幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈

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第43話

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「……宰相閣下。これは、一体……」
「バランシュナイル公爵、突然の訪問、失礼する。陛下より、急ぎ言伝を預かって参った」

宰相閣下は、私たち三人を順に見渡し、そして、気品と風格を漂わせながら口を開いた。

「まず、アーヴェル王国のカイ殿下。貴殿が我が国との和平交渉に見事な手腕を発揮されたこと、陛下は深く感謝しておられる。先日、両国の間で、歴史的な和平条約が正式に締結された。これもひとえに、殿下のご尽力の賜物。心より、祝辞を申し上げる」

……和平、条約? 締結?
私と父は、顔を見合わせた。初耳だった。極秘に進められていた交渉が、すでに実を結んでいたなんて。

「そして、バランシュナイル公爵令嬢、アイラ嬢」

宰相閣下の視線が、私に向けられる。私は、ごくりと喉を鳴らした。

「アイラ嬢が、我が国を裏切るような真似をするはずがない、と陛下は仰せである。予は、長年にわたるバランシュナイル公爵家の忠誠を、微塵も疑ってはいない、と」

「……陛下」

父が、呆然と呟いた。
宰相閣下は、そこで一度言葉を切ると、深いため息をついた。

「しかしながら、我が愚息オリバーが、己の復権という浅はかな欲望のために、虚偽の報告を上げて両国の友好関係に水を差そうとしたこと、まことに遺憾の極み。バランシュナイル公爵、並びにカイ殿下には、国王として、そして父親として、深く陳謝する、と……陛下は、そう仰せだ」

え……?
虚偽の、報告……?
つまり、国王陛下は、オリバーたちの告発を、初めから信じてなどいなかった……?

「オリバーと、連れの男爵令嬢ローズについては、王都からの永久追放を命じた。二度と、王宮の敷居を跨ぐことは許されぬ。彼らの身柄は、現在、王宮にて預かっている」

王都追放。
それは、事実上の社会的な死を意味する。
アイラの弱みを握ったと、嬉々としていた二人の顔が脳裏に浮かんだ。彼らが望んだのは、本当にこんな結末だったのだろうか。

物置部屋で、喧嘩しながらも寄り添って生きていた二人の姿を思い出す。やり方は、あまりにも愚かで間違っていたけれど……。その根底にあったのは、ただ、もう一度、陽の当たる場所に戻りたいという、必死の願いだったのかもしれない。

すべての誤解が解け、真実が明らかになる。
まるで、悪夢から覚めたかのようだった。
父は、宰相閣下の言葉を、ただ茫然と聞いていたが、やがて、その肩からふっと力が抜けた。

そして、私とカイ様を、もう一度見た。その瞳には、もう怒りの色はなかった。ただ、底知れぬ疲労が、全身を重く支配していた。そして、ほんの少しの諦めのようなものが浮かんでいた。

「……まったく、仕方ない娘だ」

父は、ぽつりと、そう呟いた。
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