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第41話
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「ならば私は、すべてを捨てよう」
「え……?」
「王弟の立場も、未来も、この国との和平交渉の成功も。すべてを捨てて、ただのカイ・ヴァレントになる。そして、君の手を取る」
彼の言葉に、私は息を呑んだ。
すべてを、捨てる? そんなこと、できるはずがない。あなたは、あなたの国にとって、必要な人でしょう。
「だめです、そんなこと……」
「いいや、だめじゃない。私には、君が必要だ。君のいない未来など、私には何の価値もない。アイラ。私は、君を愛している」
初めてはっきりと告げられた愛の言葉。
彼の真剣な眼差しに、すべてをなげうつ覚悟に、私の心は激しく揺さぶられた。涙が、頬を伝ってこぼれ落ちる。
ああ、私もだ。私も、あなたを愛している。
この気持ちに嘘はつけない。もう、ごまかせない。
公爵令嬢としての責任? 国への忠誠? そんなもの、この燃えるような想いの前では、あまりにちっぽけに思えた。もし、この愛が罪だというのなら、その罪を、二人で背負っていこう。どんな茨の道が待っていようとも。
「……私も」
私は、涙で濡れた顔を上げて、彼を見つめ返した。
「私も、あなたと、共にいたい。カイ様」
私の答えを聞いて、彼はテーブル越しに、そっと私の手を握った。大きくて、温かい手。その温もりが、私の覚悟を、確かなものにしてくれた。
その裏で、オリバーとローズが王宮の門を叩き、父王への謁見を求めていたことなど、私たちは知る由もなかった。
◇
「どういうことだ、アイラ! 説明しろ!」
父の怒声が、雷鳴のように重厚な書斎に響き渡った。
分厚いマホガニーの机を叩く音に、私の肩がびくりと震える。窓の外では、まるでこの部屋の空気を映したかのように、黒い雲が空を覆い始めていた。
オリバーとローズは、あの後すぐに、嬉々として父王の元へ駆け込んだらしい。
『アイラ・フォン・バランシュナイルが、敵国アーヴェル王国の王弟カイ・ヴァレントと密会し、我が国の情報を漏洩している!』
と。
もちろん、情報漏洩なんて、天地神明に誓ってしていない。
でも、カフェで彼と二人きりで会っていたのは事実だ。彼が敵国の王弟であることも、紛れもない事実。言い逃れのしようがなかった。
国王陛下から直々に連絡を受けた父は、激怒し深く絶望していた。その灰色の瞳には、私への失望が色濃く浮かんでいる。
「お前は……この私が、どれほどの思いで、我が国とバランシュナイル家を守ってきたと思っている……! その歴史と誇りを、たかが男一人のために、すべてを台無しにする気か!」
「違います、お父様! 私は、国を裏切るようなことは、決して……」
「黙れ!」
父の冷酷な声が、胸の奥に冷たい影を落とした。
「敵国の王族と、素性を知った上で会っていた時点で、お前はすでに裏切り者だ! それがどういうことか、分かっているのか!」
分かっている。痛いほどに。
そうだ。その通りなのだ。
カイ様を好きになった瞬間から、私はもう、ただの公爵令嬢ではいられなくなった。バランシュナイル家の人間として、守るべき一線を、私はとっくに踏み越えてしまっていた。
彼の正体を知った時の、絶望。
すべてを捨てると言ってくれた彼の、覚悟。
そして、今、この胸を締め付ける、どうしようもないほどの愛おしさ。
それらすべてが、私を『裏切り者』へと変えてしまった。
もう、後戻りはできない。
たとえ、すべてを失うことになったとしても。この想いだけは、手放したくなかった。
私が、ぐっと唇を噛み締め、何かを言い返そうとした。その時だった。
書斎の重い扉が、まるで蹴破るかのように、乱暴に開かれた。
「失礼する!」
そこに立っていたのは、息を切らせた、カイ様だった。
いつもは完璧に整えられている漆黒の髪は乱れ、礼服の肩には、衛兵ともみ合ったのか、うっすらと砂ぼこりがついていた。彼がどれほど必死に、ここまで駆けつけてくれたのか、一目で分かった。
