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迷子。

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ニゲラと初めて唇を重ねてからほぼひと月が経った。

今日はジニアが家を訪ねてきてくれ、二人で町をぶらぶら歩いてる。

雑貨屋さんに入ったり、ジュース屋さんに入ったり・・・。


「ジニアは今日仕事無かったんだ?」


そう聞くとジニアは私の手をぎゅっと繋いできた。


「今日のやつは受けてないよ。期間が長いやつはいくつか受けてるけどね。」

「そんなのあるんだねぇ。」


突然私を誘う時はノープランで歩くこともあるジニア。

ぶらぶらとただ歩いてると、通っていた学校が見えてきた。

その近くにあるニゲラの家も・・・。


(なんか・・・あれから行きにくいんだよね・・・。)


『抱かれに行く』みたいな気がして行きにくくて仕方がない。

でもいつかは行く・・つもりだった。

あの日、ニゲラとキスをしたときに気づいてしまったのだ。

誰かと結婚するなら・・・一緒にいて安心するニゲラがいいと。

ジニアたちは優しいし、私を見てくれてることもよくわかるけど・・・なんとなく『違う』気がしていた。

私の中身が年上だからかもしれない。


(ニゲラは・・・出会った時は年下だったけどジニアたちに比べたら私と近かったし・・・だから惹かれてるのかな・・。)



