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第5話
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数日が過ぎた。その間、オリバーからの連絡は一切なかった。私が考えさせてと言った手前、彼も動きようがないのだろう。あるいは、もう全てが自分の思い通りに進むと確信しきって、可哀想なローズ嬢との甘い未来の計画でも練っているのかもしれない。
私はいつも通り、刺繍をしたり、本を読んだり、庭園を散歩したりして過ごした。傍目には、何も変わらない穏やかな公爵令嬢の日常。けれど水面下では、アンナが張り巡らせた情報網が着実に獲物を捉え始めていた。
そして、あの日から五日後の午後。アンナが、分厚い書類の束を携えて私の部屋を訪れた。
「お嬢様、ローズ嬢の件です」
「聞かせて」
私は読んでいた本を閉じ、アンナに向き直った。彼女の灰色の瞳が、淡々と事実を告げ始める。
「まず、ローズ・キングダム嬢の健康状態について。王宮の侍医はもちろん、街の著名な医師にもそれとなく確認しましたが、ここ数年、彼女を診察したという記録は一切ございませんでした」
「……そう」
やっぱり。本当に重病なら、まず頼るのは王宮の侍医のはずだ。それを一種のステータスと考える貴族だって少なくない。
「次に、キングダム男爵家の財政状況。かねてより芳しくないとの噂はありましたが、実情はそれ以上でした。複数の商会から多額の借金を重ねており、もはや返済は不可能な状態。屋敷や土地も、ほとんどが借金の担保に取られているとのことです」
なるほど。金に困っていると。それは、人が嘘をつく動機としては十分すぎるくらいだ。
「そして、これがローズ嬢自身の最近の目撃情報です」
アンナは一枚のメモを私に差し出した。そこには、日付と場所、そして簡単な状況が記されている。
『三週間前、王都中央区の高級ブティックにて。友人と談笑しながら、新しいドレスを数着購入』
『二週間前、西地区の劇場にて。オペラを鑑賞。観劇後、同伴の男性と腕を組んで馬車へ』
『十日前、王都東公園にて。乗馬を楽しむ姿。終始、快活な様子』
「……儚い花は、随分と活動的なのね」
私は思わず皮肉な笑みを浮かべた。血を吐くこともある重病人が、乗馬を楽しむだろうか。友人と笑いながら、買い物を楽しむだろうか。
「同伴の男性、というのは?」
「それが……」
アンナは少しだけ言葉を濁した。その様子に、私は核心が近いことを悟る。
「オリバー王子、ですわね?」
「……はい。目撃者によれば、王子は人目を忍ぶように、帽子とマントで顔を隠していた、と。しかし、時折見せる横顔や、その声から、オリバー殿下で間違いないだろう、とのことです」
私はゆっくりと息を吸い込んだ。ああ、繋がった。全てのピースが、カチリ、カチリと音を立てて、一つの醜い絵を完成させていく。
私はいつも通り、刺繍をしたり、本を読んだり、庭園を散歩したりして過ごした。傍目には、何も変わらない穏やかな公爵令嬢の日常。けれど水面下では、アンナが張り巡らせた情報網が着実に獲物を捉え始めていた。
そして、あの日から五日後の午後。アンナが、分厚い書類の束を携えて私の部屋を訪れた。
「お嬢様、ローズ嬢の件です」
「聞かせて」
私は読んでいた本を閉じ、アンナに向き直った。彼女の灰色の瞳が、淡々と事実を告げ始める。
「まず、ローズ・キングダム嬢の健康状態について。王宮の侍医はもちろん、街の著名な医師にもそれとなく確認しましたが、ここ数年、彼女を診察したという記録は一切ございませんでした」
「……そう」
やっぱり。本当に重病なら、まず頼るのは王宮の侍医のはずだ。それを一種のステータスと考える貴族だって少なくない。
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なるほど。金に困っていると。それは、人が嘘をつく動機としては十分すぎるくらいだ。
「そして、これがローズ嬢自身の最近の目撃情報です」
アンナは一枚のメモを私に差し出した。そこには、日付と場所、そして簡単な状況が記されている。
『三週間前、王都中央区の高級ブティックにて。友人と談笑しながら、新しいドレスを数着購入』
『二週間前、西地区の劇場にて。オペラを鑑賞。観劇後、同伴の男性と腕を組んで馬車へ』
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「……儚い花は、随分と活動的なのね」
私は思わず皮肉な笑みを浮かべた。血を吐くこともある重病人が、乗馬を楽しむだろうか。友人と笑いながら、買い物を楽しむだろうか。
「同伴の男性、というのは?」
「それが……」
アンナは少しだけ言葉を濁した。その様子に、私は核心が近いことを悟る。
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「……はい。目撃者によれば、王子は人目を忍ぶように、帽子とマントで顔を隠していた、と。しかし、時折見せる横顔や、その声から、オリバー殿下で間違いないだろう、とのことです」
私はゆっくりと息を吸い込んだ。ああ、繋がった。全てのピースが、カチリ、カチリと音を立てて、一つの醜い絵を完成させていく。
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