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第23話
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イザベラの姿が見えなくなってから、気づけばもう数日が経っていた。そして、状況は何も変わらなかった。
グレースはイザベラの行方を案じて、気になるところを探してみたが見つけることは叶わなかった。どれだけ探し回ってもイザベラの影すら見つからなかった。
グレースは、国王陛下と王妃陛下、それにマックス王子から向けられた謝罪と、その裏に隠された何か得体の知れない圧力に重く心を沈ませていた。
イザベラの行方を問いただしても侍女たちは、皆揃って口を閉ざすか曖昧な言葉ではぐらかすばかりだった。宮殿全体を覆う不気味な秘密の気配。その霧は晴れるどころか、日を追うごとに濃さを増していくようだった。
グレースは、自室で何か思い悩んでいる様子で物思いに沈んでいた。その憂鬱そうな表情はなかなか晴れなかった。
あの両陛下の突然の態度の変化は何だったのか。そして、あの侍女たちの尋常ならざる怯えは何を意味するのか。
疑問が頭の中を駆け巡って答えは見つからない。重く閉ざされた王宮の扉のように、真実は固く閉ざされているように感じられた。
そんな張り詰めた空気の中、ある日の午後、些細な出来事が起こった。
グレースの身の回りの世話をする侍女の一人が、近くで衣類を畳みながら自分に言い聞かせるかのように、小さな声で何かを呟いていたのだ。その侍女は、以前から少し口が軽いところがあったが、基本的には慎重な人物だった。
だが、連日の緊張と秘密の重圧に耐えかねたのか単なる疲労からか、その時、箍が外れたかのように感情が流れだして止まらなくなった。
「……ああ、まったく、まさか、あんなに国王様にも王妃様にも、そしてマックス殿下にも、宝物のように大切にされていらした、あのイザベラ様がねえ……」
侍女は、ため息交じりにぽつりぽつりと語った。グレースは、近くの椅子に座って楽譜を眺めていたが、侍女の言葉に耳を澄ませた。
イザベラの名前が出た瞬間、グレースの全身に微かな緊張が走る。侍女は、グレースの様子に気づかないまま続けた。
「……あの、お腹に王家の血筋を宿されていると分かってから、触れると壊れるガラス細工のように扱われて、皆が競うようにお世話して……出産の後も、てっきり静かな場所で、殿下と赤ん坊と一緒に、心に満ちる幸せを味わいながら、ゆったりと上品に過ごされていらっしゃるものだとばかり思っていたのに……」
侍女はそこで言葉を切って、さらに小さな震えるような声になった。
「……まさか、今頃、あの冷たい湿った……牢獄に……」
その言葉を聞いた瞬間、グレースの全身から血の気が引いた。不意に静止して、目は楽譜の上で止まったままだった。世界から音が消え失せて、侍女の最後の言葉だけが、脳内で恐ろしいエコーのように響いた。
「牢獄……?」
グレースは、椅子から勢いよく立ち上がった。その動きに驚いた侍女は、持っていた衣類を落としてびくりと肩を震わせた。
「ひぃぃ」
侍女は、グレースの信じがたいものを見たような驚愕の表情に、一瞬で自らの失言に気づいて青ざめた顔で慌てて両手で口を覆った。瞳は恐怖に見開かれ小さく悲鳴を漏らした。
「あなた今、なんて言いました!?」
「ひぃぃぃぃぃーっ 」
「待ちなさい!」
「あぅ、あわゎ、ぅわああぅ…あぅゅぅ 」
グレースの声は、有無を言わせぬ鋭さを持っていた。侍女は逃げようとしたが、グレースは侍女の元へ足早に近づき、逃がさないと言わんばかりに詰め寄った。その態度は断固としていた。答えを聞くまで、決して引き下がらないという決意が感じられた。
部屋には緊張感が張り詰めた。錯乱状態になってしまった侍女はただ首を振って、かすれた意味不明な声を出した。それから涙を浮かべながら何も言えずにいる。
「イザベラ様が、牢獄にいらっしゃるのですか?」
グレースの鋭く責めるような視線に耐えられず、侍女は身をすくませて、うつむくことしかできず視線から逃れるように顔を伏せていた。
「知っているなら、本当のことを言いなさい!」
グレースは、早く真実を知りたいという思いが溢れていた。その態度は、侍女に圧力をかけ、白状させようとするかのようだった。身分の違いを感じさせる光景だった。
「どうしてそんなところにーっ!!!」
その声には焦りが混じっていた。侍女は、ただ震えるばかりで口を開こうとしない。しかし、その怯えた瞳と必死に口を塞ぐ姿こそが、何よりも雄弁に真実を物語っていた。
イザベラは、本当に牢獄にいるのだとグレースは確信した。その事実を突きつけられた瞬間、グレースは言葉にならない衝撃を受けた。頭の中が豪雨に打たれるが如く、グレースの思考は激しく掻き乱され、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
