幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈

文字の大きさ
21 / 83

第21話

しおりを挟む
「『余命一年』の、病弱なローズ様が住むには、あの別荘は、少し設備が足りないのではなくて? 湖のほとりは、冬は冷え込みますし、王都の病院からも、ずいぶんと離れている。最新の医療設備も、専門の看護人もおりません。本当に、彼女の体を案じているのなら、もっと別の場所を選ぶべきだったのではないかしら?」

私は、いまだローズ様とお呼びいたしますわ。公爵令嬢として、相手への敬意を忘れず、自らの品位も守らねばなりませんもの。

『余命一年』
その言葉を、私がはっきりと口にした瞬間。
オリバーの顔から、完全に、表情が消えた。
そして、その後ろで、かろうじて立っていたローズの膝が、再び、がくりと折れた。

ああ、これで、おしまいだ。
彼らが築き上げた嘘と虚構の城が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。

「お前……知って……」

オリバーの声は、もはや、怒声ではなかった。
ただ、呆然とした呟きだった。

「ええ、存じておりますわ。全て」

私は、肯定した。もう、隠す必要もない。

「ローズ様が、本当は、病気などではなく、お元気であることも。あなたたちが、私の同情を引くために、卑劣な嘘をついたことも。そして、私の大切な別荘を、騙し取ろうと計画していたことも」

私の言葉一つ一つが、鋭い刃となって、彼らの胸を深くえぐっていく。

「全部、知っていたというのか……!? あの時から……!?」

「ええ、あなたが、私の前で、涙を流してくださった、あの時から、ずっと」

絶望。
彼の顔に浮かんでいるのは、もう、それだけだった。
自分が最初から、私の手のひらの上で踊らされていた哀れな操り人形でしかなかったという、残酷な真実。

愛する人を守るヒーロー?
笑わせてくれる。
あなたは、ただの、欲に目が眩んだ愚かな詐欺師じゃない。

プライドも、言い訳も、全てを失った彼が次に取る行動は、一つしかなかった。

「この……っ、アマ!!」

逆上した彼は、理性を失い、ついに、私に掴みかかろうと、その手を伸ばした。
感情的な男が、最後に頼るのは、いつだって暴力だ。

でも、その手が、私のドレスに触れることはなかった。

「元王子。そこまでにしていただけますかな」

低く、しかし、有無を言わせぬ威厳に満ちた声。
いつのまにか、私とオリバーの間に、父であるバランシュナイル公爵が、立ちはだかっていた。その両脇には、屈強な衛兵が二人、剣の柄に手をかけて、オリバーを睨みつけている。

「私の娘に、これ以上の無礼は、許さん」

父の、絶対零度の視線に射抜かれ、オリバーは、振り上げた手を、行き場なく彷徨わせた。
完全に、孤立無援。
彼は、全ての敵に囲まれた裸の王様だった。

「さあ、この愚かな元王子と、詐欺師の令嬢を、ここから、つまみ出しなさい」

父が、冷たく命じる。
衛兵たちが、オリバーとローズに、じりじりと迫っていく。

ああ、このまま、二人は、みじめに、この夜会から追い出されていくのだろうか。

でも私は、まだ、少しだけ遊び足りなかった。

「お待ちになって、お父様」

私は、父を、そっと制した。そして、絶望の淵で立ち尽くすオリバーに向かって、最後の提案を持ちかけた。
悪魔のささやくような誘惑を。

「オリバー様。まだ、手がないわけでは、ありませんわよ?」

私の言葉に彼は、えっ? と、混乱を隠せない様子。
『僕は、まだ助かる道があるの?』そんな問いを浮かべるように、彼は困惑の表情を見せた。

そして次の瞬間、最後の望みにすがるような眼差しを私に向けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです

藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。 ――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。 妹は父の愛人の子。 身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、 彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。 婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、 当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。 一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。 だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。 これは、誰かが罰した物語ではない。 ただ、選んだ道の先にあった現実の話。 覚悟のなかった婚約者が、 自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。

裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます

nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。 アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。 全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

幼馴染に夢中の夫を捨てた貴婦人は、王太子に熱愛される

Narian
恋愛
アイリスの夫ロイは、新婚の頃から金髪の愛らしい幼馴染・フローラに夢中で、妻には見向きもしなかった。 夫からは蔑ろにされ、夫の両親からは罵られ、フローラからは見下される日々。そしてアイリスは、ついに決意する。 「それほど幼馴染が大切なら、どうぞご自由に。私は出て行って差し上げます」 これは、虐げられた主人公が、過去を断ち切り幸せを掴む物語。 ※19話完結。 毎日夜9時ごろに投稿予定です。朝に投稿することも。お気に入り登録していただけたら嬉しいです♪

【完結】私と婚約破棄して恋人と結婚する? ならば即刻我が家から出ていって頂きます

水月 潮
恋愛
ソフィア・リシャール侯爵令嬢にはビクター・ダリオ子爵令息という婚約者がいる。 ビクターは両親が亡くなっており、ダリオ子爵家は早々にビクターの叔父に乗っ取られていた。 ソフィアの母とビクターの母は友人で、彼女が生前書いた”ビクターのことを託す”手紙が届き、亡き友人の願いによりソフィアの母はビクターを引き取り、ソフィアの婚約者にすることにした。 しかし、ソフィアとビクターの結婚式の三ヶ月前、ビクターはブリジット・サルー男爵令嬢をリシャール侯爵邸に連れてきて、彼女と結婚するからソフィアと婚約破棄すると告げる。 ※設定は緩いです。物語としてお楽しみ頂けたらと思います。 *HOTランキング1位到達(2021.8.17) ありがとうございます(*≧∀≦*)

捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来

鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」 婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。 王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。 アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。 だが、彼女は決して屈しない。 「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」 そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。 ――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。 彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

処理中です...