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第54話
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私たちは、窓際の大きな閲覧机に向かい合って座り、それぞれの本を開く。静かな時間が流れる。ページをめくる音と、私たちの微かな息遣いだけが響く空間。
私は本に集中しようとするけれど、どうしてもカイ様の視線が気になってしまう。彼はずっと、本を読んでいる私の横顔を、愛おしそうに見つめているのだ。
(ああ、もう! これじゃあ内容が全然頭に入ってこないじゃない!)
しばらくして、私はついに根負けして、こくりこくりと居眠りをし始めた……ふりをした。そして、ことり、と彼の肩に頭を預けて、すーすーと寝息を立てる……ふりをする。
これは、昨夜カイ様と打ち合わせた作戦の一つだ。名付けて、“無防備な寝顔にキュンとさせちゃえ作戦”……ネーミングセンスがないのは、自分でも分かってる。
カイ様は、最初少し驚いたように身じろぎしたけれど、すぐに私の意図を察してくれたようだった。彼は、私の頭が落ちないように、そっと自分の肩を寄せてくれる。そして、読んでいた本を静かに閉じると、私を起こさないように、優しく私の髪を撫で始めた。
その手つきは、本当に慈しみに満ちていて、私はふりのつもりが、本当にうとうとと眠ってしまいそうになる。
「……本当に、敵わないな、君には」
カイ様が、小さな声でそう呟いたのが聞こえた。
その時、書棚の影で、パタン、と小さな物音がした。誰かが、読んでいた本を落とした音だ。音のした方に、カイ様が鋭い視線を送る。そこには、息を呑んで立ち尽くすリディアの姿があった。彼女は、私たちのあまりにも親密な様子を見て、顔を真っ青にしている。
彼女は、カイ様と視線が合うと、何かを言おうとして唇を震わせたが、結局何も言えずに、逃げるようにして図書室から出て行ってしまった。
残されたのは、静寂と、床に落ちたままの本。そして、私の肩に触れるカイ様の温かい手の感触だけだった。
「……カイ様、これで、諦めてくれるでしょうか」
私は、ゆっくりと顔を上げて尋ねた。
「さあな。だが、少なくとも、彼女の心にさざ波を立てることはできただろう」
カイ様は、私の髪を撫でながら、静かにそう言った。その瞳には、勝利の確信よりも、むしろ、これから訪れるであろう嵐の予兆を感じさせるような、複雑な色合いが浮かび上がっていた。
そして、彼の予感は、的中することになる。
私たちの甘い“おままごと”は、もっと手強く、そして危険な恋の戦いの序章に過ぎなかったのだから。
その夜、私の部屋に、一通の手紙が届けられた。
差出人の名前は、ない。
でも、その流れるような美しい筆跡を見ただけで、誰からのものかすぐに分かった。
『今夜、時計塔の下で待っています。二人きりで、お話したいことがありますわ。カイには、内緒でいらして。これは、女同士の本当の話なのだから』
手紙を持つ手が、震える。
これは、罠だ。分かっている。それでも、行かなければならない。彼女から、逃げるわけにはいかないから。
私は、手紙を強く握りしめた。
私は本に集中しようとするけれど、どうしてもカイ様の視線が気になってしまう。彼はずっと、本を読んでいる私の横顔を、愛おしそうに見つめているのだ。
(ああ、もう! これじゃあ内容が全然頭に入ってこないじゃない!)
しばらくして、私はついに根負けして、こくりこくりと居眠りをし始めた……ふりをした。そして、ことり、と彼の肩に頭を預けて、すーすーと寝息を立てる……ふりをする。
これは、昨夜カイ様と打ち合わせた作戦の一つだ。名付けて、“無防備な寝顔にキュンとさせちゃえ作戦”……ネーミングセンスがないのは、自分でも分かってる。
カイ様は、最初少し驚いたように身じろぎしたけれど、すぐに私の意図を察してくれたようだった。彼は、私の頭が落ちないように、そっと自分の肩を寄せてくれる。そして、読んでいた本を静かに閉じると、私を起こさないように、優しく私の髪を撫で始めた。
その手つきは、本当に慈しみに満ちていて、私はふりのつもりが、本当にうとうとと眠ってしまいそうになる。
「……本当に、敵わないな、君には」
カイ様が、小さな声でそう呟いたのが聞こえた。
その時、書棚の影で、パタン、と小さな物音がした。誰かが、読んでいた本を落とした音だ。音のした方に、カイ様が鋭い視線を送る。そこには、息を呑んで立ち尽くすリディアの姿があった。彼女は、私たちのあまりにも親密な様子を見て、顔を真っ青にしている。
彼女は、カイ様と視線が合うと、何かを言おうとして唇を震わせたが、結局何も言えずに、逃げるようにして図書室から出て行ってしまった。
残されたのは、静寂と、床に落ちたままの本。そして、私の肩に触れるカイ様の温かい手の感触だけだった。
「……カイ様、これで、諦めてくれるでしょうか」
私は、ゆっくりと顔を上げて尋ねた。
「さあな。だが、少なくとも、彼女の心にさざ波を立てることはできただろう」
カイ様は、私の髪を撫でながら、静かにそう言った。その瞳には、勝利の確信よりも、むしろ、これから訪れるであろう嵐の予兆を感じさせるような、複雑な色合いが浮かび上がっていた。
そして、彼の予感は、的中することになる。
私たちの甘い“おままごと”は、もっと手強く、そして危険な恋の戦いの序章に過ぎなかったのだから。
その夜、私の部屋に、一通の手紙が届けられた。
差出人の名前は、ない。
でも、その流れるような美しい筆跡を見ただけで、誰からのものかすぐに分かった。
『今夜、時計塔の下で待っています。二人きりで、お話したいことがありますわ。カイには、内緒でいらして。これは、女同士の本当の話なのだから』
手紙を持つ手が、震える。
これは、罠だ。分かっている。それでも、行かなければならない。彼女から、逃げるわけにはいかないから。
私は、手紙を強く握りしめた。
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