・・・!」


眼下に広がっていた森は、ガラッと姿を変えていた。

幅の広い森はちょうど縦に半分くらいのところで真っ二つに分かれてるのだ。

ディアヘル側は森がそのままの状態のように見えるけど、ピストニア側は山のように高くなってる。

今までなかった高低差ができてるのだ。


「待て待て待て・・・森にあんなデカい川、無かっただろ・・・?」


ちょうど森が縦半分になってる部分に川が流れていた。

その幅はおそらく数十キロ。

遠くから見ても流れが速そうだ。


「川の中も高低差があるのか・・・?」


スピードを上げながらその川に近づくと、ゴウゴウと轟音を立てながら川は流れていた。

濁流のような川は流れが速く、所々滝のような場所もある。

滝壺は渦を巻いてるところも見え、泳いで渡れるようなものじゃない。


「一体どうなってるんだ・・・・」


とりあえず俺は戻り、騎士団のメンバーを集めて空から見た状況を伝えた。

見張りと調査に何人か残し、一旦城に戻る。


「・・・で?ディアヘルから攻めてこようと思ったらどんな感じだったんだ?」


空を飛びながらトゥレイスが聞いてきた。


「・・・ざっと見ただけだからまだ確証は持てないが・・・」


ディアヘル側から見たら森の途中で広大な川ができたような感じだろう。

ただ、向こう岸・・・ピストニア側はものすごい高さの崖がそびえ立ってることになる。

その高さはざっと見積もって数千メートル。

人の足で登ろうとするなら何日も時間を要することは確実だった。


「ならしばらく時間ができたってことか?」

「しばらくどころか・・・ステラの結界がある時点でディアヘルの奴らは入ってこれないだろう。」


前の結界とは違う雰囲気を感じるステラの魔法。

また結界を張ったかどうか確認しようと城の中庭に降り立った時、城内がざわついていた。


「お医者さまはまだ!?」

「清潔な布をもっと用意するんだ!!」

「誰か騎士団のタウ団長に連絡を・・・!!」


バタバタと走り回る侍女たちと使用人。

その中の一人が俺とトゥレイスの姿を見つけ、大声で叫んだ。


「タウ団長・・!!大変です!!」

「どうした?」


走ってくる使用人に駆け寄ると、その使用人は驚くことを言った。


「ステラ様ががお部屋の窓から落ちました・・・!!」


その言葉を聞いて、俺は血の気が引いた。

ステラの部屋は城の1階部分にあるものの、結構高さがあるのだ。

城の正面は緩やかな階段があるけど、真裏・・・つまりステラの部屋はその階段部分の高さ分あることになる。

城下にある家の・・・3階ほどの高さから落ちたことになるのだ。


「は・・!?ステラは!?」

「意識はありません・・!下にあった木にぶつかったようで今、皆で刺さった枝を抜いてます・・!!」

「!!」

「人手が必要でしたので上の来客のお部屋に運びました!!」


その言葉を聞いた瞬間、俺は魔法を使って城の中に飛び入った。

階段を使わずに真上に上がり、ステラが運ばれた部屋に入る。


「ステラ・・・!!」


部屋の中はたくさんの侍女と使用人で溢れていた。

汚れた布を持って部屋から出ていく侍女や、湯を持ってくる侍女。

ステラが寝かされてるであろうベッドには、ステラを囲むように8人の使用人と侍女がいる。


「!!・・・タウ様が来られました!!」


侍女の一人が俺に気づき、ベッドの方に声をかけた。

それと同時にステラを囲っていた使用人と侍女が一斉にベッドから離れていく。


「は・・・?なんだこれ・・・」


ベッドにいるのは紛れもなくステラだ。

ただ、だいぶケガをしたようでいろんなところに包帯が巻かれていた。

手首に腕、肘、肩、足、ふともも・・・顔も包帯が乗せられてる。


「誰か状況知らないのか・・・?」


恐る恐る近づきながら聞くと、使用人の一人が手を挙げた。


「少し前なのですが・・・窓から両手を出してらっしゃるのを見ました・・・。」

「窓から両手・・・?」

