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第11話
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喉の渇きを感じてまともに話せそうにないローサに、リチャードは飲み水を入れた容器を渡すと、勢いよく手を伸ばして取って一気に口に流しこんだ。
だが渇きが収まった後に、猛烈な空腹に苦しめられた。ローサは、これ以上逆らっても無駄で、自分の風向きが悪くなるだけだと思い下手に出ることにする。
「私が悪かったからリチャード許して……」
「やっと素直になったね」
素直な気持ちが一番大事、そう褒められても返事の仕様がない。ローサは心の中で激しい怒りが過ぎるのを待つように、じっと我慢した。
「そちらの方は?」
そして無理に笑顔を作って、リチャードの隣にいる女性のことを重ねて問いかける。
「彼女はイライザ、僕の幼馴染で本当に愛している人だよ」
「私を騙したの!」
名前はイライザという子爵家に生まれたリチャードの幼馴染の女性。自分の全ての愛情を注ぎ続けている人だと答える。
思いもよらない返答に、ローサの心は耐えられなくて苛立ちのあまり声を荒げた。好き放題に暴れたい心境だ。
「そうだよ。僕は最初からローサのことなんか愛していない」
「それならどうして私と結婚したの?」
元から好きじゃなかったと言い、軽蔑的な視線を隠そうともしない。結婚なんかする意志は無かったとまで言った。それなら何故自分と結婚したのか? ローサは必死に訴えかける。
「公爵家の娘と縁組みしろとお父様にお願いされたから、そうすればイライザと一緒に暮らせる約束をしてくれたんだ」
「人でなし野郎!」
親の言いなりに結婚するなんて考えられない。自由奔放に生きているローサには信じられなかった。
それでも公爵家の令嬢なので、ローサもそのくらいのことは理解している。自分と結婚すれば大きな権力を得ることが出来る。だけどリチャードは、そんな品性に欠ける男ではないと信頼していた。
今となっては遅いが、こんな男の口車に乗せられて家に嫁いだのが悔やまれる。ローサは上級貴族らしからぬ暴言を浴びせた。
「ご自分の悲惨な状況をお分かりですか?」
これまでずっと黙っていたイライザが、突然流れるような口調で語り出した。その瞬間ローサは唇を結んでキッと不服そうに睨んだ。
イライザは、そんなことお構いなしの顔で、口もとに意地悪そうな微笑を浮かべながら、さも自分のほうが有利な立場にあると言いたげである。
「ローサ言っておくけど、君に選択権はないからね。このまま牢屋にいるか、屋敷の使用人として働くかどっちがいい?」
リチャードは、ごく当たり前のことのように生真面目な口調で問いかけてくる。やむを得ず、この地下からの解放を選んだローサは、これから召使い同様のわびしい生活が始まるのだった。
(お姉様、ごめんなさい。こんなにも愚かで、情けない妹で……)
姉は正しかった。それを思い知ったときには、すでに選べる道など残されていなかった。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
この物語を、皆さまと共有できたことが何よりの幸せです。
またどこかの物語でお会いできますように。
だが渇きが収まった後に、猛烈な空腹に苦しめられた。ローサは、これ以上逆らっても無駄で、自分の風向きが悪くなるだけだと思い下手に出ることにする。
「私が悪かったからリチャード許して……」
「やっと素直になったね」
素直な気持ちが一番大事、そう褒められても返事の仕様がない。ローサは心の中で激しい怒りが過ぎるのを待つように、じっと我慢した。
「そちらの方は?」
そして無理に笑顔を作って、リチャードの隣にいる女性のことを重ねて問いかける。
「彼女はイライザ、僕の幼馴染で本当に愛している人だよ」
「私を騙したの!」
名前はイライザという子爵家に生まれたリチャードの幼馴染の女性。自分の全ての愛情を注ぎ続けている人だと答える。
思いもよらない返答に、ローサの心は耐えられなくて苛立ちのあまり声を荒げた。好き放題に暴れたい心境だ。
「そうだよ。僕は最初からローサのことなんか愛していない」
「それならどうして私と結婚したの?」
元から好きじゃなかったと言い、軽蔑的な視線を隠そうともしない。結婚なんかする意志は無かったとまで言った。それなら何故自分と結婚したのか? ローサは必死に訴えかける。
「公爵家の娘と縁組みしろとお父様にお願いされたから、そうすればイライザと一緒に暮らせる約束をしてくれたんだ」
「人でなし野郎!」
親の言いなりに結婚するなんて考えられない。自由奔放に生きているローサには信じられなかった。
それでも公爵家の令嬢なので、ローサもそのくらいのことは理解している。自分と結婚すれば大きな権力を得ることが出来る。だけどリチャードは、そんな品性に欠ける男ではないと信頼していた。
今となっては遅いが、こんな男の口車に乗せられて家に嫁いだのが悔やまれる。ローサは上級貴族らしからぬ暴言を浴びせた。
「ご自分の悲惨な状況をお分かりですか?」
これまでずっと黙っていたイライザが、突然流れるような口調で語り出した。その瞬間ローサは唇を結んでキッと不服そうに睨んだ。
イライザは、そんなことお構いなしの顔で、口もとに意地悪そうな微笑を浮かべながら、さも自分のほうが有利な立場にあると言いたげである。
「ローサ言っておくけど、君に選択権はないからね。このまま牢屋にいるか、屋敷の使用人として働くかどっちがいい?」
リチャードは、ごく当たり前のことのように生真面目な口調で問いかけてくる。やむを得ず、この地下からの解放を選んだローサは、これから召使い同様のわびしい生活が始まるのだった。
(お姉様、ごめんなさい。こんなにも愚かで、情けない妹で……)
姉は正しかった。それを思い知ったときには、すでに選べる道など残されていなかった。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
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またどこかの物語でお会いできますように。
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