「え……?」
「王弟の立場も、未来も、この国との和平交渉の成功も。すべてを捨てて、ただのカイ・ヴァレントになる。そして、君の手を取る」
彼の言葉に、私は息を呑んだ。
すべてを、捨てる? そんなこと、できるはずがない。あなたは、あなたの国にとって、必要な人でしょう。
「だめです、そんなこと……」
「いいや、だめじゃない。私には、君が必要だ。君のいない未来など、私には何の価値もない。アイラ。私は、君を愛している」
初めてはっきりと告げられた愛の言葉。
彼の真剣な眼差しに、すべてをなげうつ覚悟に、私の心は激しく揺さぶられた。涙が、頬を伝ってこぼれ落ちる。
ああ、私もだ。私も、あなたを愛している。
この気持ちに嘘はつけない。もう、ごまかせない。
公爵令嬢としての責任? 国への忠誠? そんなもの、この燃えるような想いの前では、あまりにちっぽけに思えた。もし、この愛が罪だというのなら、その罪を、二人で背負っていこう。どんな茨の道が待っていようとも。
「……私も」
私は、涙で濡れた顔を上げて、彼を見つめ返した。
「私も、あなたと、共にいたい。カイ様」
私の答えを聞いて、彼はテーブル越しに、そっと私の手を握った。大きくて、温かい手。その温もりが、私の覚悟を、確かなものにしてくれた。
その裏で、オリバーとローズが王宮の門を叩き、父王への謁見を求めていたことなど、私たちは知る由もなかった。
◇
「どういうことだ、アイラ! 説明しろ!」
父の怒声が、雷鳴のように重厚な書斎に響き渡った。
分厚いマホガニーの机を叩く音に、私の肩がびくりと震える。窓の外では、まるでこの部屋の空気を映したかのように、黒い雲が空を覆い始めていた。
オリバーとローズは、あの後すぐに、嬉々として父王の元へ駆け込んだらしい。
『アイラ・フォン・バランシュナイルが、敵国アーヴェル王国の王弟カイ・ヴァレントと密会し、我が国の情報を漏洩している!』
と。
もちろん、情報漏洩なんて、天地神明に誓ってしていない。
でも、カフェで彼と二人きりで会っていたのは事実だ。彼が敵国の王弟であることも、紛れもない事実。言い逃れのしようがなかった。
国王陛下から直々に連絡を受けた父は、激怒し深く絶望していた。その灰色の瞳には、私への失望が色濃く浮かんでいる。
「お前は……この私が、どれほどの思いで、我が国とバランシュナイル家を守ってきたと思っている……! その歴史と誇りを、たかが男一人のために、すべてを台無しにする気か!」
「違います、お父様! 私は、国を裏切るようなことは、決して……」
「黙れ!」
父の冷酷な声が、胸の奥に冷たい影を落とした。
「敵国の王族と、素性を知った上で会っていた時点で、お前はすでに裏切り者だ! それがどういうことか、分かっているのか!」
分かっている。痛いほどに。
そうだ。その通りなのだ。
カイ様を好きになった瞬間から、私はもう、ただの公爵令嬢ではいられなくなった。バランシュナイル家の人間として、守るべき一線を、私はとっくに踏み越えてしまっていた。
彼の正体を知った時の、絶望。
すべてを捨てると言ってくれた彼の、覚悟。
そして、今、この胸を締め付ける、どうしようもないほどの愛おしさ。
それらすべてが、私を『裏切り者』へと変えてしまった。
もう、後戻りはできない。
たとえ、すべてを失うことになったとしても。この想いだけは、手放したくなかった。
私が、ぐっと唇を噛み締め、何かを言い返そうとした。その時だった。
書斎の重い扉が、まるで蹴破るかのように、乱暴に開かれた。
「失礼する!」
そこに立っていたのは、息を切らせた、カイ様だった。
いつもは完璧に整えられている漆黒の髪は乱れ、礼服の肩には、衛兵ともみ合ったのか、うっすらと砂ぼこりがついていた。彼がどれほど必死に、ここまで駆けつけてくれたのか、一目で分かった。
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