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第38話

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「セリーヌ様、貴族だとは知らず申し訳ございません。いつも礼儀知らずで言葉が悪くて……」
「社長、どうか教養のない私たちを許してください!」

急に土下座したアルバートとルーカスは、今にも泣きそうな顔で怯えで瞳が揺れている。セリーヌには、それが命乞いの言葉のように聞こえました。どうしたと言うのか?セリーヌは二人の事を行儀が悪いなど思ったことも一切ないと言うのに……。それに先ほどまでセリーヌと呼んでいたのに、かしこまってセリーヌ様と呼ぶルーカスに不思議な違和感を覚えた。

どうして兄弟がそんな態度をとりはじめたかと言うと、二人の生まれ育ったこの国はが徹底しており、平民が貴族の機嫌を損ねたり軽んじたりするようなら、貴族の気分次第で即刻処刑される危険を秘めている。この国で絶対的な権力と支配力を維持している貴族たちは威張り散らしているのだった。

セリーヌはこの国で貴族と顔をあわせる機会が全然ないままに時が過ぎたので、この国の状況が正確にわからなかった。この国の貴族たちは庶民を見下すことを好んでいるので、平民は強い反感意識を持っているが正面切って逆らう事は恐怖で出来なくて耐えていた。

「どうしたの二人とも?椅子に座って普通に話しましょ?」

公爵令嬢という貴族の中の階級で最上位の層だとセリーヌの身分を知った兄弟は、さっと顔いろが青ざめた。アルバートはこれまでの間セリーヌの事を他国でも商売をしている才能に恵まれた女性だと思っていましたが、まさか貴族だとも本心では思いませんでした。

彼女が裕福な家庭で生まれたであろうことは、洗練された振る舞いで何となくわかっていました。それでも親は様々な国を相手にする貿易商人の娘くらいだと考えていたのだ。セリーヌは困ったような様子で目の前にひれ伏している二人を見つめながら言った。

「……私たちをひどい目にあわせることはしませんか?」

アルバートはふと顔を上げると心配そうに口を開いた。彼はセリーヌが明るく気さくな人柄だということは充分にわかっていますが、やはり貴族だという事を知ると怖くて小刻みに震えているのを止めることはできない。

それは心理的なみたいなものだった。貴族の冷酷な仕打ちに平民が苦しんでいることを長年に渡り見てきて脳裏に焼きついているのだから仕方ない事なのだ。

「私がそんな事するわけないでしょ?あなた達の事は店の従業員として大切にしてきたわ」
「そうですよね。無償で回復魔法で弟の足を治してくださいました社長の優しさは存じています。ですが貴族だと知ればこの国の平民は私たちの反応が普通なのです」

不安そうな表情に眉をひそめている二人に対して、お日さまに照らされたような笑顔でいつもより柔らかい口調になって話した。そうしてセリーヌは今まで気がつかなかった国の闇の部分を聞かされるのだった。
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