幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈

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第19話

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割れんばかりの拍手と賞賛の声。それは、私と、私の隣で人の良さそうな笑みを浮かべるマルクス氏に向けられたものだった。慈善事業という、誰も反対できない完璧な大義名分。その輝かしい光の中で、日陰に追いやられた二人の道化師は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

ローズは、とうとう膝から崩れ落ち、床にへたり込んでしまった。その白い顔には、絶望という二文字が、くっきりと刻まれている。彼女の震える肩を、オリバーが抱きしめる。彼の顔もまた、信じられないという表情で蒼白になっていた。

会場の貴族たちは、そんな二人を、好奇と侮蔑の入り混じった残酷な視線で遠巻きに眺めている。誰も、手を差し伸べようとはしない。彼らが自分たちで選んだ道だ。悲劇の恋人ごっこは、もう誰もが飽き飽きしていた。

ああ、なんて美しい光景だろう。
私の頭の中では、この惨劇にふさわしい格調高いオペラが鳴り響いていた。
主役は、もちろん、あの二人。

しかし、物語は、まだ終わっていなかったらしい。
愛するローズの悲しげな顔を見て、彼は奮い立ったようだった。

「ローズ……っ」

オリバーは、感情が込み上げて言葉が続かない。

僕が、彼女を守らなくては。僕こそが、ローズのただ一人のヒーローなのだ。
彼女を悲しませるやつは、誰であっても許さない。
たとえ、それが、元婚約者であろうと。

彼はきっと、そんなことを考えていたのだろう。
だって、彼の顔は、次の瞬間には、悲劇のヒロインを守る騎士のような深い覚悟を秘めた、どこか切ない表情に変わっていたのだから。

少年時代の彼は、弱き者を救う騎士のようなヒーローに強い憧れを抱いていた。忘れかけていた少年の日の記憶が、あのときの純粋な感情が、今、心に鮮やかによみがえる。

(弱っている暇なんてない、気を落としている場合じゃない)

そう思いながら、彼はゆっくりと立ち上がると、一直線に、私の元へと向かってきた。その足取りは、夜会の場に姿を現した時の自信に満ちたものではなく、怒りと焦りに駆られた危ういものだった。

「アイラッ!!」

四人の奏者が奏でる柔らかな音楽に満たされた広間に、彼の怒声が突き刺さる。その瞬間、静かなクラシックの演奏が止まり、全ての会話が途切れた。全ての視線が、再び、私と彼に集中する。ああ、彼は、本当に目立ちたがり屋だ。

彼は、私の目の前まで来る。
かつての理想とは裏腹に、彼の姿に、正義の騎士の面影はなかった。まるで獲物を威嚇する獣のように、荒い息を吐きながら私を睨みつけた。

「おい、どういうことだ! 説明しろ!」

その声は、命令だった。元王子としての、最後のプライドが、彼にそうさせているのかもしれない。

私は、手に持っていたシャンパンのグラスを、近くのテーブルにことりと置いた。そして、ゆっくりと彼に向き直る。

「どういうこと、とは、何のことでしょう? オリバー殿下」

私は、あえて首を傾げてみせた。心底、意味が分からない、という純真な表情で。

「とぼけるな! あの別荘のことだ! なぜ、お前がマルクスなんかに売っている!?」

「売る、だなんて、人聞きの悪い。私は、お譲りしただけですわ」

「どっちでも同じことだ! 僕との約束が違うじゃないか!」

彼の叫び声が、高い天井に響き渡る。『僕との約束』その言葉に私は思わず、笑ってしまいそうになるのを必死でこらえた。
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