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第24話
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イザベラが牢獄にいる――その事実は、グレースの心の平穏を根底から覆した。頭の中は、嵐に巻き込まれたように激しく掻き乱されていた。
「マックス様の子供を身ごもって、あれほど両陛下に、王宮中の皆に、宝物のように大切にされていた、あのイザベラ様が……どうして、牢獄に……?」
そのあまりにも強烈な落差が、グレースの思考を麻痺させた。王族の血を宿した身ごもった女性は、王家の未来そのものとして、最大限の保護と敬意をもって扱われるべき存在だ。
イザベラは、あの出産時に起こった問題まで、その存在だけで宮殿の空気を変えるほどの絶対的な庇護下にあった。出産を終えて公の場から姿を消したとしても、それは当然の配慮であり、別の安全な場所で生まれたばかりの赤ん坊と共に、穏やかで満ち足りた日々を送っているのだとばかり信じて疑わなかった。
それが、冷たい石壁に囲まれた薄暗く湿った牢獄に閉じ込められているなどとは、悪夢ですら想像しなかった現実だった。そのあまりにも悲惨で常識外れの現実に、グレースの心は深い困惑と言いようのない恐怖に包まれてめまいがするほどだった。
「イザベラ様に、何があったというの? 王家にとって、あの何よりも大切だったはずの彼女が、なぜ、こうも一転して粗末に扱われることになったの?」
このままではいけない。真実を知るためには、牢獄に囚われているイザベラ自身に会って話を聞くしかない。侍女の口から零れた情報は、断片的で衝撃的だった。宮殿に張り巡らされた秘密の核心に触れるには、イザベラと直接対峙するしか道はないとグレースは決意した。
まず、グレースはマックス王子に面会を求めた。彼は、両陛下との間のぎこちない空気とは異なり、グレースに対してはどこか罪悪感を抱きつつも、以前のような親愛の情を示そうとしているように見えた。グレースは、単刀直入に切り出した。
「マックス様、お願いがございます」
グレースの声は、内面の動揺とは裏腹に、不思議なほど落ち着いていた。
「グレース? どうしたんだ? 何か望みがあるなら、遠慮なく言ってくれ。君のためなら、僕はできる限りのことをしたいと思っている」
マックスは、疑念を抱いた顔で首を傾げながらグレースを見つめた。マックスの言葉には、過去の罪滅ぼしをしたいという気持ちが滲んでいるようだった。
「イザベラ様と、お会いしたいのです」
グレースは、迷いなく告げた。その瞬間、マックスの顔色が一変した。触れてはならない不浄なものに触れられたかのような、明確な嫌悪感と動揺が浮かんだ。彼の親愛めいた表情は、一瞬で凍りつき険しいものに変わった。
「イザベラだと? なぜだ、グレース?」
「少しお話ししたくて」
「悪いけど、それだけは…」
「何としてもお話ししたいのですが?」
「あんな女に会う必要など、君にあるはずがないだろう?」
「少しお聞きしたいことがありまして…」
「な、なにを聞くつもりだ!?」
「ご出産のことについて、でしょうか?」
「無理だ! 断る!」
イザベラと、ぜひとも話したいという強い願望を丁寧かつ控えめに伝えているが、マックスの声は硬くグレースの願いを一刀両断するかのように一蹴した。
最後のマックスの声は怒っているかのように聞こえ、その声を聞いたグレースは、それ以上何も言えなくなった。その否定の言葉には、隠しきれない感情がこもっていた。
(なぜ、そんなにも取り乱すの?)
マックスは、その場の和やかな雰囲気に水を差した。マックスの表情は荒く、理性を失っているかのようだった。恐ろしささえ感じさせた。
柔らかく尋ねただけなのに、マックスの怒りようは全くもって普通ではなかった。その異常な怒りを見たグレースの心に湧いた感情は、不審感ただ一つだった。
「マックス様の子供を身ごもって、あれほど両陛下に、王宮中の皆に、宝物のように大切にされていた、あのイザベラ様が……どうして、牢獄に……?」
そのあまりにも強烈な落差が、グレースの思考を麻痺させた。王族の血を宿した身ごもった女性は、王家の未来そのものとして、最大限の保護と敬意をもって扱われるべき存在だ。
イザベラは、あの出産時に起こった問題まで、その存在だけで宮殿の空気を変えるほどの絶対的な庇護下にあった。出産を終えて公の場から姿を消したとしても、それは当然の配慮であり、別の安全な場所で生まれたばかりの赤ん坊と共に、穏やかで満ち足りた日々を送っているのだとばかり信じて疑わなかった。
それが、冷たい石壁に囲まれた薄暗く湿った牢獄に閉じ込められているなどとは、悪夢ですら想像しなかった現実だった。そのあまりにも悲惨で常識外れの現実に、グレースの心は深い困惑と言いようのない恐怖に包まれてめまいがするほどだった。
「イザベラ様に、何があったというの? 王家にとって、あの何よりも大切だったはずの彼女が、なぜ、こうも一転して粗末に扱われることになったの?」
このままではいけない。真実を知るためには、牢獄に囚われているイザベラ自身に会って話を聞くしかない。侍女の口から零れた情報は、断片的で衝撃的だった。宮殿に張り巡らされた秘密の核心に触れるには、イザベラと直接対峙するしか道はないとグレースは決意した。
まず、グレースはマックス王子に面会を求めた。彼は、両陛下との間のぎこちない空気とは異なり、グレースに対してはどこか罪悪感を抱きつつも、以前のような親愛の情を示そうとしているように見えた。グレースは、単刀直入に切り出した。
「マックス様、お願いがございます」
グレースの声は、内面の動揺とは裏腹に、不思議なほど落ち着いていた。
「グレース? どうしたんだ? 何か望みがあるなら、遠慮なく言ってくれ。君のためなら、僕はできる限りのことをしたいと思っている」
マックスは、疑念を抱いた顔で首を傾げながらグレースを見つめた。マックスの言葉には、過去の罪滅ぼしをしたいという気持ちが滲んでいるようだった。
「イザベラ様と、お会いしたいのです」
グレースは、迷いなく告げた。その瞬間、マックスの顔色が一変した。触れてはならない不浄なものに触れられたかのような、明確な嫌悪感と動揺が浮かんだ。彼の親愛めいた表情は、一瞬で凍りつき険しいものに変わった。
「イザベラだと? なぜだ、グレース?」
「少しお話ししたくて」
「悪いけど、それだけは…」
「何としてもお話ししたいのですが?」
「あんな女に会う必要など、君にあるはずがないだろう?」
「少しお聞きしたいことがありまして…」
「な、なにを聞くつもりだ!?」
「ご出産のことについて、でしょうか?」
「無理だ! 断る!」
イザベラと、ぜひとも話したいという強い願望を丁寧かつ控えめに伝えているが、マックスの声は硬くグレースの願いを一刀両断するかのように一蹴した。
最後のマックスの声は怒っているかのように聞こえ、その声を聞いたグレースは、それ以上何も言えなくなった。その否定の言葉には、隠しきれない感情がこもっていた。
(なぜ、そんなにも取り乱すの?)
マックスは、その場の和やかな雰囲気に水を差した。マックスの表情は荒く、理性を失っているかのようだった。恐ろしささえ感じさせた。
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