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第18話
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「あの別荘は、私にとって、かけがえのない思い出の詰まった場所です。その大切な場所を、この度、ある方に、お譲りすることにいたしました」
会場のざわめきが、大きくなる。
「私の我儘を快く受け入れ、あの別荘の、新しい所有者となってくださった方を、皆様にご紹介いたします」
私は、大きく、息を吸い込んだ。
満場の貴族たちに、そして、オリバーとローズの満ち足りた愛の終着点。天に手が届くような瞬間であろう、あの愚かな二人に向かって高らかに宣言した。
「マルクス様! どうぞ、壇上へ!」
マルクス。
その名前に、ほとんどの貴族は、きょとんとしていた。どこの貴族だろうか? と。
だが、その名前を聞いた瞬間、オリバーの顔から笑みが消え、ローズの顔は、白を通り越して青くなっていた。
広間の人垣をかき分けるようにして、一人の男が、ゆっくりと壇上へ上がってくる。
貴族ではない。派手な装飾はないが、最高級の生地で作られた衣服をまとった、恰幅のいい初老の男。
しかし、その柔和な笑顔とは裏腹に、瞳の奥には、商売人特有の冷徹で鋭い光が宿っていた。
王都で最も成功している、大商人、マルクス・フェンブレン。
そして……キングダム男爵家が抱える、莫大な借金の最大の債権者。
「ご紹介にあずかりました、マルクスです」
彼は、慣れた様子で、貴族たちに一礼した。
「この度、ご縁がありまして、アイラお嬢様より、あの素晴らしい別荘を、譲り受けることになりました」
ローズが、か細い悲鳴を上げたのが、静まり返った会場に、やけに大きく響いた。
彼女は、がくがくと震え、今にも倒れそうだ。
オリバーは、信じられないという顔で、私とマルクス氏を交互に見ている。
「な……ぜ……」
オリバーの唇から、絞り出すような声が漏れた。
「なぜ、彼が……」
なぜ? 簡単なことよ。
あなたたちが、一番、触れられたくない人物だから。
あなたたちの純愛という名の計画の、唯一にして最大の弱点だから。
別荘を手に入れ、それを担保に新たな借金をし、マルクス氏への返済を先延ばしにする。それが、あなたたちの描いた未来図だったのでしょう?
でも、その未来は、もう永遠に来ない。
私は、そんな彼らの絶望を、最高のスパイスとして、スピーチを締めくくった。
「そして、マルクス様は、あの別荘を、こうお使いになると、おっしゃってくださいました」
私は、にっこりと、会場の全ての人々に向かって微笑みかけた。
「近年、流行り病などで、体力の落ちた方々が、無料で静養できる、慈善施設として、解放してくださる、と。病に苦しむ、多くの人々のために……なんと、素晴らしいことでしょう!」
その言葉が、彼らにとどめを刺した。
会場は、割れんばかりの拍手と、賞賛の声に包まれた。
マルクス氏の慈善事業を称える声、そして、そのきっかけを作った私、アイラを褒め称える声。
病気のローズのため、という、彼らの唯一の大義名分も、本物の大規模な慈善事業の前では、あまりにも陳腐で、自己中心的な言い訳にしか聞こえない。
もう、彼らには、逃げ場も、言い訳も、何一つ残されていなかった。
拍手と歓声の中、オリバーとローズは、ただ、呆然と立ち尽くしていた。スポットライトを浴びながら、全ての観客から、嘲笑と侮蔑の視線を浴びる哀れな道化師。彼らが望んだのとは全く違う形で、彼らは、物語の主役になったのだ。
私は、そんな二人にもう目もくれず、壇上から降りた。
そして、祝福の言葉をかけにくる貴族たちの輪の中に、戻っていく。
「アイラ様、素晴らしいご決断でしたわ!」
「ええ、あなたこそ、本物の慈愛に満ちた方だ!」
私は、その賞賛の言葉のシャワーを浴びながら、シャンパンのグラスを掲げた。
