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第48話
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「裏切りは、突然発覚した。我が国の機密情報が、ことごとく帝国側に漏れていたんだ。調査の結果、情報源は私の執務室からだと特定された。そして……彼女の部屋から、暗号化された手紙が見つかった」
その時の衝撃は、想像を絶するものだっただろう。愛する人に、信じていた人に、根底から裏切られる痛み。
「私は、信じられなかった。何かの間違いだと思いたかった。彼女を問い詰めても、彼女はただ『ごめんなさい』と繰り返すだけだった。……それでも、私は、最後まで信じたかった。彼女のどこかに、“本当の愛”があったと――そう思いたかったんだ」
「彼女が流した涙は、本当に演技だったのか。私に見せてくれた笑顔は、すべて偽りだったのか。私を愛していると言った言葉は、任務を遂行するための嘘だったのか?」
「彼女の瞳の奥に、ほんの少しでも真実が隠されているのではないかと……最後まで、探してしまった。なんとも皮肉な話だ」
カイ様の告白は、彼の心に刻まれた深い絶望と、それでも捨てきれなかったかすかな望みを、あまりにも生々しく私に伝えてきた。彼女は結局、国外追放となり、婚約は白紙に戻された。公には『両国の意見の相違』と発表されたが、彼の心には、決して癒えることのない傷が残った。
アイラは、何も言えなかった。
どんな言葉をかければいいのか、分からなかったからだ。安易な同情は、逆に彼を傷つけてしまうだろう。
だから私は、ただ静かに彼の横に座り、そっとその手に自分の手を重ねた。彼の指先は、氷のように冷たかった。
私の体温が伝わるように、ぎゅっと力を込める。カイ様は、驚いたように私を見た。その瞳が、心の波を映すように揺れ動いていた。
「あなたが、そんなふうに誰かを信じたこと、わたしは……誇りに思うわ」
絞り出したのは、そんな言葉だった。
「人を信じることは、とても勇気がいること。たとえ、その結果が悲しいものであったとしても、誰かを心の底から信じようとしたあなたのその心は、とても尊くて、美しいものだと私は思う。だから、自分を責めないで」
カイ様の瞳から、ぽろ、と一筋の涙がこぼれ落ちた。それは、長い間ずっと心の中に閉じ込めていた痛みが、ようやく溶け出したかのような涙だった。
「……アイラ」
「でも、今は、私を見て」
私は、重ねた手にさらに力を込める。彼に、私の覚悟が伝わるように。
「私は、あなたを裏切らない。絶対に。あなたの過去の傷を、私がすべて癒すなんておこがましいことは言えないわ。でも、これからの未来は、私があなたの隣で、あなたを笑顔にしてみせる。だから、もう過去に囚われないで。今の、私だけを見て」
彼は、ゆっくりと私の手を握り返してくれた。その力は、さっきまでの弱々しいものではなく、確かな強さを伴っていた。冷え切っていた指先に、少しずつ温もりが戻ってくる。
「ありがとう……アイラ。君は、本当に強い人だ。私は……君のその強さに、何度も救われている」
カイ様は、空いている方の手で私の頬に触れた。その指先は、まだ少し震えている。
「私は、もう過去には戻らない。戻りたくないんだ。君の言う通りだ。今、私の隣にいるのは――君だけだ」
その言葉は、私にとって何よりの救いだった。彼の過去を知って、嫉妬しなかったと言えば嘘になる。でも、それ以上に、彼の傷を理解し、彼と共に未来を歩みたいという気持ちが勝っていた。
そして、ふたりはどちらからともなく肩を寄せ合いながら、静かな夜の風に身をゆだねた。暖炉の炎が、私たちの影を一つに結んで、優しく揺らしていた。もう大丈夫。この人となら、どんな過去も乗り越えていける。そう、確信できる夜だった。
その時の衝撃は、想像を絶するものだっただろう。愛する人に、信じていた人に、根底から裏切られる痛み。
「私は、信じられなかった。何かの間違いだと思いたかった。彼女を問い詰めても、彼女はただ『ごめんなさい』と繰り返すだけだった。……それでも、私は、最後まで信じたかった。彼女のどこかに、“本当の愛”があったと――そう思いたかったんだ」
「彼女が流した涙は、本当に演技だったのか。私に見せてくれた笑顔は、すべて偽りだったのか。私を愛していると言った言葉は、任務を遂行するための嘘だったのか?」
「彼女の瞳の奥に、ほんの少しでも真実が隠されているのではないかと……最後まで、探してしまった。なんとも皮肉な話だ」
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アイラは、何も言えなかった。
どんな言葉をかければいいのか、分からなかったからだ。安易な同情は、逆に彼を傷つけてしまうだろう。
だから私は、ただ静かに彼の横に座り、そっとその手に自分の手を重ねた。彼の指先は、氷のように冷たかった。
私の体温が伝わるように、ぎゅっと力を込める。カイ様は、驚いたように私を見た。その瞳が、心の波を映すように揺れ動いていた。
「あなたが、そんなふうに誰かを信じたこと、わたしは……誇りに思うわ」
絞り出したのは、そんな言葉だった。
「人を信じることは、とても勇気がいること。たとえ、その結果が悲しいものであったとしても、誰かを心の底から信じようとしたあなたのその心は、とても尊くて、美しいものだと私は思う。だから、自分を責めないで」
カイ様の瞳から、ぽろ、と一筋の涙がこぼれ落ちた。それは、長い間ずっと心の中に閉じ込めていた痛みが、ようやく溶け出したかのような涙だった。
「……アイラ」
「でも、今は、私を見て」
私は、重ねた手にさらに力を込める。彼に、私の覚悟が伝わるように。
「私は、あなたを裏切らない。絶対に。あなたの過去の傷を、私がすべて癒すなんておこがましいことは言えないわ。でも、これからの未来は、私があなたの隣で、あなたを笑顔にしてみせる。だから、もう過去に囚われないで。今の、私だけを見て」
彼は、ゆっくりと私の手を握り返してくれた。その力は、さっきまでの弱々しいものではなく、確かな強さを伴っていた。冷え切っていた指先に、少しずつ温もりが戻ってくる。
「ありがとう……アイラ。君は、本当に強い人だ。私は……君のその強さに、何度も救われている」
カイ様は、空いている方の手で私の頬に触れた。その指先は、まだ少し震えている。
「私は、もう過去には戻らない。戻りたくないんだ。君の言う通りだ。今、私の隣にいるのは――君だけだ」
その言葉は、私にとって何よりの救いだった。彼の過去を知って、嫉妬しなかったと言えば嘘になる。でも、それ以上に、彼の傷を理解し、彼と共に未来を歩みたいという気持ちが勝っていた。
そして、ふたりはどちらからともなく肩を寄せ合いながら、静かな夜の風に身をゆだねた。暖炉の炎が、私たちの影を一つに結んで、優しく揺らしていた。もう大丈夫。この人となら、どんな過去も乗り越えていける。そう、確信できる夜だった。
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