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第40話
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「な……なんで、あの男が……」
「え? 誰よ、あの人。アイラの恋人? あなたより素敵だわ(顔面、強すぎ)」
「は? 俺のほうが100倍かっこいいわ」
「悪いけど、どう見てもあの人の勝ちでしょ(オリバー、ごめん、あの人ちょっと反則級なんだわ)」
「何言ってんだ、誰がどう見ても……(正直言って、あいつのほうがかっこよくね?)俺のほうがかっこいいに決まってんだろ!」
「……それで、あの人は誰なの?」
「あれは、アーヴェル王国の、カイ・ヴァレントだ! 王弟殿下だぞ!」
オリバーは、頭が悪そうに見えて、実際あまり良くはないが、腐っても元王子。主要な王族の顔くらいは、頭に叩き込まれていた。
敵国の王子と、アイラが二人きりで会っている。
その事実が、オリバーの頭の中で、とんでもない妄想と結びついた。
「アイツ……敵国に、情報を売っているんじゃ……?」
隣で、ローズも息を呑んだ。二人の目に、同時に、ギラリと目に下品な光がちらついた。
そうだ。これは、チャンスだ。
アイラの弱みを握った。これを国王陛下――父上に報告すれば、大手柄になるかもしれない。そうすれば、俺たちの勘当も解かれるかもしれない!
「オリバー……!」
「ああ……! 見たか、ローズ! 天は俺たちを見捨ててはいなかった!」
二人は、もうリボンのことなどすっかり忘れ、互いの手を取り合って、興奮に打ち震えていた。憎きアイラを引きずり下ろし、自分たちが返り咲くための、最高の切り札。
そう、二人は信じて疑わなかった。
◇
彼らがそんな危うい計画に引き込まれながらも、心のどこかが高鳴っていた頃。私とカイ様は、まさにそのカフェのテラス席で、重い沈黙の中にいた。
カイ様から、密かに手紙が届いたのだ。
危険だと分かっていながら、私はその誘いを断ることができなかった。
人目を忍んで会った彼は、まだ顔に痛々しい傷跡を残していたけれど、その瞳は以前よりも強く、そして深く、私を見つめていた。
「アイラ嬢。いや……アイラ。まずは、私の身分を偽っていたことを、心から詫びたい」
彼は、テーブルの上で、深々と頭を下げた。
「我が国と君の国との間で、極秘の和平交渉が進んでいた。私はその役目を果たすための使者だった。身分を隠して滞在していたんだ。誰にも、正体を明かすことは許されなかった」
「……分かっています」
「だが、君に出会ってしまった。あの仮面舞踏会の夜から、私の心は、任務も、立場も、すべてが揺らいでしまったんだ。君に惹かれてはいけないと、自分に言い聞かせれば聞かせるほど、想いは募っていった。そして、あんな形で君を危険に晒してしまった……。私は、王弟としても、一人の男としても、失格だ」
どこか自分を責めるような彼の声に、胸の奥が締めつけられる思いがした。
違う。あなたは、失格なんかじゃない。あなたは、命を懸けて、私を守ってくれた。
「……いいえ」
私は、かすかに首を振って、それを否定した。
「あなたは、私を守ってくれました。私のために、傷ついてくれました。それだけで、充分です」
そして、私は、ずっと心の中で重荷になっていた言葉を、口にした。
「あなたと一緒にいるだけで、私は敵国の女になるのですね……」
それは、彼を責める言葉ではなかった。ただ、どうしようもなく悲しい、私たちの運命を嘆く言葉だった。私が公爵令嬢で、あなたが王弟である限り、この恋は決して祝福されない。
私の言葉に、カイ様は唇を強く噛み締めた。そして、何かを決意したように、顔を上げた。その透き通るような目が、あつい光をたたえて、まっすぐ私に向けられる。
「え? 誰よ、あの人。アイラの恋人? あなたより素敵だわ(顔面、強すぎ)」
「は? 俺のほうが100倍かっこいいわ」
「悪いけど、どう見てもあの人の勝ちでしょ(オリバー、ごめん、あの人ちょっと反則級なんだわ)」
「何言ってんだ、誰がどう見ても……(正直言って、あいつのほうがかっこよくね?)俺のほうがかっこいいに決まってんだろ!」
「……それで、あの人は誰なの?」
「あれは、アーヴェル王国の、カイ・ヴァレントだ! 王弟殿下だぞ!」
オリバーは、頭が悪そうに見えて、実際あまり良くはないが、腐っても元王子。主要な王族の顔くらいは、頭に叩き込まれていた。
敵国の王子と、アイラが二人きりで会っている。
その事実が、オリバーの頭の中で、とんでもない妄想と結びついた。
「アイツ……敵国に、情報を売っているんじゃ……?」
隣で、ローズも息を呑んだ。二人の目に、同時に、ギラリと目に下品な光がちらついた。
そうだ。これは、チャンスだ。
アイラの弱みを握った。これを国王陛下――父上に報告すれば、大手柄になるかもしれない。そうすれば、俺たちの勘当も解かれるかもしれない!
「オリバー……!」
「ああ……! 見たか、ローズ! 天は俺たちを見捨ててはいなかった!」
二人は、もうリボンのことなどすっかり忘れ、互いの手を取り合って、興奮に打ち震えていた。憎きアイラを引きずり下ろし、自分たちが返り咲くための、最高の切り札。
そう、二人は信じて疑わなかった。
◇
彼らがそんな危うい計画に引き込まれながらも、心のどこかが高鳴っていた頃。私とカイ様は、まさにそのカフェのテラス席で、重い沈黙の中にいた。
カイ様から、密かに手紙が届いたのだ。
危険だと分かっていながら、私はその誘いを断ることができなかった。
人目を忍んで会った彼は、まだ顔に痛々しい傷跡を残していたけれど、その瞳は以前よりも強く、そして深く、私を見つめていた。
「アイラ嬢。いや……アイラ。まずは、私の身分を偽っていたことを、心から詫びたい」
彼は、テーブルの上で、深々と頭を下げた。
「我が国と君の国との間で、極秘の和平交渉が進んでいた。私はその役目を果たすための使者だった。身分を隠して滞在していたんだ。誰にも、正体を明かすことは許されなかった」
「……分かっています」
「だが、君に出会ってしまった。あの仮面舞踏会の夜から、私の心は、任務も、立場も、すべてが揺らいでしまったんだ。君に惹かれてはいけないと、自分に言い聞かせれば聞かせるほど、想いは募っていった。そして、あんな形で君を危険に晒してしまった……。私は、王弟としても、一人の男としても、失格だ」
どこか自分を責めるような彼の声に、胸の奥が締めつけられる思いがした。
違う。あなたは、失格なんかじゃない。あなたは、命を懸けて、私を守ってくれた。
「……いいえ」
私は、かすかに首を振って、それを否定した。
「あなたは、私を守ってくれました。私のために、傷ついてくれました。それだけで、充分です」
そして、私は、ずっと心の中で重荷になっていた言葉を、口にした。
「あなたと一緒にいるだけで、私は敵国の女になるのですね……」
それは、彼を責める言葉ではなかった。ただ、どうしようもなく悲しい、私たちの運命を嘆く言葉だった。私が公爵令嬢で、あなたが王弟である限り、この恋は決して祝福されない。
私の言葉に、カイ様は唇を強く噛み締めた。そして、何かを決意したように、顔を上げた。その透き通るような目が、あつい光をたたえて、まっすぐ私に向けられる。
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