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第37話

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「――まさか社長がヴァレンティノ王国の出身だったとは驚きました」

セリーヌから詳しく話を聞いたアルバートは、口を開いて神妙な面持ちで見つめていた。初めて聞いて驚いた理由はヴァレンティノ王国はここから何百里ひゃくりも離れたところなので、新聞を読んで崩壊したことが分かっても遥か遠い世界での出来事だと思っていた。

セリーヌはこんな遠い国に来て精霊のレストランを経営して、他国でも製糖業など事業主として様々な事を行い富を得ている。その事がいまいちに落ちなくて尋ねたら、転移魔法という瞬間移動の能力を身につけていると答えた。弟の失った足を回復させるほどの治癒魔法まで使えて、彼女は移動魔法まで使えるのかと信じられないといった表情で呆然とする。

「凄すぎるよ。なんて人だ……」

目の前にいるセリーヌという女性は、予想をはるかに上回る人物だった。ルーカスは見開いた瞳に驚きの色を浮かべて言葉を発した。寝ても起きてもいつもセリーヌの事を考えているルーカスは、大恩を受けた身でもあるし好きな人が真に尊敬すべき人でもあって心から無上の喜びを感じられる。

兄弟二人はセリーヌの事を愛していて友達以上の関係になりたいと思っているが、次のセリーヌの話しでその恋もはかなく消えてしまいそうで切なくなった。

「世界でもひと握りの人しか出来ないような回復魔法に移動魔法をやすやす使いこなす能力。社長は一体何者なのですか?」

アルバートはうっかり言ってしまう。以前に弟ルーカスの足を治療できると言われた時に、セリーヌの本当の顔が知りたくなってあなた様はどなた様でしょうか?と聞いたことがあった。だけどそれ以上深く追及することをしなかった。正体が誰であれ弟の足を治すと言ってくれた彼女に感謝いたしますと引き下がり、言いたくなったら話してくださいと回答した。

「実は私はヴァレンティノ王国の公爵令嬢なの」
「え!?」

アルバートとルーカスは思わずハモるように同時に声を出した。セリーヌという女性の正体は新聞の記事に書いてあった事実上崩壊してしまった国の公爵令嬢という屈指のであると告白したのだ。

色が白く上品な顔立ちで強い魅力的な女性だと常々感じていた。まさかという思いで息が詰まったような顔に変わり、兄弟は座っている椅子から立ち上がるとそのまま床に両手をついて土下座のような姿勢をとった。

「ちょっと二人とも突然なにしてるの?立ちなさい!」

セリーヌは戸惑うばかりだった。この前ルーカスの足を完治した後と同じような行動をとりはじめた。いや、それ以上にひたすら恐縮しているように見受けられます。セリーヌが注意を促す発言をしても表情が強ばって慌てて視線をそらしてしまった。
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