そんなことを考えながらニゲラの家を見つめてるとジニアがくぃっと私の手を引いた。


「わっ・・・!」

「・・・ニゲラさんの家見てどうしたの?」

「え?・・・あぁ、えーと・・・。」


なんて答えるべきか悩むからか、視線が空を泳いでしまう。

ジニアはそんな私を見て、手を引きながらぐぃぐぃと歩き始めた。


「?・・・どこ行くの?」

「・・・。」


無言で歩き続けるジニアの少し後ろをついて行く。

手を握られてるからついて行くしかない。


「じ・・ジニア・・・?」


学校を通り過ぎ、湖を通り過ぎ・・・

ずんずん進んで行くジニアに何も言えず、ただついて行く。

見覚えのある景色を通り、人の少ない道を進み始めてとうとう私は山に足を踏み入れた。


「ちょっと・・・ジニア!?」


うっそうと茂った木や草がそこら中にある道を進んで行く。

いろんなところを曲がりながら歩いて行くもんだから、もう町がどっちにあるかもわからない。

これ以上は危険だと思い、私は足を止めた。

繋がれてる手をぐぃっと引き、ジニアの足も止めた。


「ねぇ、どうしたの?」


そう聞くとジニアはか細い声で答え始めた。


「ニゲラさんに・・・耳飾り作らせたんだろ・・?」

「!!・・・なんでそれ知ってるの・・!?」

「やっぱり・・・。耳飾りを作ってる店から出て来るのをこの前見たんだ。・・・手に耳飾りを持ってるのも見た。」


ニゲラは確かに私の耳飾りを『作る』と言っていた。

それがいつできるのかとかまでは私は知らなかった。


「俺も・・・アイビーの耳飾りを作りたい。柄・・・教えてくれる?」


そう言って私の左側の髪の毛に触れたジニア。

私はその手を思わず掴んだ。


「・・ちょっと待って・・・!」

「どうして?ニゲラさんはいいのに俺はダメなの?」

「やっ・・そういうわけじゃないけど・・・ジニアのこと好きだけど私、そんな何人ともなんて結婚できない・・・」


ジニアたちが魅力的なのは事実だ。

でもその『好き』は『愛』ではない。

ニゲラに惹かれてる事実があるのに、ジニアと一緒に朝までいれるかと言われたら・・・それは私には無理なことだと思った。


「好きならいいだろ・・・!?」

「好きだけど・・・結婚とはまた別・・・」


そう言おうとしたとき、ジニアの表情が一瞬で変わった。


「・・・アイビーの気持ちはあとからでいい。俺が一番に触れたいんだ。」

「・・・え?」

「アイビーに好かれたいけど・・・俺がそれ以上に愛するから・・・だから・・・」


じりじりと迫ってくるジニアに恐怖感を覚え、私はジニアから手を離した。

そしてゆっくり一歩ずつ下がった。

後ろに地面が無いことに気がつかずに・・・。


「あっ・・・!」


3歩下がったところで私は地面を踏むことができなかった。

地面を踏んだつもりで足はある。

でも地面がないもんだから・・・私の身体は山の斜面を転がり落ちた。


「きゃぁーーっ!?」

「!?・・・アイビー!!」


ジニアが咄嗟に手を伸ばしてくれたけど、その手は私をとらえることはできなかった。

ごろごろと斜面を下り、途中にあった石や木に足や腕をぶつけてるのがわかる。

痛みよりも驚きのほうが勝ってるのか、ただひたすらに無事に止まることだけを祈っていた。




ーーーーー




「いった・・・ぃ・・・。」


滑り落ちた私は座るような形で止まった。

時間にして数秒も落ちてないはずなのに、身体が恐怖で震えてる。

身体のあちこちが痛く、すぐに立ち上がれそうになかった。


「どうしよ・・・。」


痛む場所を確認しながら耳を澄ませた。

今まで山に入ることはあっても落ちたことはない。

入るときはシャガかセダムと一緒だったから道は覚えてない。

そして今、ジニアの声は・・・聞こえない。


「聞こえないって言うよりなんだか聞こえにくい・・?」


回りにある木の葉が風で揺れるのは見えるのに、音は聞こえない。

そして自分の声も少し遠くに聞こえることに気がついた。


「耳・・・ぶつけたかな。」


手を動かすと、痛みはあるものの動くことが確認取れた。

足も・・・動く。

どこも折れてはなさそうだ。


「すぐにジニアが来る・・・?なら町に早く戻らないと・・。」


手をつき、ゆっくり立ち上がる。

さっきみたいにジニアに迫られたら・・今度は逃げれない。

身体の痛みに負けて、耳飾りの柄を見られるか襲われそうな予感を持った。


「いたぃ・・・。」


ずきずきと体中が痛むものの、耐えれないわけじゃなさそうだ。


「どっちに行ったらいいんだろ・・・。」


ぼやぼやと聞こえる耳を右手で押さえ、ひょこひょこととりあえず歩き始めた。




ーーーーー



一方その頃、アイビーの手を取れなかったジニアは必死にアイビーの姿を探していた。


「アイビー!?どこ!?返事して!?」


名前を呼んでも返事が帰って来ない。

身を乗り出してアイビーを探すけどもその姿は見えない。


「くそっ・・!」


落ちるまで迫るつもりはなかった。

ただニゲラさんに先を越された気がして焦っていただけだ。

アイビーのことを小さいころから見てきた俺が・・・一番にアイビーに触れたかったから・・・。


「アイビーっ!返事して!!」



下りれそうな場所を探して走り回る。

落ちた位置を確認しながらアイビーの無事をただただ祈った。


「アイビーっ!・・・アイビーっ!?」


木や岩を利用して飛び降りる。

少し時間がかかったものの、アイビーが落ちたところ辺りに着くことができた。

でも・・・


「・・・いない。」


落ちたであろうところにアイビーの姿が無かった。

辺りを見回すと何かが滑り落ちたような跡があった。

これはきっとアイビーだ。


「どこか行った・・?」


動けるくらいならケガはたいしてして無さそうだ。


「町に戻ったのかな・・・。」


アイビーがどこにいったのかもわからない俺は、とりあえず町に戻ってみることにした。



ーーーーー



「!・・・ニゲラさん!」


町に戻った時、偶然にもニゲラさんを見かけ、声をかけた。

ニゲラさんは買い物帰りなのか、布袋に野菜や果物を入れて抱えていた。


「ジニア?どうした?」

「あ・・いや・・・アイビーって・・見ませんでした?」

「見てないけど?」


ここでアイビーが山の斜面を落ちたことを言えばニゲラさんはどうするかを考えた。

町中を走り回ってアイビーを探して・・・きっと見つける。

山から落ちたアイビーは無傷じゃない。

擦り傷くらいは絶対はあるアイビーを保護して・・・病院に連れて行く。


(アイビーは俺よりもニゲラさんに信頼を置く。・・・絶対に。)


ただでさえ耳飾りのことで先を越されてる上にこれ以上アイビーの信頼を失うのは嫌だった。


「ジニア?なんかあったのか?」

「!・・・いえ、なんでもないですよ。じゃあ。」


俺は平静を装うようにして俺は歩き始めた。


(とりあえず先に病院かな・・・。ケガしてたら行くはずだし・・・。)


そう考えて病院に行ってみたけどアイビーの姿はなかった。

他に考えられる行き先は自宅のみ。

シャガさんに保護されてるであろうことから俺はもうアイビーの家に足を向けれなかった。


(きっと・・・減滅してる。)


無理矢理迫ったことは事実だ。

今まで優しく接していたけど・・あの日、ニゲラさんが耳飾りを持っていたことで一気に焦るようになった。

謝りたいけど・・・嫌われたくなくて足を進めれない自分がいた。


(明日・・・謝りに行こう・・・。)


そう思って俺は踵を返した。




ーーーーー




ジニアが帰路についてから数時間後、町では一斉捜索がされていた。

保護対象は『アイビー』。

晩御飯の時間になっても帰って来ないアイビーを心配したシャガが町で聞き込みをし、行方不明なことが判明したのだ。



「おい!誰かアイビーを見たやつはいないのか!?」

「南にいるやつらは誰も見てないって言ってたぞ!?」

「西もだ!!」

「最後に見たやつは誰だ!?」


アイビーのことを知ってる人たちが町中を探し回る。

それはセダムもライムもニゲラも同様だった。


「シャガ!ジニアはいないのか!?」


そう聞いたのはニゲラだ。

ニゲラはジニアの言葉を思い出していた。

『アイビーを見なかったか』・・・と聞かれたことを。


「どっか探してんじゃないのか!?」

「いや・・・ジニアが知ってる!アイビーのこと・・・!」


ニゲラの言葉に、捜索対象者が二人に増えた。

あての無い捜索をするより情報源がある方が早いと判断した町の人たちは一斉にジニアの家に向かう。

そこで全員が青ざめるような言葉を聞くとも知らずに・・・。


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