「私の、最高の誕生日に」
グラスの中で、黄金色の泡が、きらきらと弾けて消えた。
それはまるで、あの愚かな二人の、儚い夢のようだった。
会場のざわめきが、大きくなる。
「私の我儘を快く受け入れ、あの別荘の、新しい所有者となってくださった方を、皆様にご紹介いたします」
私は、大きく、息を吸い込んだ。
満場の貴族たちに、そして、オリバーとローズの満ち足りた愛の終着点。天に手が届くような瞬間であろう、あの愚かな二人に向かって高らかに宣言した。
「マルクス様! どうぞ、壇上へ!」
マルクス。
その名前に、ほとんどの貴族は、きょとんとしていた。どこの貴族だろうか? と。
だが、その名前を聞いた瞬間、オリバーの顔から笑みが消え、ローズの顔は、白を通り越して青くなっていた。
広間の人垣をかき分けるようにして、一人の男が、ゆっくりと壇上へ上がってくる。
貴族ではない。派手な装飾はないが、最高級の生地で作られた衣服をまとった、恰幅のいい初老の男。
しかし、その柔和な笑顔とは裏腹に、瞳の奥には、商売人特有の冷徹で鋭い光が宿っていた。
王都で最も成功している、大商人、マルクス・フェンブレン。
そして……キングダム男爵家が抱える、莫大な借金の最大の債権者。
「ご紹介にあずかりました、マルクスです」
彼は、慣れた様子で、貴族たちに一礼した。
「この度、ご縁がありまして、アイラお嬢様より、あの素晴らしい別荘を、譲り受けることになりました」
ローズが、か細い悲鳴を上げたのが、静まり返った会場に、やけに大きく響いた。
彼女は、がくがくと震え、今にも倒れそうだ。
オリバーは、信じられないという顔で、私とマルクス氏を交互に見ている。
「な……ぜ……」
オリバーの唇から、絞り出すような声が漏れた。
「なぜ、彼が……」
なぜ? 簡単なことよ。
あなたたちが、一番、触れられたくない人物だから。
あなたたちの純愛という名の計画の、唯一にして最大の弱点だから。
別荘を手に入れ、それを担保に新たな借金をし、マルクス氏への返済を先延ばしにする。それが、あなたたちの描いた未来図だったのでしょう?
でも、その未来は、もう永遠に来ない。
私は、そんな彼らの絶望を、最高のスパイスとして、スピーチを締めくくった。
「そして、マルクス様は、あの別荘を、こうお使いになると、おっしゃってくださいました」
私は、にっこりと、会場の全ての人々に向かって微笑みかけた。
「近年、流行り病などで、体力の落ちた方々が、無料で静養できる、慈善施設として、解放してくださる、と。病に苦しむ、多くの人々のために……なんと、素晴らしいことでしょう!」
その言葉が、彼らにとどめを刺した。
会場は、割れんばかりの拍手と、賞賛の声に包まれた。
マルクス氏の慈善事業を称える声、そして、そのきっかけを作った私、アイラを褒め称える声。
病気のローズのため、という、彼らの唯一の大義名分も、本物の大規模な慈善事業の前では、あまりにも陳腐で、自己中心的な言い訳にしか聞こえない。
もう、彼らには、逃げ場も、言い訳も、何一つ残されていなかった。
拍手と歓声の中、オリバーとローズは、ただ、呆然と立ち尽くしていた。スポットライトを浴びながら、全ての観客から、嘲笑と侮蔑の視線を浴びる哀れな道化師。彼らが望んだのとは全く違う形で、彼らは、物語の主役になったのだ。
私は、そんな二人にもう目もくれず、壇上から降りた。
そして、祝福の言葉をかけにくる貴族たちの輪の中に、戻っていく。
「アイラ様、素晴らしいご決断でしたわ!」
「ええ、あなたこそ、本物の慈愛に満ちた方だ!」
私は、その賞賛の言葉のシャワーを浴びながら、シャンパンのグラスを掲げた。
「私の、最高の誕生日に」
グラスの中で、黄金色の泡が、きらきらと弾けて消えた。
それはまるで、あの愚かな二人の、儚い夢のようだった。
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