グレースはイザベラの行方を案じて、気になるところを探してみたが見つけることは叶わなかった。どれだけ探し回ってもイザベラの影すら見つからなかった。
グレースは、国王陛下と王妃陛下、それにマックス王子から向けられた謝罪と、その裏に隠された何か得体の知れない圧力に重く心を沈ませていた。
イザベラの行方を問いただしても侍女たちは、皆揃って口を閉ざすか曖昧な言葉ではぐらかすばかりだった。宮殿全体を覆う不気味な秘密の気配。その霧は晴れるどころか、日を追うごとに濃さを増していくようだった。
グレースは、自室で何か思い悩んでいる様子で物思いに沈んでいた。その憂鬱そうな表情はなかなか晴れなかった。
あの両陛下の突然の態度の変化は何だったのか。そして、あの侍女たちの尋常ならざる怯えは何を意味するのか。
疑問が頭の中を駆け巡って答えは見つからない。重く閉ざされた王宮の扉のように、真実は固く閉ざされているように感じられた。
そんな張り詰めた空気の中、ある日の午後、些細な出来事が起こった。
グレースの身の回りの世話をする侍女の一人が、近くで衣類を畳みながら自分に言い聞かせるかのように、小さな声で何かを呟いていたのだ。その侍女は、以前から少し口が軽いところがあったが、基本的には慎重な人物だった。
だが、連日の緊張と秘密の重圧に耐えかねたのか単なる疲労からか、その時、箍が外れたかのように感情が流れだして止まらなくなった。
「……ああ、まったく、まさか、あんなに国王様にも王妃様にも、そしてマックス殿下にも、宝物のように大切にされていらした、あのイザベラ様がねえ……」
侍女は、ため息交じりにぽつりぽつりと語った。グレースは、近くの椅子に座って楽譜を眺めていたが、侍女の言葉に耳を澄ませた。
イザベラの名前が出た瞬間、グレースの全身に微かな緊張が走る。侍女は、グレースの様子に気づかないまま続けた。
「……あの、お腹に王家の血筋を宿されていると分かってから、触れると壊れるガラス細工のように扱われて、皆が競うようにお世話して……出産の後も、てっきり静かな場所で、殿下と赤ん坊と一緒に、心に満ちる幸せを味わいながら、ゆったりと上品に過ごされていらっしゃるものだとばかり思っていたのに……」
侍女はそこで言葉を切って、さらに小さな震えるような声になった。
「……まさか、今頃、あの冷たい湿った……牢獄に……」
その言葉を聞いた瞬間、グレースの全身から血の気が引いた。不意に静止して、目は楽譜の上で止まったままだった。世界から音が消え失せて、侍女の最後の言葉だけが、脳内で恐ろしいエコーのように響いた。
「牢獄……?」
グレースは、椅子から勢いよく立ち上がった。その動きに驚いた侍女は、持っていた衣類を落としてびくりと肩を震わせた。
「ひぃぃ」
侍女は、グレースの信じがたいものを見たような驚愕の表情に、一瞬で自らの失言に気づいて青ざめた顔で慌てて両手で口を覆った。瞳は恐怖に見開かれ小さく悲鳴を漏らした。
「あなた今、なんて言いました!?」
「ひぃぃぃぃぃーっ 」
「待ちなさい!」
「あぅ、あわゎ、ぅわああぅ…あぅゅぅ 」
グレースの声は、有無を言わせぬ鋭さを持っていた。侍女は逃げようとしたが、グレースは侍女の元へ足早に近づき、逃がさないと言わんばかりに詰め寄った。その態度は断固としていた。答えを聞くまで、決して引き下がらないという決意が感じられた。
部屋には緊張感が張り詰めた。錯乱状態になってしまった侍女はただ首を振って、かすれた意味不明な声を出した。それから涙を浮かべながら何も言えずにいる。
「イザベラ様が、牢獄にいらっしゃるのですか?」
グレースの鋭く責めるような視線に耐えられず、侍女は身をすくませて、うつむくことしかできず視線から逃れるように顔を伏せていた。
「知っているなら、本当のことを言いなさい!」
グレースは、早く真実を知りたいという思いが溢れていた。その態度は、侍女に圧力をかけ、白状させようとするかのようだった。身分の違いを感じさせる光景だった。
「どうしてそんなところにーっ!!!」
その声には焦りが混じっていた。侍女は、ただ震えるばかりで口を開こうとしない。しかし、その怯えた瞳と必死に口を塞ぐ姿こそが、何よりも雄弁に真実を物語っていた。
イザベラは、本当に牢獄にいるのだとグレースは確信した。その事実を突きつけられた瞬間、グレースは言葉にならない衝撃を受けた。頭の中が豪雨に打たれるが如く、グレースの思考は激しく掻き乱され、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
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