幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈

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第76話

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カイ様と私がようやく落ち着いて会話を交わせるはずだった特別なひとときに、また彼が入り込んできたのだと思うと、胸の奥にかすかな緊張が走るのを感じた。

「君たち、こんな素敵な夜を過ごしているのか。素晴らしいことだ。だが、私が一つ、真理を教えてやろう。恋愛において、油断と慢心が、一番の敵なのだと」

その言葉は、明らかに、私たちに向けられたものだった。

「兄上、黙ってろ!!!!」

ついに、カイ様の我慢の限界が訪れた。彼は、テーブルを叩きつけるような勢いで立ち上がり、その瞬間、周囲の客たちは驚き、私たちに一斉に視線を向けた。

「どうして……どうして、こんなことをなさるのですか……」

私の声は、恐怖と悲しみで震えていた。楽しいはずの夜が、まるで夢のように壊れていくのが感じられた。私の震える声を耳にしたルーカス陛下は、彼の余裕のある表情が初めて少し崩れ、ほんの一瞬、瞳がわずかに細くなった。

「おっと、怖がらせてしまったかな。それはすまない。君を困らせるつもりは、毛頭ないんだよ、アイラ嬢」

彼は、そう言うと、手にしたワイングラスをゆっくりと傾け、その金色の瞳でじっと私を見つめ続けた。その視線は、私の全てを見透かすように感じられた。

「ただ……俺の可愛い弟が、これほどまでに大切に思っているものを、彼が、一体どう扱うのか。どう守るのか。それを、少しばかり、この目で見ておきたかっただけなのさ」

「……っ!」

すべてがカイ様を試すための壮大な芝居だったかのように感じられた。だが、どんなに考えても、この人の真意は掴めない。彼の心の奥底で何を思い、何を求めているのか、全く見当がつかないのだ。

カイ様は、怒りに肩を震わせながらも、何も言い返すことができなかった。その姿は、怒りを抑えきれずに葛藤しているようで、どこか切なささえ感じさせるものだった。ルーカス陛下は、満足そうに頷きながら、冷静に言葉を続けた。

「では、邪魔者は退散するとしよう。良い夜を。」

そう言い残すと、何事もなかったかのように静かにその場を去っていった。

(どうして、あんなことを言うの? 彼は、カイ様を試しているの? それとも、ただ、私たちの仲を引き裂きたいだけ……?)

レストランの中は、気まずい沈黙に包まれていた。私の食欲はすっかり失われ、もう食事を続ける気にはなれなかった。口を開くこともできず、ただ無言でその沈黙を耐え忍ぶしかなかった。

部屋に戻った後、私は思い切ってカイ様に尋ねることにした。心の中で何度も問いかけた言葉をようやく口にした。何も言わずにいるわけにはいかず、すべての疑問を解決するために、私は彼を見つめながら静かに尋ねた。

「カイ様……お兄様は、一体、何を考えていらっしゃるのでしょうか」

私の問いに、カイ様は、苦しげに首を横に振った。

「……俺にも、分からないんだ。昔から、兄上の考えていることは、時々、謎すぎることがある。優しく、民からの信頼も厚い、完璧な人だ。だが、その心の奥底に、何を隠しているのか……弟の俺でさえ、完全には理解できない」

カイ様でさえ、その真意が分からないという事実は、私の心を一層重くさせた。今まで私たちが戦ってきたどんな敵よりも、ルーカス陛下という存在は遥かに厄介で、得体のしれないものに思えた。

彼の背後には、計り知れない深い闇が広がっているのかもしれない。私たちの力では到底測りきれないような、恐ろしいものを抱えているのだろうと、今はただ感じるばかりだった。
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