「はい。何か・・・空中にある物を引っ張ってるように見えたのですが・・・しばらくした後バタッと倒れたのです。」


使用人の話では、突然意識を失ったかのように倒れたステラは窓に腹を乗せ、上半身を外に垂らすようにして意識を失ったらしい。

危ないと思ったその使用人は人を呼び、救出しようとしてくれたのだそうだが・・・


「ステラ様の体がずるずると落ち始めて、皆で受け止めようとしたのですが植木に阻まれて・・・間に合いませんでした。」


植木の中に落ちてしまったステラは硬い枝に皮膚を貫かれたところがいくつかあったらしく、それを切りながら救出し、ついさっき部屋に運び入れれたとのことだった。


「お医者様はもうじき来られると思います・・!!」

「わかった。俺も手伝うからできるところをしておこう。」


そう言って俺はステラの手を取った。

小さな枝がいくつも刺さっていて、一つ一つ引き抜いていく。


「悪い、ここ、布をあててくれ。」

「はい。」

「服の中は俺と医者が見る。医者が来たら一旦出てくれ。」

「わかりました。」


俺たちは医者が到着するまでの間、ケガの手当てをしていった。

完全に皮膚を貫通してる枝を引き抜いても、ステラはびくとも動かない。

随分深く・・・眠ってしまってるようだ。


(血が出ても・・・すぐに止まるのは救い人だからか・・・?)


出血があるところは布をあてればすぐに止まっていく。

でも血が止まるだけでその傷自体は治ったりしなさそうだった。


(俺たちでもこんなに早く血は止まらないし・・・。)


そんなことを考えてると、部屋に医者が到着した。

それと同時に使用人たちが部屋から出ていく。


「・・・内臓は大丈夫そうですな。頭も大きなケガはしてなさそうです。」

「よかった・・・。あ、これ、どう思う?」


俺はステラの肩に刺さっていた木を抜いた。

そして傷口からあふれ出てくる血を医者に見せた後、きれいな布でその傷を押さえた。

数秒待ってからその布を外すと、血が見事に止まってる。


「ほぉ・・!」

「救い人だからなせることなのか?」


そう聞くと医者はじっとステラの顔を見つめた。


「申し訳ありません、救い人様の情報が少ないので・・・」

「わからない・・か。」

「はい。ただ、ステラ様はヒールがお得意のようなので、もしかすると自分自身の治癒能力が高いのかもしれません。」

「自然自己治癒か?」

「はい。」


何もしなくても勝手に治っていく自然自己治癒。

救い人だからかその能力が高いのは頷けることだった。


「しかし・・・」

「何か気になることでもあるのか?」


医者はステラの胸の音を聞いたり、脈を計ったりといろいろし始めた。

そして何か気になることがあるのか、首をかしげながらステラを見つめてる。


「少し・・脈の振れが弱いように思いまして・・・」

「え・・脈が弱い・・?」

「はい。」


医者の話だと、ステラの脈は死期に近づいてるような感じがするらしい。

体の大きさから考えたらまだ百何十年も生きれるハズなのに、それが感じられないのだとか。


「失礼ですがステラ様はおいくつで・・・」

「あー・・それは俺もちょっとわからない。でも5、60くらいじゃないか?」

「おそらくそうでしょうな。なら尚のことおかしいのですが・・・」

「・・・。」


首を何度もかしげる医者は、そのあとステラをよく診てから部屋から出ていった。

無数にあった傷は出血が全て止まり、あとはステラが目を覚ますのを待つだけになってる。


「・・・結界くらいじゃ気を失ったりしないよな・・・やっぱあれはステラが?」


憶測だけではなにもわからないけど、もし、ステラがかけた魔法が原因で意識を失ったのだとしたら対策を考えないといけない。


「頼むからとんでもないことしないでくれ・・・。」


そう願いながら、俺はステラの目が覚めるまでこの部屋にいることを決めた。





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