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第21話
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「『余命一年』の、病弱なローズ様が住むには、あの別荘は、少し設備が足りないのではなくて? 湖のほとりは、冬は冷え込みますし、王都の病院からも、ずいぶんと離れている。最新の医療設備も、専門の看護人もおりません。本当に、彼女の体を案じているのなら、もっと別の場所を選ぶべきだったのではないかしら?」
私は、いまだローズ様とお呼びいたしますわ。公爵令嬢として、相手への敬意を忘れず、自らの品位も守らねばなりませんもの。
『余命一年』
その言葉を、私がはっきりと口にした瞬間。
オリバーの顔から、完全に、表情が消えた。
そして、その後ろで、かろうじて立っていたローズの膝が、再び、がくりと折れた。
ああ、これで、おしまいだ。
彼らが築き上げた嘘と虚構の城が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
「お前……知って……」
オリバーの声は、もはや、怒声ではなかった。
ただ、呆然とした呟きだった。
「ええ、存じておりますわ。全て」
私は、肯定した。もう、隠す必要もない。
「ローズ様が、本当は、病気などではなく、お元気であることも。あなたたちが、私の同情を引くために、卑劣な嘘をついたことも。そして、私の大切な別荘を、騙し取ろうと計画していたことも」
私の言葉一つ一つが、鋭い刃となって、彼らの胸を深くえぐっていく。
「全部、知っていたというのか……!? あの時から……!?」
「ええ、あなたが、私の前で、涙を流してくださった、あの時から、ずっと」
絶望。
彼の顔に浮かんでいるのは、もう、それだけだった。
自分が最初から、私の手のひらの上で踊らされていた哀れな操り人形でしかなかったという、残酷な真実。
愛する人を守るヒーロー?
笑わせてくれる。
あなたは、ただの、欲に目が眩んだ愚かな詐欺師じゃない。
プライドも、言い訳も、全てを失った彼が次に取る行動は、一つしかなかった。
「この……っ、アマ!!」
逆上した彼は、理性を失い、ついに、私に掴みかかろうと、その手を伸ばした。
感情的な男が、最後に頼るのは、いつだって暴力だ。
でも、その手が、私のドレスに触れることはなかった。
「元王子。そこまでにしていただけますかな」
低く、しかし、有無を言わせぬ威厳に満ちた声。
いつのまにか、私とオリバーの間に、父であるバランシュナイル公爵が、立ちはだかっていた。その両脇には、屈強な衛兵が二人、剣の柄に手をかけて、オリバーを睨みつけている。
「私の娘に、これ以上の無礼は、許さん」
父の、絶対零度の視線に射抜かれ、オリバーは、振り上げた手を、行き場なく彷徨わせた。
完全に、孤立無援。
彼は、全ての敵に囲まれた裸の王様だった。
「さあ、この愚かな元王子と、詐欺師の令嬢を、ここから、つまみ出しなさい」
父が、冷たく命じる。
衛兵たちが、オリバーとローズに、じりじりと迫っていく。
ああ、このまま、二人は、みじめに、この夜会から追い出されていくのだろうか。
でも私は、まだ、少しだけ遊び足りなかった。
「お待ちになって、お父様」
私は、父を、そっと制した。そして、絶望の淵で立ち尽くすオリバーに向かって、最後の提案を持ちかけた。
悪魔のささやくような誘惑を。
「オリバー様。まだ、手がないわけでは、ありませんわよ?」
私の言葉に彼は、えっ? と、混乱を隠せない様子。
『僕は、まだ助かる道があるの?』そんな問いを浮かべるように、彼は困惑の表情を見せた。
そして次の瞬間、最後の望みにすがるような眼差しを私に向けた。
私は、いまだローズ様とお呼びいたしますわ。公爵令嬢として、相手への敬意を忘れず、自らの品位も守らねばなりませんもの。
『余命一年』
その言葉を、私がはっきりと口にした瞬間。
オリバーの顔から、完全に、表情が消えた。
そして、その後ろで、かろうじて立っていたローズの膝が、再び、がくりと折れた。
ああ、これで、おしまいだ。
彼らが築き上げた嘘と虚構の城が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
「お前……知って……」
オリバーの声は、もはや、怒声ではなかった。
ただ、呆然とした呟きだった。
「ええ、存じておりますわ。全て」
私は、肯定した。もう、隠す必要もない。
「ローズ様が、本当は、病気などではなく、お元気であることも。あなたたちが、私の同情を引くために、卑劣な嘘をついたことも。そして、私の大切な別荘を、騙し取ろうと計画していたことも」
私の言葉一つ一つが、鋭い刃となって、彼らの胸を深くえぐっていく。
「全部、知っていたというのか……!? あの時から……!?」
「ええ、あなたが、私の前で、涙を流してくださった、あの時から、ずっと」
絶望。
彼の顔に浮かんでいるのは、もう、それだけだった。
自分が最初から、私の手のひらの上で踊らされていた哀れな操り人形でしかなかったという、残酷な真実。
愛する人を守るヒーロー?
笑わせてくれる。
あなたは、ただの、欲に目が眩んだ愚かな詐欺師じゃない。
プライドも、言い訳も、全てを失った彼が次に取る行動は、一つしかなかった。
「この……っ、アマ!!」
逆上した彼は、理性を失い、ついに、私に掴みかかろうと、その手を伸ばした。
感情的な男が、最後に頼るのは、いつだって暴力だ。
でも、その手が、私のドレスに触れることはなかった。
「元王子。そこまでにしていただけますかな」
低く、しかし、有無を言わせぬ威厳に満ちた声。
いつのまにか、私とオリバーの間に、父であるバランシュナイル公爵が、立ちはだかっていた。その両脇には、屈強な衛兵が二人、剣の柄に手をかけて、オリバーを睨みつけている。
「私の娘に、これ以上の無礼は、許さん」
父の、絶対零度の視線に射抜かれ、オリバーは、振り上げた手を、行き場なく彷徨わせた。
完全に、孤立無援。
彼は、全ての敵に囲まれた裸の王様だった。
「さあ、この愚かな元王子と、詐欺師の令嬢を、ここから、つまみ出しなさい」
父が、冷たく命じる。
衛兵たちが、オリバーとローズに、じりじりと迫っていく。
ああ、このまま、二人は、みじめに、この夜会から追い出されていくのだろうか。
でも私は、まだ、少しだけ遊び足りなかった。
「お待ちになって、お父様」
私は、父を、そっと制した。そして、絶望の淵で立ち尽くすオリバーに向かって、最後の提案を持ちかけた。
悪魔のささやくような誘惑を。
「オリバー様。まだ、手がないわけでは、ありませんわよ?」
私の言葉に彼は、えっ? と、混乱を隠せない様子。
『僕は、まだ助かる道があるの?』そんな問いを浮かべるように、彼は困惑の表情を見せた。
そして次の瞬間、最後の望みにすがるような眼差しを私に向けた。
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