好きじゃない人と結婚した「愛がなくても幸せになれると知った」プロポーズは「君は家にいるだけで何もしなくてもいい」

ぱんだ

文字の大きさ
14 / 16

第14話

しおりを挟む
「ん……」

アイラは、眠りの底からゆっくりと意識を浮上させた。夜の静けさの中、ふと尿意を感じて目を覚ます。

「あれ?」

隣にいるはずの温もりがない。

「ロバート様?」

寝ぼけ眼をこすりながら、空になったベッドの右側を見つめた。いつもなら、穏やかな寝息を立てているはずの夫、ロバートの姿がない。

(お手洗い、かな?)

そう思った。夜中に目が覚めて、トイレに行くのはよくあることだ。特に気に留めることなく、アイラもベッドから起き上がり寝室を出た。

しかし、廊下を歩いても、ロバートの姿は見当たらない。時計を見れば、深夜の二時を回っている。

(こんな時間に、一体どこへ?)

かすかな不安が胸をよぎる。まさか、何かあったのだろうか。しかし、特に物音も聞こえなかったし……。

(まあ、すぐに戻ってくるでしょう)

そう自分に言い聞かせ、アイラは一人でトイレを済ませ再び寝室へと戻った。しかし、ベッドに戻ってもロバートの気配はなかった。

(遅いな……)

そう思いながらもアイラは再び眠りについた。

朝、眩しい光が窓から差し込み、アイラは目を覚ました。隣には、昨夜いなかったはずのロバートが、静かに眠っている。

「!」

アイラは、そこで強烈な違和感を覚えた。昨夜、自分が寝る時にはいなかったのに、いつの間に戻ってきたのだろう? 全く気づかなかった。

訝しみながらもアイラは身を起こし、何気なくロバートの方を見た。そして、息を呑んだ。

「……っ!」

よく見ると、ロバートの首筋に、くっきりと赤い痕が残っている。それは、紛れもなくキスマークだった。

(キスマーク……?)

アイラの心臓が跳ねた。結婚してからというもの、ロバートは一度もアイラに触れたことがない。抱きしめられることも、ましてやキスをされることもなかった。

ロバートは、思いやりのある声で話しかけてくれる。それだけで満足していた。アイラ自身もロバートに愛情を抱いているわけではなかったし、体の関係を求められることもなかったが不満はなかった。むしろ、その淡々とした関係が、アイラにとっては心地よかったのだ。

(私がつけたはずがない……)

混乱が、アイラの頭の中を渦巻く。一体、誰が? いつ? 昨夜、ロバートはどこで何をしていたというのだろうか?

「……おはようございます、ロバート様」

平静を装い、アイラは声をかけた。

「……ああ、おはよう、アイラ」

ロバートは、少し寝不足そうな顔で目を覚ました。首筋の赤い痕を隠すように、無意識にかもしれないが襟元を少し上げた。

(やはり、何かあったんだわ)

アイラは、そう確信した。しかし、それを問い詰める勇気はアイラにはなかった。それをしたら、公爵家での平穏な生活が、壊れてしまいそうな気がしたからだ。

(私は、別に関係ないことだ。ロバート様を愛して結婚したわけじゃないし……)

そう思う一方で胸の奥には、ざわめきが確かに存在していた。それは好奇心なのか、それとも……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄だ」と叫ぶ殿下、国の実務は私ですが大丈夫ですか?〜私は冷徹宰相補佐と幸せになります〜

万里戸千波
恋愛
公爵令嬢リリエンは卒業パーティーの最中、突然婚約者のジェラルド王子から婚約破棄を申し渡された

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

公爵令嬢「婚約者には好きな人がいるのに、その人と結婚できないなんて不憫」←好きな人ってあなたのことですよ?

ツキノトモリ
恋愛
ロベルタには優しい従姉・モニカがいる。そのモニカは侯爵令息のミハエルと婚約したが、ミハエルに好きな人がいると知り、「好きな人と結婚できないなんて不憫だ」と悩む。そんな中、ロベルタはミハエルの好きな人を知ってしまう。

再婚約ですか? 王子殿下がいるのでお断りしますね

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のレミュラは、公爵閣下と婚約関係にあったが、より位の高い令嬢と婚約しレミュラとは婚約破棄をした。 その事実を知ったヤンデレ気味の姉は、悲しみの渦中にあるレミュラに、クラレンス王子殿下を紹介する。それを可能にしているのは、ヤンデレ姉が大公殿下の婚約者だったからだ。 レミュラとクラレンス……二人の仲は徐々にだが、確実に前に進んでいくのだった。 ところでレミュラに対して婚約破棄をした公爵閣下は、新たな侯爵令嬢のわがままに耐えられなくなり、再びレミュラのところに戻って来るが……。

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く

りこりー
恋愛
天真爛漫で笑顔が似合う可愛らしい私の婚約者様。 私はすぐに夢中になり、容姿を蔑まれようが、罵倒されようが、金をむしり取られようが笑顔で対応した。 それなのに裏切りやがって絶対許さない! 「シェリーは容姿がアレだから」 は?よく見てごらん、令息達の視線の先を 「シェリーは鈍臭いんだから」 は?最年少騎士団員ですが? 「どうせ、僕なんて見下してたくせに」 ふざけないでよ…世界で一番愛してたわ…

貴方との婚約は破棄されたのだから、ちょっかいかけてくるのやめてもらっても良いでしょうか?

ツキノトモリ
恋愛
伯爵令嬢エリヴィラは幼馴染で侯爵令息のフィクトルと婚約した。婚約成立後、同じ学校に入学した二人。フィクトルは「婚約者とバレたら恥ずかしい」という理由でエリヴィラに学校では話しかけるなと言う。しかし、自分はエリヴィラに話しかけるし、他の女子生徒とイチャつく始末。さらに、エリヴィラが隣のクラスのダヴィドと話していた時に邪魔してきた上に「俺以外の男子と話すな」とエリヴィラに言う。身勝手なことを言われてエリヴィラは反論し、フィクトルと喧嘩になって最終的に婚約は白紙に戻すことに。だが、婚約破棄後もフィクトルはエリヴィラにちょっかいをかけてきて…?!

処理中です...