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第25話
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私の誕生日の夜会で、華々しく、そして無様に砕け散った二人の道化師の物語は、それで終わりではなかった。真の物語は、幕が下りたその後に、静かに始まったのだった。
オリバーとローズは、私の『慈悲』によって、公爵家の広大な敷地の片隅にある、離れの物置小屋に住むことを許された。かつては庭師の道具や、冬用の焚き木が積まれていた。細かなちりとカビの匂いが染みついた石造りの小さな建物。それが、勘当された元王子と男爵令嬢の、新しい城となった。
彼らの生活は、私の簡単な指示によって、厳格に管理された。
食事は、一日一回、夜にだけ運ばれる。メニューは、その日の厨房で働いた大勢の使用人たちの食事の、残り物。時には具のほとんど入っていないスープだけの日もあれば、固くなったパンの耳だけの日もあった。
水は、外にある井戸から、自分たちで水をくみ上げなくてはならない。
暖炉はあったが、薪は自分たちで森から拾ってくる必要があった。
もちろん、侍女も、従者もいない。掃除も、洗濯も、全てが、生まれてこの方、指一本動かしたことのなかった二人の仕事となった。
「アイラ様は、お優しい方だ」
公爵家の使用人たちは、口々にそう噂した。
「あの二人を、路頭に迷わせることなく、住む場所と食事を与えてくださるなんて」
「ええ、私なら、とっくに叩き出してしまいますわ」
彼らは知らない。
生かさず、殺さず、ただ尊厳だけを、毎日少しずつ、ゆっくりと削ぎ落としていく。
それこそが、私の復讐の、最終章だということを。
◇
「……また、これだけ?」
物置小屋の薄暗い室内で、ローズの不満そうな声が響いた。木のテーブルの上に置かれているのは、一つのバスケット。中には、冷たい麦の薄炊きと、黒ずんだリンゴが一つだけ。
「すまない、ローズ……。僕が、不甲斐ないばかりに……」
オリバーは、消え入りそうな声で謝った。彼のミルクティー色の髪は、すでに輝きを失い、くすんだ藁のようになっている。やつれた頬、落ち窪んだ目。かつての、光り輝く王子の面影は、どこにもなかった。
「謝ってほしいなんて、思ってないわ! 何とかしてちょうだい、と言っているのよ! あなた、元は王子だったんでしょう!? こんな、豚の餌みたいなもの、私、もう、食べられない……!」
ローズは、金切り声を上げた。彼女の可憐だった面影は、日々の過酷な生活の中で、すっかりと削げ落ちていた。痩せた頬はこけ、肌は荒れ、いつも不機嫌そうに、眉間に影を落としたような表情をしている。もう、オリバーが愛した『儚い花』ではなかった。
「分かっている! 分かっているさ! 僕だって、悔しいんだ! だが、どうしろと……」
「知らないわよ! それを考えるのが、あなたの役目でしょ!」
言い争いは、彼らの日常だった。
最初は、オリバーも必死に彼女を慰めていた。
『僕がいるから、大丈夫だ』
『愛さえあれば、乗り越えられる』
『僕が、必ず君を、ここから出してあげる』
そんな、空っぽの言葉を、毎日のように繰り返した。彼は、まだ、自分をヒーローだと信じたかったのだ。逆境の中で、愛する人を守る悲劇のヒーローだと。
しかし、そのヒーローごっこも、空腹と寒さの前では、あまりにも無力だった。今となっては、彼の言葉がローズの心に響くことはなかった。彼女が欲しいのは、愛の言葉ではなく、温かいスープと、柔らかいベッドだったからだ。
二人の純愛は、現実という名の冷たい泥水の中で、ゆっくりと確実に腐り始めていた。
オリバーとローズは、私の『慈悲』によって、公爵家の広大な敷地の片隅にある、離れの物置小屋に住むことを許された。かつては庭師の道具や、冬用の焚き木が積まれていた。細かなちりとカビの匂いが染みついた石造りの小さな建物。それが、勘当された元王子と男爵令嬢の、新しい城となった。
彼らの生活は、私の簡単な指示によって、厳格に管理された。
食事は、一日一回、夜にだけ運ばれる。メニューは、その日の厨房で働いた大勢の使用人たちの食事の、残り物。時には具のほとんど入っていないスープだけの日もあれば、固くなったパンの耳だけの日もあった。
水は、外にある井戸から、自分たちで水をくみ上げなくてはならない。
暖炉はあったが、薪は自分たちで森から拾ってくる必要があった。
もちろん、侍女も、従者もいない。掃除も、洗濯も、全てが、生まれてこの方、指一本動かしたことのなかった二人の仕事となった。
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公爵家の使用人たちは、口々にそう噂した。
「あの二人を、路頭に迷わせることなく、住む場所と食事を与えてくださるなんて」
「ええ、私なら、とっくに叩き出してしまいますわ」
彼らは知らない。
生かさず、殺さず、ただ尊厳だけを、毎日少しずつ、ゆっくりと削ぎ落としていく。
それこそが、私の復讐の、最終章だということを。
◇
「……また、これだけ?」
物置小屋の薄暗い室内で、ローズの不満そうな声が響いた。木のテーブルの上に置かれているのは、一つのバスケット。中には、冷たい麦の薄炊きと、黒ずんだリンゴが一つだけ。
「すまない、ローズ……。僕が、不甲斐ないばかりに……」
オリバーは、消え入りそうな声で謝った。彼のミルクティー色の髪は、すでに輝きを失い、くすんだ藁のようになっている。やつれた頬、落ち窪んだ目。かつての、光り輝く王子の面影は、どこにもなかった。
「謝ってほしいなんて、思ってないわ! 何とかしてちょうだい、と言っているのよ! あなた、元は王子だったんでしょう!? こんな、豚の餌みたいなもの、私、もう、食べられない……!」
ローズは、金切り声を上げた。彼女の可憐だった面影は、日々の過酷な生活の中で、すっかりと削げ落ちていた。痩せた頬はこけ、肌は荒れ、いつも不機嫌そうに、眉間に影を落としたような表情をしている。もう、オリバーが愛した『儚い花』ではなかった。
「分かっている! 分かっているさ! 僕だって、悔しいんだ! だが、どうしろと……」
「知らないわよ! それを考えるのが、あなたの役目でしょ!」
言い争いは、彼らの日常だった。
最初は、オリバーも必死に彼女を慰めていた。
『僕がいるから、大丈夫だ』
『愛さえあれば、乗り越えられる』
『僕が、必ず君を、ここから出してあげる』
そんな、空っぽの言葉を、毎日のように繰り返した。彼は、まだ、自分をヒーローだと信じたかったのだ。逆境の中で、愛する人を守る悲劇のヒーローだと。
しかし、そのヒーローごっこも、空腹と寒さの前では、あまりにも無力だった。今となっては、彼の言葉がローズの心に響くことはなかった。彼女が欲しいのは、愛の言葉ではなく、温かいスープと、柔らかいベッドだったからだ。
二人の純愛は、現実という名の冷たい泥水の中で、ゆっくりと確実に腐り始めていた。
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